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第百十四話 「吼竜の谷 Ⅰ」 最終幕開始

          


        「さて、どう進入すりゃいいかね」

        「見事にイグリスとレガートのリンカーが張っておるの」


   案の定というかまぁ、こうなるわな。 俺が天石を探す事は知ってる。

    だからそこに人数を割けば見つけられる。 ふーむ…。

   俺達は一度、吼竜の谷まで行ってみたがこりゃまた険しい谷。 草一本無し。

    谷の上空やら、谷間の地面にゃ、イグリスやレガートの学園服を着た奴等がわっさわさいる。

   コイツ等を殺さず、見つけられずに突破しなくてはならない。 

   今は数時間程戻った所にある、小さな谷の大きな亀裂の中にいる。 夜もふけており周囲が暗い。

    流石に焚き火が無いと冷えるので、亀裂の深部で焚き火をして暖を取り考えている。

        「のう…、主は…」

        「またかよ。 んだからあの二神を殺す気も無い。

             その為には残り二つの天石がいるんだよ」

   赤々と揺れる焚き火に照らされたイストは首を傾げつつ、両膝に顎をついた。

    コイツは結局…ある程度までは一緒だった。 進化論…種族間の交配で新しく力を生み出す事。

   レガートで何故あんな事に力を貸したのか、それもユグドラシルの力を人為的に引き出す為。

    俺にクァと引き合わせ、疾風の血族を生み出したのもだ。

   …進化による身体的な能力の上昇や、特殊能力同士の結合で新しい力を生み出す。

    そして、ケリアドを倒す事。 …俺も手駒の一つだったんだろう。

   その手駒が、一人歩きし出すまでは思っていなかったのか、俺の動向が気になって仕方ない。

    そういう思いが顔に出て俺を睨んでいるイスト。 勿論、あの二神に答えを見つけさせる事。

   それが出来るなら願っても無いだろう。 コイツも…いや、コイツはフェンリルに届けなければいけない。

    コイツの結末を決めるのはフェンリルだろう。 

   イストの方に軽く歩み寄り、俺が羽織っていた茶色のマントを被せてやる。 流石に冷えるだろうしな。

        「やはり、ケリアドを倒した方が良いのじゃないかの?」

   軽くイストの頭を叩いて、宇宙空間や、海溝に押し込んでやれば言視術は使えない。

    倒す事は可能だろう。だが、弟を失ったアルセリアの悲しみはどこにいく?

   言創の力は察する所、創り出す力だろう。 そいつも同じ方法でどうにかなるだろう。

    だが、それを持って何になる。 お前は自ら罪と罰を背負って悪人になったが、悪の度合いが足りネェ。

   しつこく、ベシベシと頭を叩いて遊びつつ、それを伝えると、流石に怒ったのか立ち上がり怒鳴ってきた。

        「いい線まで行ってると思うが…悪の一文字を背負うにゃお前は優し過ぎる。

          それに盛者必衰だったか栄枯盛衰だったか…まぁ、進化させ過ぎても逆効果にもなる」

   そう言うと、視線をイストから焚き火に移す。 まさか、サザに教えて俺自身もそうすべき。

     そう思っていた事を、コイツのやってきた事を確認する事で否定する事になるとはな。

   焚き火に、薪をくべつつ跳ねて音を出すのを見て更に伝える。

        「結局、無血で解決も無理だが…まぁ、まかせておけ」

        「…天石二つ集まったら、話してくれるのじゃろうな?」

   寒いのか寄り添ってくるイスト。 男だろお前は…はぁ。 それに頷きつつ軽く肩を抱いてやり、

    天石二つ集まったら、ちゃんと話してやるよ。 そう答えた。

   

