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第百十六話 「吼竜の谷 Ⅲ」

            


          「さ、どうするんだ?」

          「どうするったってよ…。 やるしか無いわな」

   どうにもならん…ここの天石は既にイグナさんが手に入れている。 倒して奪うしかない。

    この人は殺せない、必要だからだ。 …フェンリルを使うと殺してしまう…天石でも同じだ。

   動物パワーと無風活殺…無風活殺はこの人の力と相性が最悪だ。 だが…やるしか無い。

    イストがいるんでなんとかなるだろう。 視線をイグナさんから其処から入ってきたんだろう

   吹き抜けになり、月が覗いている天井へと向け、ここだと生き埋めになりかねないから外に。

    そう告げるとイグナさんが頷いた。 …なんとかして殺さずに倒さないとな。

   イグナさんを足に掴まらせ、そのまま天井を抜けて外へ出ると結構な距離だったんだろう。

    谷が遠くに見えている。この辺りなら多少暴れても平気か…。

   周囲を軽く見回すと、谷の上部が結構な範囲で平地になって、ところどころ岩が突き出ている。

    ここならいいか…そのまま地面に近づき、彼女を下ろすと俺も地面に降りた。

   この人の鞭は対空性能高いから、空は余計に不利だ。 近接戦に持ち込んで…イストと一緒に押し切る。

    それしか方法は無い…な。

          「さて…そろそろいいかい?」

   捕まえる気満々だなおい、理由を聞こうともしないのがこの人らしい。俺はそれに頷いて無構え…、

    無風活殺の構えをとり、イストは肩で警戒している。 異世界コンビだ、まぁ勝てるだろう。

   頷いた直後、彼女が大きく地面を蹴り気がついたら俺の足元で姿勢を低くかがみ込んでいた。

    …いきなり大味なモンやってくるなおい…いや。 下から振り上げられたのは右腕、

   俺の顎を明らかに狙っている…が、それの後に良く見ると左手が腹部を狙っている。

    こっちが本命だろうが…。 両手を使い、彼女の右と左の攻撃。

   両方の風を捕まえ、弾き返しすとそのまま身を翻して右足で蹴ってきた。

    それに対して体を開いて交わすと同時に、イストが小さい空気の塊をぶつける。

   彼女の右側面にソレがぶつかり、大きく後ろに吹き飛ばされるが…

    その空気の塊を右腕でガードしつつ、地面を引きずる様な後をつけて耐えていた。

         「少しはやるようにはなったねアンタ」

         「相変わらず、見た目と攻撃のスタイルが合ってネェ」

   そう、見た目パワーに偏った人に見えるが…フェイントを使いまくるワケだこの人は。

    フェイントを使いまくる上で一撃の威力が高い。 洒落にならん強さなワケだ。

   だが、勝ち目はある。 俺が防御に徹してイストが攻撃すれば…。

    再びコチラに地面を蹴って突っ込んでくるが、目の前に来た瞬間右へと地面を蹴り移動し、

   その反動でまわし蹴りだろうか、それを放ってきた…今度は大味だな。

    そのまわし蹴りに巻き込んでいる風を捕まえて足を弾き返すと同時にイストが空気の塊をぶつけ、

   再び彼女を吹き飛ばすが…やはりガードされてダメージは見当たらない。

         「さて、…準備運動はもういいかい」

   だろうな…。 炎の鞭使ってねぇしまだ。 さて…うおぁっ!!

