第百十三話 「俺は俺」 三幕終了
俺が何で来たのか、それだけを考えた。 単純な話だ…飛鳥の跡継ぎだろう。
だが、それで何が変わる? 何も変わらないだろう。 決定的に足りないモノがもう一つある。
だから、悪いが俺はあんた等の考えに賛同する気もなければ、応える気も無い。
ケリアドを殺す気もなけりゃ…いや倒せない事も無いが…。
日本人だから神風特攻でアルセリアとケリアドを宇宙に追放したりもしない。
そんなアホな結末じゃ…何もかわりゃしない。 そもそもそれで死ぬのかも分からん。
無駄死にするつもりも無い。 無駄死にしてまた虫やら動物やら…。
俺は俺の答えを持ってあの二人の争いに答えを出させる。
俺にも物語があるってんなら、俺の物語は俺が作る。こいつ等には作らせてやらん!!
「む? 気がついたかの?」
「ああ、ちと呑み過ぎたか。頭痛が…」
酒を浴びるほど呑む。という言葉通り本当に浴びて呑んだらやばいなこりゃ。
呑み過ぎた所為か…頭痛が酷い。 頭を押さえて眉間にシワを寄せている俺。
それに、イスト達が心配してくるが…、それよりもだ。
「イスト、コイツは必要だ。 殺さずにいくぞ」
「それは良いが、何を考えておる?」
コイツも必要だ。 アルセリアとケリアドに答えを見つけさせる為にも。
「じきにわかる」
そういうと、俺は体を起しイストと鷹のリンカーフェイズをして飛び去ろうとする。
「代行者。 何を考えている?」
「んが? 俺は破術師だ。 あんた等の術も何もかも破ってやるよ」
そのまま、俺は上空へ飛び立つ。 先ずは吼竜の吼える先にある谷だったな。
そう、その場所はどこか分からないが、楽しみにしつつ朝日が昇る水平線へと消えていった。
数ヵ月後、俺達はとある大陸の酒場で飯を食べつつ情報を探っている。
茶色いマントに深いツバの長い帽子…いわゆるカウボーイハットだろう。
それで顔を隠しつつ、飯を食べている。 周囲を見回すと木製建築の広めの店内。
木製のテーブルが無造作に並び、結構気性の荒そうな荒くれ者っぽいのがわんさと居て、
酒を飲んだりしている。 そこのカウンターで、吼竜の谷と呼ばれている所の詳しい所在を聞いた。
同時に、セオザの連中が嗅ぎまわっているという話も。…視線を壁に移すと指名手配。
明らかに俺だろう。 金200万枚、生け捕り推奨かよ。 姐御…そこまでするか…。
ま、ちょいと逃亡ライフも悪くネェか。 イストに視線を向けるとひたすら飯を食っている。
あれから幾度となく、答えを聞いてきたが…なる程。 神慮思考。
あれはロキとしての力であり、コイツの力じゃないから読めないのか…同時に破術自体は俺だけ。
だから聞いてくる…まぁ、最後に教えてやってもいいかもしれんが…今は駄目だ。
「ちょっと兄さん…顔を見せてくれないか?」
またかよ…。 カウンターに金貨数枚置いて、皿を抱えて飯を食ってるイストを抱え込み、
俺の肩を叩いてきた奴を見もせずにぶん殴って逃げた。 もう何度もこれだからな。
それなりに執拗に追いかけてくる奴も増えてくる。 殺せないから。
店内のテーブルを蹴散らして、行く手を阻む野郎達を蹴り飛ばし、外に逃げ出す。
外に止めてあった…馬なら格好いいんだろうが…、なんだよこのクァみたいなアホ面した鳥は。
ドードーといえばいいのか、そんな感じの鳥に跨って、その鳥のケツを叩いて逃げる。
後ろから、魔精銃と呼ばれるもので撃ってくる…こいつもセオザが他国と交易に提供した技術
のそれと大砲があったんだ、鉄砲があっても不思議じゃない。 その組み合わせの産物だろう。
それから器用にこの鳥は、反復横飛びみたいな動きをし、土煙をあげて俺達を乗せて走り去る。
当然ながら追いかけてくる奴もいるが…面白い! リンカーフェイズして逃げるのもいいが、
こういうカーチェイスみたいなのをしたかった!! そう笑って叫ぶと…。
「馬鹿じゃのう…」
言われたよ。 だが、これで良い! 折角異世界…といえるのかまぁ異世界だろうきたんだ。
少しぐらいそれっぽく楽しみたいんだよ!! 右手を掲げ、後方の連中を煽る様に俺は叫ぶ。
見渡す限りの荒野の先。 そこに目的の一つがあるお宝に向けて喜びの声を。