   安心したのか? ヨダレくって俺の肩に頭つけて寝やがった。 まぁいいか。

    周囲に気付かれる事もありえるので俺は寝れないワケだが…。

   焚き火に引き続き、薪を突っ込んで火力を維持する。 その揺れる火を見ながら整頓してみる。

    ちょい酒が入ってたので、思考が錯乱気味だったが…今は時間もある。

   『輪廻の鎖』こいつはこの世界のモノだろう。それを使って押されていた代行者側が

     飛鳥を呼んだ。 元々恐らく次元に穴を開けるモノであり、それがフェンリルとの一件で少し壊れた。

    その欠片を二つフェンリルが持っている所を見ると、それもワザとだろう。

    フェンリルを輪廻に留まらせる為、俺に記憶を持ったまま転生させる為。

   どちらか一つでも欠ければ、神に対する超火力を生み出す片方が無くなるからな。

   そして、『ケルド』ややこしい話だが、アルセリアに組した従属神ファラトリエル。 コイツは一度死んだ。

    死んで飛鳥が成り代わった。 ロキとして長い間この世界に戻り隠れ続けて、時を待ったワケだ。

   過去に戻れるからな。その辺りは容易い。…が、未来に戻るには耐えるしかない。

    で、セアドやらがまぁ、一連の奴等が二神を封印して伝承やらを駆使して隠したワケだ。

   ケリアドを倒す力を有するだけの種が生まれるのを。 クァが唯一の大精霊なのもその理由だろう。

    で、見事に手の内で踊らされていた。 その辺りは良い悪っぷりだが…足りないわな。

   俺はコイツ等の思惑通り、力を手に入れたが…、違う。

    コイツ等のだと…、悪の美学っつかまぁそれだな。 こいつら基本的に善人だからよ。

       「主は、寝ないのじゃろうか?」

   起きてたのかよ、眠そうに目を右手でこすりつつ俺を見てくるが、

     頭を無理矢理押さえつけて寝かそうとするが…不服な様だ必死で抗ってきやがる。

       「人…これが答えじゃといったが…」

       「その考えが間違いだっていってんの!」

   どう見てもケリアドが一方的にアルセリアに支えられてるだろうが! …まぁいいか。

    現状この二神はまるでこの状態なんだよ。 だからそいつを変えてやればいい話だ。

   きっちりと支え合わせてやれ…ぶぎゃーっ!

       「テメぇ…俺のドコを握って!!」

       「答えぬと…プチッとゆくぞ?」

   やめて! よして!! 俺の袋を握りつぶそうとするな!! 痛いから!

    ほらもう言い知れぬこの…下腹部を刺し貫かれた様な痛みがこう…ズキーン!と!!

   両手を頭につけて体を捻らせていやがり怒り散らす。

       「は な せっ!!!」

       「言わぬと…」

       「潰したら絶対に言わん!」

   放しやがったか…ふう…股間がジンッジンして嫌な熱い感覚だけ残っている…最悪だ。

    …ちょい火が弱まってきたか、再び薪をくべて火力を強める。

       「まぁ…主はワシと違って変な知識だけはある様じゃしな。

               その辺りに答えがあると思っておくのじゃ」

       「ま、その通りだ」

   ちょい寒いのか、震えているので強めに抱きしめてやる。 …傍からみたら男女なんだがなぁ。

    こいつの中身は男なんだよな…。 俺の息子も全く無反応…は分かるんだが…ああ。

   こいつは転生の年季が違うか。 あくまでイストとして生きているだけか。

   然し、みれば見るほどリセルまんまなんだよな。 リーシャが言った事も気に掛かる。

    アイツは破術師だからな、俺のやる事を知っている可能性もある。

   それを見越して…リセルに似たコイツに力の全てを授けると言った。 

    そりゃつまり…俺のすべき事を見抜いて…あいつは全知全能の神か。

   まぁ、ヒントをくれてたんだろう。 これで全ての決着がつけられる。

     そのまま、俺はコイツがどうセアドと出会ってメディを授かるに至ったか、そんな事を

   妄想しつつ、夜が明けた。 

       「…おかわりじゃ」

   幸せそうな顔して、ヨダレくって何を寝言いってやがる。

       「セアド…これが最後の主の手料理じゃのう…」

   …。 起さないで寝かしておくか。 せめて夢ぐらい起きるまで見させておこう。

    両手を強く握り締め、俺は更に決意を固める。 こいつ等のやり方はやはり間違っていると。

   そのまま、イストが目を覚ますまで焚き火を灯し続け、昼になり、ようやく目が覚めたようで、

    天石をどう取っていくか、それを尋ねてきた。

       「…、取り合えず色々と考えてみたが、明るい内は駄目だな」

   そのまま、軽くイストの頭を撫でつつ、亀裂の外から入ってきている日の光を見ていた。

    夜になりゃ視界も悪くなり、進入し易くなる…焚き火はあるだろうが…。

   俺の動物パワーを舐めてもらっちゃ困るわけだ。 ま、進入は容易いだろうな。

    さて、今度はどんなトラップがあるのか…リーシャみたいなのは流石にいないだろうから、

    自然のトラップかもしれんし…あー楽しみだ。


   そして、そのまま次の夜が来る頃に、俺達は吼竜の谷の入り口付近。

    左右を険しい谷が挟んでいる渓谷というのか? しらんがそんな感じを一望出来る

   小高い影に身を隠してイグリスとレガートのリンカーの数と配置の確認をしている。

         「ざっと・・・100ってとこか」

         「先に行きにくいのう…」

   谷の入り口に駐屯地があり、赤々と松明がいくつも揺れている。

    その中心に大きい焚き火が一つ。 その周辺にリンカーがわさわさと。

   当然、谷の上にも飛行型のリンカーが飛んで周囲を伺っている。が…あまいな。

         「じゃ、いくぞ…」

         「…普通に話して協力して貰えば良いじゃろ?」

         「それじゃ面白くも無いし意味が無い」

   首を傾げるイストの手を胸に当てさせて…静かにリンカーフェイズさせ、

    俺は一つ目のお宝を奪いに吼竜の谷へと進みだした。

    

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