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第百十五話 「吼竜の谷 Ⅱ」

          


       「な…何を致すのぶぁふっ」

  嫌がって逃げようとするイストを捕まえて、持ってきていた水を入れている容器。

   地面を軽く砕いて水をかけ泥にしたものをイストにこれでもかというぐらい塗りつける。

  必死で嫌がって逃げようとするが、鷲掴みにして顔・体・腕・足見事に泥だらけだ。

   ある程度接近したが、これ以上はイストが見つかる。 

  俺は忍者といえるべき生物にリンカーフェイズしている。 

   カメレオンだ、隠れて移動するにはもってこい…だがやっぱり見た目がなぁ…。

  両目を器用に片方ずつ別方面に向けられ、視野が恐ろしく広い。 

   それで周囲の色に溶け込んで匍匐全身で進んでいるが…イストがそうでないからな。泥を塗っている。

       「べちゃべちゃじゃ…」

  すっげぇ嫌そうなな顔で自分の体と手足を見ている…まぁ、気持ちは分かる。

   視野といえば、そう。破術、これもなんだが結局の所、

  リーシャが俺にどういう物なのか具体的に教えなかった。これもその視野が原因だ。

   視野というか思考領域。脳の考える力をアホみたいに広げるモノで、一気にそれを広げると

   脳が耐え切れない、だからジワリジワリと広げていくよう水天の封印を解くと同時に

   俺にこっそり授けたワケだ。 アイツはへそ曲がりだが、授けると言ったらキッチリ授ける。

  正直な所、頭の中で色々処理が激しすぎて手に余る。 ま、そりゃいいとしてだ。

  酔いどれ竜の後のリンカーフェイズで分かった事…ゆっくり移動してて暇だから聞いとくか。

   聞こえてんだろ? なんでイストを喰わなかったよ?  フェンリル。

    (…何の事だ? 我は寝ていて何も見ていなかったが)

  かー…こいつもツンデレだったのか。 …ま、天石見つけるまで、もう少し考えててくれや。

   お前が復讐を果たした先に何があるか。  お前の月は戻らんだろうが…

   別の月をお前はあの時に見ただろう? そして…飛鳥がどれだけ苦痛に耐え続けていたか。

   この天石探しの理由の一つは、お前に考えさせる為でもあるんだ。

    (…破術か。 ロキの力に似ている…心を読むか)

  いや、違う。 単純な話だ、狼が月に吼える理由は? 月の女神は? お前があそこまで怒った理由。

   飛鳥の行動を照らし合わせりゃ答えは一つだろ。 それにお前は馬鹿じゃない、賢い狼だ。

    ( …。貴様はどこへ行く? その力を持って何をする?)

  お前もかよ…。 ま、ソイツが見たけりゃ俺の言う事を聞け。お前の月に代わる安らぎを与えてやる。

    (我に月をだと? …今度の取引は嘘も無く興味深い…良かろう。 

       いつでも呼べ。 貴様に我が力…一片の惜しみもなく貸してやる。 

       …だが我の怒りは月を奪われただけでは無い、それだけは伝えておこう)

