第百十八話 「吼竜の谷 Ⅴ」 一部修正
「答え判ったかの?」
「んが? ああ答えは判ったが…守護者がどこにいるやら」
それらしい道も無く、完全に此処で行き止まりだ。 …守護者はどこにいる?
ここに来るまでに居たのか? まさかイグナが? …それは無いだろう。 まさか…。
イストに視線を移して再び祭壇に戻す。 イストがここの守護者? これも違う。
…いやまてよ。 あの道中にヒントを残す手口…二段構えが多いこの癖。 リーシャだな。
守護者は恐らくリーシャだろ、魔力を使ったトラップが無いが…罠の癖が似通っている。
イストが誰か判ったのか聞きながら覗き込んできたので、俺は地面に潜りつつリーシャだと伝えつつ
祭壇の腹の下へと行く、そして周囲に転がってる気にもしない小石を拾い、それを地面の仕掛けだろう
それに耳をつけて軽く叩く…やはり中が空洞だな。 それを確認して小石で叩き割ると…お宝が出てくるが
まずその周囲確認、まだ良くわからないので更に隠していたカバーを丁寧に叩き割っていく。
ゆっくりと、カバーのみ丹念に、そしてほぼ取り除かれると…明らかに仕掛けだこりゃ。
多分に、あの時の祭壇と同じ仕掛けだろう、ほれあの水天の祭壇の奴。 あれと同じく重量の…。
さーて…今度はそうはいかんぞ。 水天の重みはしっかり覚えている…腰袋から皮袋を取り出し、
小石を叩いて砕き、砂にして砂袋に手に残った感覚…重量を頼りにソレを入れていく。
だが、所詮目分量だ。失敗するのは目に見えているワケだ…。 だもんで俺は一度腹ばいで方向転換して
祭壇の下から這い出てて起き上がり、大きく伸びをしてイストにリンカーフェイズを解いて貰う。
そして、そのまま壁の方へと歩いていき、座り込んで軽く天井を仰いで待つ事になる。
何をしているのか、そうイストが尋ねてきたが…まぁホレ。 イグナは魔人単体で駐屯地に戻るまで時間がかかる
そして、撤退するのにも相応に時間がかかる。 それを待つ必要があるワケだ。
「敵になるつもりなのか、味方なのかどっちじゃ主は」
「お前がそれを言うか? ケルドさん」
必要なんだよ、アイツ等は。こんなトコで死なせたら駄目なんだ。 人間状態になり座り込んだ俺にイストが
覗き込んで色々と尋ねてくる。 …時間も出来たし少し答えてやるか…いや、まだだ。
「どの辺りから主は、ワシがケルドじゃと気付いた?」
んだ~、しつけぇしつけぇ。 俺も思考領域が広がりすぎて考え難くなってきてんだよ。
まるで砂漠に放り込まれた様だわ、右も左もわかりゃしねぇ…。
「すまんが、まともに考えられなくなってきた…」
俺の隣に寄り添う様に座り込んでくるが…ええい暑苦しい。 いつだったか、それがもう分からなくなってきた。
例えるなら昨日の晩飯なんだった? あれ…なんだっけ。 ああ言う具合だ。 完全に脳が耐え切れなくなって
記憶障害出てきているようだ。
「ケルドは興味深い奴の隣に常に居ただろう? で、俺に最後に後悔するぞと、
実行すると踏んだ俺の行く末の隣ったら…お前だろ」
大きく溜息を吐き、イストの頭を撫でて追加でそうじゃなくてもお前は隣にくる必要あったかも知れないがな…と。
…。 残りの氷極の姫君だっけか、アレが問題だ…。 氷に何で薔薇なんだ? …いや。
確か大陸でそんなとこがあったな…、氷山地帯?と火山地帯が一緒にある所が…頭いてぇ。
そして確か眠りについて…別の安らぎを与えてくれる奴を探している。
コイツは恐らく、倒す必要がありそうだ…。一応イストは知ってるだろうが、俺が忘れてしまわない様、
それをイストに伝えた。 場所はこいつのが詳しいだろうコイツはゲーム知識皆無だが、
その分地理やらまぁ、インテリなんだろう。 悪かったなゲームヲタで…とあの蔦の時の遅いツッコミで
イストの頭を軽く叩いて言った。
「遅いのじゃ。 まぁ…その手の知識ワシ全く無いからの」
さいですか。 だからかよ…全く。 そのまま、俺はイストを軽く抱き寄せて、
少し寝ると…目を閉じた。
「ん…頭が痛い…ふう」
目が覚めたが、寝起きか目がボヤけて喉が渇く…あー。水筒がわりにしている入れ物に水のこってたかな…と。
おお、あったあっ…。 イストに飲ませておくか。 どれくらい時間がたったのか、確認する手段が皆無
なんだよな、さてまぁ…そろそろいいか。 隣で一緒に寝ていたイストを揺すって起すと、目をこすりながら
こちらを向いている。 まぁ…寝起き悪いからな。
「ほれ、水のんどけ。 こっからちっと激しいぞ」
「う、うむぅ…」
ボケた答え方しやがって、ボケかけてんのコッチだってのに。 さーていきますかぁ。
水の入っている入れ物に口をつけて飲んでいるイスト。その横で立ち上がり大きく背伸びをする。
飲み終わったのか、俺に入れ物を渡して…んだ全部のんで…。ああ、半分残しててくれたのか。
俺も残りを飲み干して、イストの右手を引っ張って立ち上がらせる。
「さて、巧く脱出できますかね」
「モグラとか土を掘る生物使えばよかろ?」
持ってません! と嘘をついても楽しみたい俺が、イストに背中をむけて顔でニヤついていた。
一度ぐらいはやりてぇよ! 危機一髪の脱出劇とか…自分からそれに突っ込むのもどうかと思うが。
一応あのトラップ回避用の砂袋は、真面目にやっているが、目分量だ。どう考えても失敗する。
そして、四本足…、おそらく四段階に分けて噴火だか崩壊するんだろう。
先ず取る前に脱出経路を考えないといけない。 最短ルートを選択しないと悲惨だ。デッドエンドになる。
その場で腕を組んで考えているとイストが覗き込んで、同じ事を考えていたんだろうな。
最初の三つの穴の、急な坂になる前の高さ。アレをどうするか…両手足を広げていくか?
