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第百八話 「罪と罰 Ⅲ」 

          


     「…で、本当にいいのかい?」

     「ああ。 セアドと会って再認識したよ。 後は…」

  顔を俯ける俺に、黙って頷き机の上にある紙に文章を書いている姐御。そう…後は。

 文書を書き終えたのか、考えている俺の方を向いてこちらを見ている。 まさかとは思ってたがね。

  まぁ、仕方ない。そこは姐御も見切りつけてるだろう。 深く頭を下げて姐御の私室を出た。

 その出る最中、私室から何か物音が聞こえたが…聞かなかった事にしよう。


 学園を出て、その概観を望んでいる俺は、もうここに入る事も無い事を悟ったんだろう、

  赤茶色のレンガで建てられた、少し城にも似たこの大きい建物。それにも深く頭を下げる。

     「スヴィアさん…」

 恐らくこの学園では、知っているのは姐御とこの人だけだろう。セレンさんが、後ろに立っていた。

  軽く俺の肩に細くて小さい手を乗せてきたが、それを振り払って小声で囁いてすれ違う。

     「馴れ馴れしくしないでくれるか」

 言いたくないが、周りに人もいる。 セレンさんは判っているんだろう。

  そのまま黙って向けて出て行く俺の背に、あの痛い視線は無かった。 

 街並みを進み、俺はあの崖にいるレガの元へと辿りつく。 生い茂る木々の上から覗き込んで用事を尋ねてくる。

  コイツも…騙しておいた方がいいか。 嘘つけないからな…ガットに似て。 が…その前に。

    「レガちっくら頼みがあるんだが…」

 聞く前に頷いてきたレガ、そしてレガの背に乗って俺はメディの元に行く。

  そして、レガにまだ若木に近いメディのユグドラシルを地面の土ごとくりぬいて貰った。

    「どこに運ぶんだ?」

    「セアドの森だ。 少し遠いがお前ならすぐだろ」

 また大きく頷き、俺はレガと共にセアドの森へと。 まだ太陽も高く夜は薄気味悪いが、

  昼はなんとも美しい森。 恐ろしい程に巨大な木々が無造作に立ち並び、その根が津波の様に生えている。

 そんな木々の一角、あの泉の傍に俺はレガに頼み、メディのユグドラシルを埋めて貰った。

  俺の家の傍だと、被害が及びかねない。 …何より。

    「ここは来る者は、決して拒まない。そうだろ? セアド」

 少し困った顔で、俺の後ろに立っている。 そして、目の前に現れたメディ。 これが見納めになるか。

    「スヴィア? なんで私をここに?」

    「お前は、苦しまなくていい」

  俺の肩を軽く叩いてきたセアドが横を通り過ぎ、メディの元に。 彼女はユグドラシルとなった。

   最早、母親だと隠す必要も無いだろ。 この森というかセアドは強い。 メディに被害が及ぶ心配もなくなる。

    「メディ。 これからは母さんと一緒にいりゃいい」

  薄々気付いてたんだろうか、メディはセアドの方を見ても余り驚いてはいない。

   が、セアドはやはり戸惑っている…いや、少し怒ってるか…だが知らん。

    「スヴィア。 貴方は…」


  俺は、背を向けるとレガの背に乗り、彼女達を見ずに一言だけ言う。 この二人にゃこれだけでいい。

    「俺はスヴィア=スレイワードとして、無神論者として生きる。 さよならだ」


  そのまま、二人を見ずにレガと共に森を抜け、上空へと。 高度が安定したのかレガが振り返って俺をみてくる。

    「なんだ?」

    「何故貴様は伴侶に別れを告げた?」

    「俺はもうオオミでもヤサカでも無い。…そうだなアイツにでもなるか」


  アイツを護るのはセアドに任せる。 俺はアイツの罪と罰だけ背負っ…い…いでぇっ!!!

