第百七話 「罪と罰 Ⅱ」
翌日、姐御は近隣の国に交易の相談で一週間留守をする。
という理由付けで俺と共にセアドの森に。そこにある使わなくなったディエラさん達の旧棲家。
既に250年という歳月からか、埃や痛みも激しく、
朝早くついたのはいいがその一日は掃除と修繕で潰す事となる。 どれだけ酷かったか?
そりゃもう見た目から中身まで全てだ。 ただでさえ無設計で立てた小屋で傾いているってのに、
年月を経て蔦やらコケやらもう、茶色い木の家が緑色の植物と化していた。
コケと蔦を切り取ると今度はアレだ。 既に腐って使い物にならない屋根や壁の板。
流石に手の施しようが無いので、俺達は森に出て行きセアドにゃ悪いが…。
木を少し拝借して、木材を作るハメになった。 流石に全て修繕というワケにもいかないので、
部分的に、森の外にいるスラクを倒して毛皮と骨を代用したりと、大体外側は半日で終わり、
倒したスラクの肉を軽く調理して昼食を取る。
焚き火を囲って、切り取ったスラクの肉に枝を刺して焼くだけ。 なんという原始生活か。
まぁ、それもそれで面白いモノで。 この姐御とも付き合いは長い。
そんな姐御の顔をまじまじと見る。 改めてみると性格は男勝りで乱暴だが、いい女である事には変わりない。
白い学園服から覗く褐色肌もそそるものがあり…いやいや、今は修繕だろうが。
「酷いねありゃ。 まともに入れないね」
「ああ、そうだな。 確かに…」
最初に俺が中身を調べる時、家に入ると、腐った床を踏み抜いて大きく前にこけたりと。
最早天然の罠が満載である。 そんな家の外装の修繕が終わると、次は内装。
とくに床。コイツが酷い、腐っているから迂闊に歩けない…が、一枚一枚張り替えていると日数かかる。
生前、オオミの時に親方に教えて貰った建築テクの腕の見せ所か。よくよく考えたら、
あのイグリスの街並みのいくつか、俺が建てたモンもあるんだよな。 さんざん親父さんにドヤされたが。
懐かしいなと思いつつ、切り取ってきた木をいくつかを、ちょい薄めに縦に切り分けてそれを並べる。
張り替えると手間もかかるので、その上に薄めに切った木を並べるだけ。歩けたらそれでいい。
そして、ベッドやらテーブルの修繕。 コイツは完全にアウトなので、
切り株一つもってきて、外に置いてテーブル代わりに。重さに耐え切れないからな…床が。
ベッドの方はフィリドの肉で部分的に固めたモノ。見た目は少し悪いが頑丈だ。
後は内側の蔦やらコケ・埃の除去。 結構な手間は掛かったが、なんとか日が暮れる前には終わった。
流石に汗だくになったからか、姐御が泉の方へと行った。 俺はその間、外で座り込んでまた考えている。
暫くして、姐御と入れ替わりで泉に行った俺。 ここも久しぶりだな…。既に日も落ちて暗くなっているが、
月明かりが木々の隙間から零れ落ちて、泉に反射しいい具合に幻想的な雰囲気を醸し出している。
服を脱いで適当な木の根っこに引っ掛け、泉に腰までつかる。 ココは温暖なので丁度いい冷たさ。
だが、油断すると風邪引くだろうな。 そんな事を考えつつふと目をやった泉のほとり。
少し、他とは違う高めになった場所。 あそこで昔、メディに寄り添われて心身ともにフリーズ起したんだよ。
…。 童貞丸出しだったなそいや。 思い出すだけで恥ずかしいぞアレは。
丁度今ぐらいの夜だったか。寄り添ってくるメディの小さな肩。そのちょい上で手が止まったまま固まっていた。
脳内真っ白で何をしていいのか…いや抱きしめてキスしようと必死だったが、
緊張と興奮と何か良くわからない歯止めが働いて、硬直してたんだよな。
思い出したら、クソ恥ずかしくなったのか泉に顔を沈めた。 そのまま息を吐き出しブクブクブクと。
息が続かなくなったので、変な声とともに水面から顔を出した。
…さて、そろそろ戻るか。 いつまでも悩んでも無駄だ。 未練がましい。
体を拭いて、ズボンだけ履いて上着を脇に抱えつつディエラさん達の棲家へと戻った。
まぁ、それから夕飯を取り、適当な思い出話に花を咲かせて、深夜になる。