   そう、全て…必要だ。強力であればあるほど良い。

   で…まだ何かエグい事されてたのかよ…。 ま、そいつは流石に分からない。

       時が来れば教えてくれ。 さて…そろそろ用心して進むか。 

  谷の合間では無く、右の谷の上を匍匐全身で周囲の景色に溶け込みつつ、

   音を立てずゆっくりと確実に這って進んでいくが、たまに頭の上を竜系やら悪魔系のリンカーが飛んで

   行く、その度に顔に冷たい汗が伝う…お? こっち側だに監視のリンカーが一人…ガーゴイルか何かか。

  良し折角だし…な。 静かにゆっくりと音を立てず、崖っぷちに立っているリンカーの背後ま…うほ。

   周囲見回しただけか…おい。 アクビしてんじゃねぇよ!! ったく油断し過ぎ、隙だらけだ。

  相方に至っては肩で寝てやがるじゃないか。 …姐御もちっと教育方針見直した方がいいんじゃないか。

  まぁ、いいか。そのまま、ゆっくりと真後ろまで這いより、もう一度アクビするのを待つ。

   アクビした瞬間を狙って立ち上がり、そのリンカーの首を後ろから締め上げ、血液と酸素を一時的に脳に

   行かなくさせ、声も出させずに気絶させる。 倒れ込むリンカーを抱え込むと同時に寝ている相方も捕まえると

   そのまま、崖の岩場にこっそりと隠す。 暫くは起きてはこまいてな。スネ…んだよこっち見て。

      「主…何故素通りせずにわざわざ…」

      「いや、やった方が格好いいだろ?」

  うーわー…わざわざ回り込んできて、すっげぇ呆れた顔で覗き込んできやがった。

   いいじゃねぇか、ちょっとぐらい…後はダンボールあれば完璧なんだが…無いよな流石に。

  妙な溜息を一つ吐いて、再び谷間に灯っている火の届かない闇を這って進み続ける。

   風が強くなってきたな…風が吹き荒れる…ここからか。 一度崖から谷間を覗き込むと、

  うーわー…入り口っぽいつか、何かが吼えてる様な岩の入り口があるな。

   リーシャ・ヴァラン。 さて…次の守護者はなんじゃらほい…と。

      「どうするのじゃ? あの数」

  ふふん、この手の生物を舐めたらいけんぜ。 忍者というのは伊達じゃない。

   そのまま、火の光の届かない部分の崖を張り付いて斜め下に降りしていく。

   ヤモリやイモリもそうだが…こういう隠密は便利だな。 

  …シャドーストーカーがいるかもしれんから…気をつけないとな。 ありゃ本当に厄介な能力だ。

   そのまま、谷間の底におり、リンカーにバレ無い様にこっそり…と岩陰から岩陰へ這って進む。

  そして、反対方向の崖にへばりつき、入り口の岩の影に移動し、岩の天井からスルリと入り込む。

   ちょっと冷や汗モンだったが…どうやら巧く潜入出来たな。

  然し暗いなおい、中は無防備なのか? …いや罠があるから迂闊に入れないのか。

   ここから光も無く真っ暗闇だな…、夜目の効く…あんまりなりたくは無いが…。

  小声でイストにリンカーフェイズを解いて貰い、別の動物へと…夜目が利くといや…フクロウ。

   こいつの夜目の利きっぷりはハンパネェ。 が…。

      「フクロウじゃな…マヌケ面に拍車がかかって寸胴じゃな主」

  …へぇへぇ。 寸胴に寸胴言われちゃ世話ネェよ。 さてさて…やっぱ天然の洞穴だな。

  霊宮と違って人の手が加えられた様な形跡がまるで無い、が。天石があるという事は…。

   罠を仕掛けてるか、何かしらやっちゃってくれてる筈なだわ。

  周囲はまぁ、特に目ぼしいものもない鍾乳洞になっているが…イストに魔力を感じるか尋ねてみたが、

   首を横に振ったな。 暗闇で何も見えないのか、俺の背中でもぞもぞやっている。

  妙にくすぐったいんだよな。 さて…魔力反応無し、見た所それっぽい罠も無し…か。

   更に奥に進んでいくと、だんだん狭くなっ…冷たっ。 なんだよ…。

  うへぇ…アイツ等が中に居ない理由が分かった。 ここで行き止まり…つか地底湖ってやつだろう。

   泳いで行くか、飛んでいくか…天井は岩つかツララみたいな岩が垂れ下がりまくって危ないな。

  然し、泳ぐと俺はいいが…イストがなぁ。 飛ぶしかないな。 なるべく静かに翼を羽ばたかせ

   風を地面に叩きつけて、体を浮かせて飛び岩に注意して壁伝いに飛んでいくと…結構な距離だな。

  まだまだ地底湖は続いている。 十分か、二十分か…それぐらい飛んでいくと、

   ようやく見えたな。 反対側の岸に穴が一つポッカリ開いている。

  そこに飛んでいき、降りてから中に入った…今度は狭いな。頭打ちそうな上に岩肌が鋭い。

   切らない様に気をつけて、壁に手を当ててゆっくりと中腰で進む。 にしても罠ネェなぁ。

  ま、リーシャの罠がアレ過ぎたからな、あんまり強烈なんあっても困るワケだ。

   リーシャといや、アイツが若返っていく本当の理由もようやく分かった。

  コイツは人が扱える力じゃねぇ…時間が無さそうだ。なるべく早く集めておかないとな。

  そのまま、ゆっくりと…けれど急ぎつつ中腰で進んでいく。 そうすると月明かりが入り込んでいる

   広めの場所に出てきた。 姿勢が辛かったのか、俺は一度背伸びをすると、月明かりに誘われたのか、

  イストもヒョッコリ顔を出してきた。 さてさて、お宝はここにあるのかなと…。

   結構岩が多いが、それっぽいものも見当たらず…。

       「ようやく来たかい? アンタさ、シアンをあそこまで怒らせて何してんだい」

   月明かりの影に隠れていたんだろう。そこから聞きなれた声、姐御に次いで出会いたくない強敵。

    そういや、天石のありかを教えて貰ったのも…イグナさん。 

   ぐぁー!!! よりによって近接系精霊術師。 それも格闘技術に長けた人であり…ぎゃー!

    影からゆっくりと出てきて、軽く茶色の蓬髪をかきあげてから…睨んでる! 怒ってる!!

       「よりによってイグナさんかよ。 …だが倒させて貰うわ悪いけど時間が無い」

   そう言うと、イストにリンカーフェイズを解いて貰い、鷹へと。鷹も何気に攻撃力は低いが、

    イグナさん飛べないからな。戦い様によっちゃなんとかなる…かもしれない。

   いや、それ程に強いんだよ!! 実際やりあったから!! はぁ…。 大きく溜息をついた後に

    大きく羽ばたき、翼で風を作り飛んで一度空中へ…と行こうとした瞬間、彼女に地面に蹴り倒された。

       「飛ばすと思ってるのかい?」

   倒れ込んだ後、背中をガスッと踏まれ、上から睨みつけられ…だめだ。勝てる気しねぇ!!!

       「邪魔じゃ!」

   ナイス!! 小型の空気の塊をイグナさんに向けてイストが放つと、イグナさんの右肩にまともにあたる。

    その直後大きく、姿勢を崩して姿勢を整えようとした隙に俺は空中へと。

       「一人じゃないもんで、悪いが倒させて貰うぞ」

   それに軽く笑って答えたイグナさんが、やってきやがった炎の…ありゃ? 焔の瞳じゃねぇな。

    ああ、加減しないと殺してしまうからか。 金貨200万枚…成る程ね。

   ま、この人も殺すワケにゃいかない。この人の強さも必要だ…このまま飛んで逃げるか。

    俺は、視線を奥へと向けると、イグナさんが右腕を掲げて一つの石を見せてきた。

       「ちょ…俺の楽しみ…」

       「ここの守護者に話はつけてきた。 コイツが欲しけりゃアタイを倒すしかないさ」


   ひでぇ!! 半端な罠やらより嫌な事になっちまってるじゃないかおい!!!

                  …どうするよ、ヘタなボスより強いんだがこの人。

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