   折角覚悟完了した俺の後頭部に、何か硬いモノが穴を掘るが如くに連続して突き刺さってくる。

    「まだあそこに居たのか! つかキツツキかテメェは!!!」

    「アホウが! オマエはアホウだ! 何故オイラの実を手放しタ!」

  あ~そいや、そうだったな。 謝っとかないと…ん? なんか嘴に押し付けてきたぞ。

    「不愉快ダ! オマエはオイラの血族なんだゾ!! …ほレ」

  嘴からそれを手に取る。 何の刻印かは分からないが…いや、考える必要も無いか。

    「メディの刻印か…」

    「伝言ダ!   馬鹿!!  だそうダ」

    「ひでぇ言われ方だ」

  …まぁ、別の意味での馬鹿だろう。そう取っておくとして…さて。

    「じゃ、レガ、悪いがイグリスまで次は頼む」


  そのままアホ鳥を残して、一速にイグリスへと。 その間は、眼下に広がるセアドの森への道を見ていた。

   ここも思い出がある。クソ重たい自称砂袋を担がされて歩かされたモンだ。

  コボルドに追い掛け回されるわ、ディエラさんにおちょくられるわ。 散々だったな。

   比較的整理された道が、山々と森に囲まれて続く道。 歩くと結構な距離だ。

  少し昔を思い出していると、すぐにイグリスが見えてきた。 その上空に差し掛かり…。

   探していたのか、イストがちょろちょろと走り回っている。 

  そして、上空に飛んでいるレガを見つけたのか、自分にあの重力遮断の術をかけて近寄ってきた。

    「どこいってたのじゃ? 主」

    「気持ちの整理っつか、俺にトドメ刺してきた」

    「なんじゃ…それは」

  首を傾げつつ、レガの背に乗ってきたが、俺は街の周辺にレガに下ろして貰う様に頼んだ。

   その後、街中を俺とイストは一緒に歩いて、俺の家へと。


  結構年季が入ってきたかもしれない。こざっぱりとした木の小屋。

   内装は、木製のベッドとテーブルとイス。あと本棚。壁には窓が二つの部屋は一つ。

  飾りもないそんな部屋の椅子に俺は座り、イストを見て質問をした。

   ここから非常に辛く、君の伯母さんの事もある。 無理についてこなくてもいいと。

  …まぁ、一通り事が済んだら、ケルド見つけつつ残りの天石を探す必要もあるので、

   俺的には楽しみな部分もあるが…、また砂塵の霊宮みたいな博士プレイとか…。

    「主が何をするのか知らぬ。 が…主が多くの国を救った英雄である事に変わりも無い。

              主の行う事、その先をワシも共に見たいのじゃ」

  軽く、椅子に持たれかかり天井を見て俺はため息をついた。イストは相変わらず俺を覗き込んでいる。

    「英雄か、お前の祖先のリセルにも似た様な話をしたな」

  リセルが残した文献でも読んだのか、俺の考える英雄論…として書かれていたと答えたイスト。

    「ぶっちゃけ、俺は英雄なんてかたっくるしいモン、クソ喰らえだ。

         それに、結果次第では俺はアルセリアすらも殺すかもしれない」

  テーブルに実を乗り上げ目を丸くして、俺を見て尋ねてこられたな。まぁ仕方ない。

    「俺は世の中の為とか、そんな大義名分はもう捨てた。メディをこれから護るセアド。

       そのセアドを護る為なら…善神だろうが悪神だろうが…

        敵味方関係無くあらゆるものを利用して喰い殺す一匹の魔狼になる。…ただそれだけだ」

    「結局…断ち切れておらぬぞ? それ」

    「違いない。が、そうでもない」

  ケルドを倒し、フェンリルとの約束を果たした後、俺はどうなるのかは分からない。

   が、もし記憶が残り続けるなら……。 破術師か、厄介だなこりゃ。

    称号みたいなモンを貰っただけ。そう思っていたが、何か判らないが…まぁ今はこれでいい。


  俺は、イストをつれてスイグトへ向かう事になる。

    その後、俺が権力欲しさにスイグトにイグリスの情報を、いくつか持って寝返ったと知れ渡る。

    知名度も相まってその広がりは相当早いだろう。

    姐御が丁寧に文書を繰り返し、手順を踏んでいてくれたからだ。

  何で、俺が裏切り者になるのか。 俺が表立ってスイグトを倒してはいけない。

   国が倒さないといけないのだ。 スイグトを倒した後にまだ大きい国はいくらでもある。

  その時の手段の一つとして。 それが最後の俺の手伝いだ。

   精々、信を裏切った俺に怒りを向けて戦ってくれよ。 二大翼竜の旗を掲げた連合国家セオザ。

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