何かの鳥の鳴き声が微妙に不気味だが、気にしない気にしない。 部屋の中は薄暗く、
年季の相当入ったボロいランプの明かり一つ。 視界はそこまで宜しいワケでは無い。
そんな中で、服を脱いで全裸になっている姐御…褐色肌といやスアルを思い出すな。
あの座った目つきの釣り目が印象的な。 …俺は姐御が寝ているベッドに一緒に入ると、
軽く抱きしめて顔を見合わせる。 何か照れてるな姐御らしくねぇ。
「何照れてんだ?」
「う…うるさいね」
顔を赤くして目を背けている。 見た目イグナさん的なんだが…何か本当に乙女っぽい姐御が居た。
腕で胸と下腹部を隠して目を背けている。 なんじゃ一体。
まぁいいかと、右腕で胸を隠してるので勿体無いとばかりに、腕をのけると、
大きめかつ張りの良さそうな胸が露になる。褐色の肌に反して浅い色というか桜色に近いな。
とりあえず、軽く右手で揉んだりして柔らかさを楽しんでいると、声にならない声であえいでいる。
…ちょっとS入ろうか。 と思った俺は、舌と歯で胸を苛め出す。強めに噛んでみたりした瞬間。
姐御の拳が俺の頭にめり込んでいた。
「痛いね!!」
扱いづらいなおい!! 優しくしろってのかよ! …なんかつまらんなぁ。
そうおもいつつも、渋々と優しく胸に舌を這わせたり、ちょい噛んだりする。
そうすると、少し体を緊張させ出した、小さい声でちょい嫌がってるが、気にしない。
そのまま、舌を胸からオヘソに、そのあたりを軽くなぞって見たりしていると、
むず痒いんだろうか、妙に体をよじらせ出した。 何か反応がアレだな…つまらん。
声を必死で押し殺して体も緊張しっぱ、スアル思い出すわ…いやスアルもちと…どんなだったか?
俺も必死だったからな。クァに初めて同士で不器用に交尾しろいわれた程に。 まぁ、
そのまま、舌を下腹部に移動させ…お前邪魔!! 両手で必死で俺の顔をどけようとしている。
「シアン…なにしてんだよ」
「うるさいね…」
俺は一度、姐御の顔を覗き込んで聞くと、真っ赤にして顔を背けた。 んだよおい…つまらん。
そのまま、仕方ないので左手で姐御の右腕をベッドに押さえつけ、
股下に右手の人差し指と中指を這わせてみた。 …あんま湿ってネェな。
まぁ、そのまま右手芸を駆使してアレコレやってると、姐御が声を荒げて嫌がり出し、
必死で俺から逃げようとし出したのにイラッときたので、深く苛めてみた。
「い…いたっ!!」
え? 痛いってああた。 まさか。苛めた指を見てみると… アリエネェだろ!!
何歳だよお前何百年処女のままだよ。
ゼメキスさんどうしたよ!! …んがー…冗談だと思ったらマジで乙女だったよ。
仕方無い、姐御にゃちょっ…と、どころじゃないな。相当にシゴかれたから、シゴいてやるか。
「最初は痛いモンなんで勘弁で」
「は…早くやりな!」
楽しみもへったくれもないなおい。 早くやれといいつつも姐御が逃げるんだよ。
仕方無いので、四つんばいにさせる俺。 スアルもこんな事を言ってたのかもしれんな。
言葉判らなかったが…なんとなくそう思った。
「な…なんでこんな」
「逃げるからだよ!」
そのまま、俺は彼女に重なる。 まぁ、ここからは…暫く彼女が痛みを訴えて凄い事になったワケだ。
つか何、竜族のパワーが凄い事凄い事。 殴られるわ蹴り飛ばされるわ、引っかかれるわ。
破瓜っつーの? あれは痛いという話は聞くが、それ以上に全身打撲、裂傷、擦過傷を伴った俺はどうなる。
一頻りやる事を終えた俺は、満身創痍で姐御を腕枕しながら寝ていた。
「こんなのどこが気持ちいいんだい…全く」
「最初はそんなもんかと? 俺は女じゃないから分からんし」
…殴られた。 その後も朝昼晩ぶっ続けで抱き続けさせられたのは言うまでも無い。
いい加減頑丈だな俺も。
それから三日目の晩。流石に疲労がピークに達している俺と…。腹の上に馬乗りな姐御。
「ほらどうしたい? もっと気持ちよくしてくれよスヴィア…」
「いや…姐御が絶倫過ぎてついていけん…死ぬ」
「だらしないねぇ…」
何この変わり様。
いや、それ以前に朝昼晩ぶっ通しでやらされて耐え切れるとかギネスもんじゃね?