    彼女が右腕を振りあげると、下から油でも撒いていたかの様に火が走ってくる。

   慌ててそれを横に逃げると…既に彼女がそこに居て、火炎を纏った右手に胴を殴り飛ばされ、

    強く地面に叩きつけられ余りの威力に地面に叩きつけられた直後体が一瞬浮いた。

   鈍痛が腹部を襲い、内蔵がどっかやられたのか、口の中に血の味がしてくる。

        「げはっ…強えぇ」

        「どうしたい?」

   あかん…勝てる気がしねぇ。 カメレオンで姿を景色に溶け込ますか? …いやリンカーフェイズしている

    間に勝負は決まる…空中だと鞭に掴まる。 どうすりゃいいかねこりゃ。

   …いや、まともに戦えば勝ち目が無いなら…別の方法を取るか。

   体を起し、両手を腰に当ててる彼女をにらみ付けたまま、翼を広げて空中へと、

    その瞬間当然ながら火の鞭が襲ってくる。

       「イスト!」

   そう言うと、イストが空気の塊でその火の鞭を弾き返す。 そのまま鞭の射程距離外へと高く飛ぶ。

       「…そうくるかい」

       「一旦引かせて貰うわ! アンタに真正面からぶつかって勝てる気がしねぇ!」

   そのまま、一速にその場を去り吼竜の谷とは反対方向へと飛び去った。

    まだ夜が明けるまでは時間がある、まず見つかる事も無いだろう。

   なるべく大回りをして、谷を迂回し入り口周辺が確認出来る所へと戻ってくる。

    その時にはさっき気絶させた奴が気がついたんだろう、ちょっとした騒ぎになっている。

   まぁ、警戒が強まっても持ってる奴がイグナさんだからな。 それはもう関係無い。

       「のう…泥が乾いてパサパサして気持ち悪いのじゃが」

       「ん? おお…。じゃちょいと洗いにいくか」

   隠れて様子を伺っていた谷より、少し遠くにいくと泉がありそこで水を補給していた。

    が、結構近場でありアイツ等も利用している筈なので、ミニマム化したまま彼女を泉に押し込んで

    泥だけ洗い流すと、怒り出すわ暴れるわ手がつけられない。 

   洗濯完了したイストを連れて、再びあの亀裂に飛んで戻り焚き火を灯す。

    そして、リンカーフェイズを解いたイストがずぶ濡れになっているのを見て、

   服を無理矢理脱がし、俺の上着とマントを手渡し彼女の服を焚き火の近くに引っ掛ける。

       「なんという事をしおるか…」

   そのまま、イストを抱き寄せてやり冷えた体に体温を分けつつ考える。

    余りの事に失念していたが、あの石が天石だと言う確証が無い。

   守護者はリーシャの一件で居る事は知ってるからな…一度、奥まで行く必要がある。

    あの向こうの罠かなんかでイグナさんも足止め食っていた。そして俺達が着たので騙した。

   そう言う事も十二分に考えられる。それの確認の為に一度逃げる必要があったからな…。

    もう少し時間を置いてから、見に行ってみよう帰る準備をしていなければそれは正解だ。

   何故か? イグリスに持ち帰った方が確実に俺を姐御に会わせられるからだ。

    ん? やっぱ寒いのか…仕方ネェな。 イストを腹の前に抱え込んで背中から抱きしめると

    やっぱ相当冷えてるんだろう体が子供だからなそのまま包み込む様に抱きしめておく。

       「…何を致すか…」

       「少し寝とけ」

   夜明けでいい…あれだけの駐屯地を片付けるのは、この闇夜じゃ骨が折れる。

       多分に戻るとすりゃ、明け方だろう。 リンカー達も疲れが見えていたしな。

   コイツ…寝起きは悪いが寝つきは恐ろしくいいな。 もうヨダレ喰って俺の右腕に頭つけて寝てやがる。

    それも幸せそうな顔でまぁ…ああ、成る程。 いままでずっと一人だったからな。

   俺と泊まったときに警戒してる様な言動の数々。 ありゃ警戒してたんじゃなく、

    人の温もりが欲しかっただけか…、が一応まだやる事がある。その葛藤でガイトスの時あんな

    ゴロゴロとワケの分からん動きしてベッドから落ちてたのか。 はぁ…。

       (何と弱い生物か)

   お前もお前で大概に素直じゃないなオイ。 お前は弱い奴には見向きもしねぇ…

    だからだろ? イストとあの時砂漠の一件で会った時。お前なら分かっていた筈だ。

    それを分かってイストも俺の影に隠れて怯えていた。

    神以外、余程の事が無い限り決して力を貸さなかった。 

   お前は弱い者は絶対に牙を向けない。知恵を持った狼。 違うか?

    ま、まだまだお前について分からん部分も多いが…聞くほど悪い奴にも思えない。

       (…買い被りだ)

   ま、そう言うことにしとくか。 …だが、こんな弱い奴が自分の月を自ら捨てた強さも持っている。

    それだけは分かるだろ? お前は色んな意味でアホみたいに強いが、コイツは違う。

    苦しみもお前なら分かるだろ? そして、その先、お前がコイツを喰い殺した先に何があるのか。

    それを考えていてくれよ。 ま、こっちの勝手な言い分だ、それでお前の怒りが治まるなんざ微塵も

    思っちゃいネェ…だから、お前に新しい月を与えてやる。それが何か…そりゃお前自身も

     あの時に見えてたんじゃないか? だから神以外でも…

       (…考えておく)       

   ああ、頼むわ。 見ろよマヌケ面して幸せそうに寝てやがる。 また嫁さんの夢でも見てんだろう。

    この夢だけが、こいつの今までを支えてきたんじゃネェか。 そう思える。

   はぁ、…難儀なモンだ。 考えれば考えるほど…リーシャの考えが読めてくる。

   俺の今までの考えのドコが誤りでドコが正解か…こりゃ時間が無さそうだ。

   ったくよ…イライラしてきたな。 考えるのはよそう、少しでも思考領域の広がりを抑えるんだ。

   少し温まってきたか、イストが少し寝汗をかいているが…このまま抱きしめてやるか。

    野郎だがまぁ精々セアドと錯覚してマヌケ面して寝かせとこう。


   その明け方、俺達は再び吼竜の谷に向かうと、やはり駐屯地はそのままであり、

    片付けたり、撤退の準備をする様にも見えない。 やはりアレはフェイク、まだ見つかっていない。

   再び、亀裂に戻り夜を待ち、あの吹き抜けの天井付近へと来ていた。

    空を見上げるとやや曇り空で月明かりを遮っている。 鷹からカメレオンへと変わり、

   その竪穴の壁を這い降りると、イグナさんが立ちながら腕組んで壁に寄りかかり寝ている。

    バレるとヤバいのでこっそりと、音を立てずに静かに奥へと天井を這って進んでいく。

   暫くすると、視界が闇に遮られたのでフクロウになり、ほのかに光る多分コケだろう。

    それを頼りに狭い横穴を中腰で進んでいく。 そして、少し道が開けたかと思うとその先に

   三つの縦穴に分かれていた、周囲は小部屋で仕掛けの様なモノは無いが…。

    よく見ると少し古いが、読める文字が書いてある。 正しき道。

   三つの縦穴、どれも翼を広げて降りられる様なモノじゃない。風を見てみると、

    真ん中に弱いが一応こちらに吹いてきて、左はこちらに強く吹いてくる。

    右は…吸い込んでいるな。 さて、正しき道。 

    羽を広げて降りられる隙間じゃネェな…正解を選ばないと即死か? 面白いじゃないか。

        「それはじゃ…なにをすぶっ」

   答え知ってるだろうコイツは、だので無理矢理口を押さえつけて羽毛に押し込むと、

    手をひっかいたり殴ったりと、ええい!! 俺の楽しみは何人たりとも奪わせはせん!!


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