カメレオンを使えばさっさと上れるが…つまらんだろう。 いやつまらんとかで死ぬのもアレだが…。
やはり楽しみたいんだ、折角此処に来た意味が無い。俺個人的な意味合いで。
「良し! 鷹一本で行く」
コイツで十分だ、流石に死んだら洒落にならんからな。 来世でリーシャに何言われるか。
イストにそれを言うと、俺の胸元に手を当てていつもの言葉を言うと、足元から影に包まれて
輪廻から引っ張り出してきた鷹。ホークマンになった俺が影を取り払って出てくる。
「はぁー…コイツとフェンリルだけだよな。 まだ容姿がマシなんは」
虎とかもいるが…使い所が無いんだよ。 戦闘ならゴリラとかのが馬力あるしな。
「さて、いくか!」
そう言うと、蜘蛛型祭壇の腹の下へ潜り込み、天石の傍へと這い寄る。 そのまま用意した砂袋と天石
それをほぼ瞬間的にすり替えて、そのままの姿勢で勢い良く後ろへ後退し、転げながら腹の下から出て立ち上がり
出口への亀裂へと滑り込んだ。 イストは背中に潜り込んでしがみついている。
そのまま勢いよく亀裂を這って進むが…思わぬ誤算! 翼が邪魔で中々すすめねぇ!!
だんだん地響きが聞こえて、僅かながら地面が揺れ出している…。 ウギャー計算ミス!!!
痛いのを我慢して、無理矢理這って進みなんとか亀裂から、溶岩の所へと顔を出…。
「ぶわーっ!」
「ひぎゃぁぁぁっ!」
ひぎゃあってお前…。 亀裂から顔を出した瞬間、祭壇のトラップが動いたんだろう。
順番に崩れると思ったら、いきなりそのまま地面に倒壊しやがったらしい。
その爆風と土煙で、俺達は溶岩の海の真上に放り出される。イストは背中に張り付いている感触がある
その点は問題無い…。
「こんちくしょおらぁぁっ!!」
空中に放り出されながらも、一緒に爆風に巻き込まれて浮いている蔦。 それを掴む。
掴んだのはいいが今度は、振り子の原理だったか? そんなカンジのそのアレだ!
潰れたトマト状態になりそうな勢いで、折角買ったカウボーイハットを飛ばしながら壁に勢い良く近づく。
こう何? 目の前に集中線が本当にある様な錯覚と共に勢い良く…だがゆっくりと感じる程に壁が迫る。
「うぉぉっ!!」
どうするもこうするも…こうするしかネェだろ! まだ再生してない傷ついた翼。
それ広げつつブレーキをかけて、鈍い音と共に中腰になりつつ両足の裏を同時に壁に叩き付け、
そのまま膝を付いて衝撃を膝に移し更に体を捻って肩から転がり背中に逃がしつつ、
立ち上がる様に体を起す。
その間がっしりと蔦を握っていないと死ぬワケで蔦が変に絡まっているが…。
「ぷぎゅぅ」
ん? しまった! 五点着地だったか? なんかそんな名前の降下術つか着地する方法あったよな!
それを見よう見真似でやったはいいが…何か忘れていた様だ。
「すまん! 忘れてた!」
虚け!!と怒鳴り声を発しているあたり平気そうだ、急いで俺はなんとか着地できた所から蔦を握りしめ、
壁を蹴飛ばしてから握力を緩め滑り降り、一定間隔でそれを繰り返し出口の傍へと行く。
…問題はここだ!! このトラップ! 周囲を見回し何か無いか確認するが…無い!
然し強行突破したらトラップ踏んで押し戻される。…くそうリーシャ!!!
帰り道を難攻不落にしやがったのか!!! 何か見落としていないか? …壁。
そうかよ! …うおっ。また地響きが…次はあの溶岩が増えてきそうだぞ噴火で…。
振り返ると案の定、溶岩のかさが増してきている。 しかし先は水…。
「岩じゃなくて水? そうかよ!!!」
「早く致せ! ワシも逃げ方なぞ知らぬ!!」
「分かってるよ!」