もう限界だっつの。赤玉もでんわ。話をそらそうとしたのか、
俺は首に下げている、疾風の刻印の刻まれたユグドラシルの実を姐御に手渡した。
「そうそう、一応コイツを預けておくよ。 俺がトチッて死ぬ事も考えられる」
「これなかったら、アンタ精霊術使えないじゃないか、体力もそうだ」
軽く姐御の胸を下から揉んだり跳ねさせたりと遊びながら笑って答えた。真・水天月晶石があるから問題無いと。
「…人の胸で遊ぶな! …そういや、リーシャに封印といて貰ったとかいってたね」
そう、封印。 あの後色々と試してみたが、基本的に姿は変わらないが威力つか…能力が馬鹿げていた。
ただの水しかなかった水泡が、スライム宜しく的に強力な酸と化していた事。勿論サイズもかなり大きく。
槍は槍で、相変わらず投擲槍から突撃槍まで何でも御座れ近接攻撃用なんだが…サイズがアホ過ぎる。
そして爪は…んだよ姐御。 俺の息子弄っても最早…口でなんとかしようとしても無駄。
完全に燃え尽きてコーナーポストだから! 灰色になって座り込んでるから!!
そのまま、いい加減にしやがれ的に両肩を掴んで、強く抱きしめる。
そのまま横にさせて抱きしめたまま、少し考え事。
「家族の事かい? やっぱりさアンタを其処まで貶める様な事は…」
「ん? ああ、最後のページ読んだのか」
申し訳無さそうな顔をしている姐御を軽く右手で撫でて告げる。
相手がどうもあの国の別進化遂げた国っぽい事、心理的な部分『だけ』無駄に卓越してる事。
その為、俺を一時的に裏切り者として扱う。 敵を騙すには味方から。
俺は良いが、親やイストのオバさんの事がある。そこらは巧い事やって貰うしか無いが…。
それらを一通り告げると同時にもう一言。
「双子がもし生まれたら、片割れはエルフィのノヴィアに預けるといい」
極力、権力が分裂するのは現状避ける事。 敵国が多い中で内側まで敵を作る様な原因は避ける事。
「ああ、わかったよ」
納得はした様だが、何か欲している顔だなおい…ああ、そっちか。
彼女を強く抱きしめて、唇を優しく重ねて離す。 そうすると満足したのか、目を瞑って寝てしまった。
結局姐御もなんだったのか、…まぁいい。 それよりも…。
ベッドから降りて、服を着て俺は深夜の森へと足を運んだ。
何となくだが、呼ばれていた気がしてたんだ。
それが気のせいではなかった事が、目の前にいる精霊で分かった。
「用事ですか? セアド」
黙って頷くと、いきなり俺は胸元に抱きしめられた。 白で統一された少しふくよかで母親の様な精霊。
ユグドラシルであり、アルセリアが選んだただ一人の代行者。
「異界の人間。いえ…スヴィア」
俺は彼女の胸元から、少し顔を見ると涙を流している事が分かった。 何で泣いて…ああ。
「貴方は最早、人間でありながら、人間の領域を越えてしまった。 …分かりますね」
何となく分かっていた。 だから俺は歴史の中に消えなければならない。
クァが以前に言っていたな、干渉するとセアドにお尻を叩かれると。
「分かってるよ。だから俺は水神を倒した後、姿を消す。 俺である事を隠し続ける。
人間の戦争に手を貸すのもこれが最後だ。 俺が戦う敵は人間じゃ無い」
一際強く抱きしめてきたセアド。 この人も多分…いやきっとそうだ。 メディがそうであったように。
「罪と罰を代わりに背負い、耐え難き苦しみに永劫に耐えなければいけない」
が…やっぱり。 俺だってあそこに思い入れもある、メディとも一緒に居たい。
「ここは、隠者の森。 争いを許さず、来るものを拒まず。
その命が大地に還るその時まで、その安らぎを護る森」
「アンタまで試すつもりかよ。 リーシャみたいだな。 俺は俺の目的を果たす。
後、余った時間でアルセリアとケリアドの言い争いも止めてやるよ」
頭を撫でられた、やっぱ試していたんだろう。 どれだけ目の前に逃げ込みやすい所があっても、
そこから逃げない覚悟があるか。 俺を放して顔を近づけてきた。
