第百十一話 「破術師」
天子様に聞いた奴と、晩餐の時にチラチラ見ていた奴。当然ながら一致はしていなかったが、
どちらにせよ毒は毒。 両方とも、あの後に殉職してもらった。
翌朝、俺は当然ながら怪しまれて尋問されたが…問答無用でそいつらを殺し、一つの事を告げる。
俺は、セオザがお前等を騙す為に送り込んだ刺客だと。 これで両方の戦いになる。
ほぼ頭の良さそうな奴は殺した。 姐御には色々と戦術やらを書き記した本を残してある。
今頃は本の意味に気付いて怒ってるかもしれんが…。
セオザには強くなって貰わないと困るワケで、この程度の国。それも頭の殆どを刈り倒した後の国。
100万対1万だろうが、レガやアーガート・ディエラとオーマも居る。 負けて貰ったら困る。
「主、本当に敵になるつもりじゃったのな」
「ん? ああ、仕方ない。 水神はどうとでもなるが…」
そう、水神はどうとでもなる。 問題は水神じゃない地形なんだ。 セオザと共に倒すと…詰む。
あの島国で砂漠の様なボスメテオを食らわしたらどうなる。 富士山は死火山じゃないんだぜ確か。
それに、確かプレートだったか地層のズレ。あれもいくつか重なってる地震大国だった気がする。
水神がまたあんな大質量だったとすれば…倒せてもタガラクが祖先の地を失う。
だから、俺達だけで倒す必要がある。 その間は弱体化したスイグトと戦っておいて貰う必要がある。
それをイストに告げると、頷いて納得した。
もうイストが誰か俺が知っている事に気付いているからな。
だが、一応少し言伝を残しておきたい事があり、俺達は用の済んだスイグトを去り、
黄龍の住むという山を探していた。 もうなんつーか、山というよりも崖といっていい山。
それをいくつも越えて、この広大な大陸を探し回っていると、大きめの泉が見えてきた。
俺はその泉の畔に降り立ち、リンカーフェイズを解く。
「泉あったな…。 先に体洗いたきゃあらっとけよ」
「うむ…。 覗くでないぞ?」
「誰が覗くか」
全く、一応女だからな。 だが、見る気も起きない。俺は泉から少し離れた所にある大きめの岩。
そこに座っていた。 ん? イストが何か見つけたのか呼んでいるな…なんだろう…ああ。
そこに居たのかよ。 イストの周りに一際細長い…いや、太長い影が揺らいでいる。
黄龍だろうか、まぁ手間が省けたな。 なるべく早く済ませて行きたい所だった。
本の意味に気付いた姐御が怒り狂って、レガと共に飛んでこないという保証が無い。
…一緒に水神までは倒すと嘘ついたらな。 ちょいと分かり難くしておいたから、
気付くのには時間がかかるとは思うが…。
そうこう考えつつ、俺はイストの傍に行き、黄龍だろう影にソレに話しかける。
「…人か。 何用かな」
全身黄色で、見事な髭を蓄えた太長い龍。 かなり老体なのだろうか知らないが、
髭がご立派過ぎる。 …それはいいとして、俺は彼に告げる。
この地で暫く戦いが起こるが、静かに見ていてやってくれと。
そして、いつかアンタの力が必要になった時。必ずここに現れるだろうシアンと言う名の、
双極竜セオの娘を助けてやってくれと。 そしてスヴィアが謝っていたと。
「セオ…唐突だな…。 願いを聞くのは容易い。 …が君は何者かね。
何が目的で、何を持って未来を視た様な事を言う」
…聞かれるとは思った。気性が荒かろうが、大人しかろうが竜は竜。基本的に知能は高い。
ここは、彼を納得させるだけの理由をキッチリと話しておくべきか。ヘタな嘘は通用しない。
俺は黄龍に近寄り、破術師リーシャ=バーレより、力を受け継いだと。
そして、その力でアルセリアとケリアドの言い争いに終止符を打つ。
その為に、最後に遣り残した事。 ここから南下した所にある島国の水神を倒す事。
そして、天石を集め…。
「コイツと…飛鳥と交代だ」
そう言うと、俺は隣にいる全裸のままのイストの頭を軽く叩く。
気付くのを待ってたんだろう。当人も驚いた顔もせず、黄龍を見ている。
そして俺も、イストには視線も向けず黄龍を見ていた。
「飛鳥…そうか。 では君が…、分かった。シアンと言う者がこの地に
訪れた時…そして力を必要とした時。願いを叶えよう」
「ああ、ありがとう。黄龍」
深く頭を下げると、俺だけ泉を出ようと背を向けて歩き出すが、黄龍に呼び止められ、
それで本当に良いのか? と尋ねられた。
「…。 構わない。 でないと、コイツ等の今までの苦労が泡になる」
そうだ、飛鳥達はもっと辛い思いに耐え続けてきた。 コイツはもう限界だろう。
今度は俺が、そして…。
「主、何を考えておる?」
「乳と尻と太もも」
いっでぇっ!! おもっきり殴られた。 まぁ…水神とやらを軽く物理的に地獄に叩き落して…、
イストと天石を求めて少しの間…気楽に冒険を楽しむかね。
そのまま俺は泉から離れて、再び岩に座る。 なんとなく周囲を見回してみると、
あの切り立った山が妙にアイツを思い出させる。 リセルだ、見事にツンと立っている山。
…。 まぁ最後に一目見たい気もするが…イストで我慢しておくか。
再び、視線を泉に戻すと、黄龍もイストも姿は無かった。 …どこいっ…
「何を考えておるのじゃ?」
「どわっ! いきなり後ろから不意打ちすんじゃねぇ」
「誤魔化すで無い…」
うが…服を着て俺に不意打ちを食らわせてきた挙句に、そこかよ…。
コイツももう知らなくていいんだよ。 もう…ニヤリ。
「そういうお前こそ、セアドどうすんだ?」
「ぐ…主という奴は…」
よし、掌握した。 俺の勝ちだ!! 俺はわざとらしく笑ってイストの肩を強く叩き、
お互い知らない方がいい事もある! そう強く言ったワケで。
イストもイストでやや不機嫌そうに、納得したのか頷いた。 そう…知らない方が良い。
「何故そんな悲しい目を致す。 一体主は何を…」
「ん? 秘密だ。 読んで見ろよお前も破術師だろ? オラオラオラ」
イストの口を左右に引っ張って伸ばしつつ挑発なぞして遊んでみている。
まぁ、ここから少しは気楽にいくぜ! この世界を楽しむんだ。
「さ、さっくり水神とやらをブチのめして気楽にいこうぜ」
「はぁ…。 呼ぶ奴を見誤ったかの…」
激しく落胆の息を漏らしやがったイスト。その肩を強く叩いて手っ取り早く済ませて、
俺達の始まった場所に行こうやと告げるとイストも俺の胸元に手を当てて頷いた。
「そうじゃのう。 もう後戻りも出来ぬし…。
心拍同期…解析開始!」