俺も目は離さず、黙って見つめ返している。
「試してはいない。 スヴィア、貴方は人間を越えてしまった…ですが、
人間である事には、代わりは無い。 弱さもある」
リーシャの所為でどうも用心さが増していた様だ。 締めていた気が緩んだのか分からない。
ただ、両腕を開いて優しく微笑んだセアドの胸で、思いのたけを嘆いた。
涙どころか鼻水まで垂らしただろう。 みっともない子供の泣き方だったろう。
一頻り泣いて、ある程度治まったのをみたのかセアドは、教えてくれた。
「破術師、魔術を破る者ではない。
あらゆる術…思考を破る者。 リーシャは少し、性格が悪いですからね」
成る程、術…すべって読む事もあるしな。 あんのへそ曲がりが…。つかその事を知っている。
つまり…。 俺はどこかに隠れているアホ鳥に向けて、泣き顔を腕でこすりながら出て来いという。
「ばれてル!? なんだヨ驚かせてやろうと思ったのにナ!!」
「破術師に嘘や隠し事は通用しませんよ? クァ」
なんつか、便利そうで不便な力だなおい。目に見えたモンでも無い。 …。
「で…、エルフィに眠る天石の守護者が何か用事か?」
何故かそう思えた。 勘かしらないが…分かってしまう。 今までの経緯と俺を選んだ理由からか。
「つまらんゾ!! セアド! 驚かせようと楽しみにしていたのニ!」
「ですが、少々リーシャの言う通り。少し詰めが甘い様ですね」
…また言われた。 詰めが甘いイワレタ。
自然と共に歩む。これはエルフィには違い無い。が、クァが何故俺をエルフィ族に連れて行かず、
ノヴィア族に連れて行き、ヴァランに会わせたのか。
「どいつもこいつも…。 ノヴィアの地にソレが在り、守護者が居た。
エルフィ族はそれを外敵から護る為に存在する。 という事か」
セアドとクァが頷いた所を見ると当たりか。 成る程エルフィ族は確かに封印を護っている。
それに偽りは無い。 が、封印はノヴィアにある、だからノヴィアにヴァランが居た。
スアルが俺の生命力をあそこまで求めた理由の一つでもあったんだろう。
そして、封印の事もあるだろうに、砂漠で共に居た理由。天石の守護者が…。
「ヴァランか…」
こりゃ、他の天石も一筋縄じゃいかなそうだな。 …特に典文に記されていない二つは。
「という事ダ! ヴァランからの言伝と預かり物ダ」
クァに手渡されたのは、半透明でやや荒々しい形。風の天石。
ヴァランからの言伝は、これまでの動向をしかと確認した。
これを所持するに相応しい。君に委ねよう。らしい。
益々凶悪になったぞ、水と風の天石。 相性も良さそうだ…水神相手にするにゃ丁度いいか。
「スヴィア。分かっていると思いますが…」
「奈落に落ちる気は無いよ。 ま、ちょっと悪事には目を瞑って欲しい所だが」
そう言うと、俺はセアドの胸元から離れて、深く一礼し背を向ける。
「スヴィア、貴方はどちらの教えを…」
セアドもセアドで二者択一だよな…。 俺は去り際に一言言って立ち去った。
「俺は日本人だから、無神論者。 休日の息抜きや食い扶持にしても、神は信じて無いよ」
ちょい後ろの視線が気になったが、俺は俺の考えでこれからは動く。
アルセリアの教えも、ケリアドの教えも関係無い。
…例えそれが二人の神を殺し、精霊を敵に回す事になってもだ。
再び、暗い森の道を帰り、ディエラさんの住処へと帰る。心配してたのか、
姐御が入り口でたっていた…て、おい布一枚かよ。
「風邪引くぞ?」
「冷えたら暖めてくれたらいいさ」
「殺す気だなおい」
彼女をベツドに抱えて運び、また一度抱いて、事を終え。
強く絡み合ったまま、彼女は俺の胸の中で俯いている。身長差的にマヌケだろうな、傍から見たら。
「辛くないのかい?」
「見てたのかよ。自分だけ辛いと思ったら、
そりゃ間違いだろ。 誰でも辛い事は背負ってる」
そう…、辛いのは俺だけじゃねぇ。 俺が踏ん切りつかなきゃアイツを苦しめる事にもなる。
その後も、時間まで姐御を相手にして、イグリスへと戻る事になる。