表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/129

第百四話 「言視の神伐戦 ⅩⅡ」 

           


        □ 十六日目  サルメア大砂漠 中央部 昼 スヴィア □

   お天道様が頂点に届きつつある時間帯、雲一つ無く日差しも強い。 正直イグリスとレガートの

     学園服の黒にはキツい! 何もしなくても、どんどん体から水分と塩分が奪われていく。

   恐らく気温は40℃に近いだろう、砂漠なので当然乾燥してカラッと暑い。いや熱いと言うべきか。

    この中をタガラクの騎兵はものともせずに戦っている。分厚い服に武者鎧に似たモノを纏ってだ。

    この環境下に適応した体の作りになっているのだろう、それは分かるが…

    見るだけでこっちが暑い。 あの後、レガとヴァランに聞いてみたが、やはり連射は不可能。

   その上で、かなり体力を消耗するという事。 余り頼りにし過ぎるとオアシスでの総力戦に響く。

   二頭が麻痺させたデカブツを、タガラクの兵が勢いよく飛び込んでいる小翼竜から飛び降り、

    その勢いに任せて斬り込む。それと同時に小翼竜の体当たりと、騎手の回収。

   なんとも息のあった連携技であるが、何より恐ろしいのは…麻痺して無い時でもコレをやるんだよ。

    器用に尾撃の合間を縫ってだ。 中には尾撃の勢いを使って斬り込む様な奴もいる。

    現状イグリス連合 (仮)、の斬り込み隊である。 そんな一見優勢であるが…。

   ダメージを与えても、即回復しやがるのでコチラが劣勢に代わりは無い。

    その劣勢を優勢に変える為、元々海の生物。その文献頼りに浸透圧を使って持続ダメージを与える。

   だもんで目下の所、北にいるこの近距離専門の戦闘民族タガラク。

    その主戦力100騎と一頭に合流する為、北へと押し上げている。


   北へ押し上げている連中を見つつ、俺は色々と考えているワケだが…。

    さっきから俺の耳を引っ張ったり、頬に蹴りを入れてきたりと、やりたい放題のこの娘。

     下顎をやや前に出して眉間にシワを寄らせ、俺の視界を遮る様に睨んでくるイスト。

          「ワシ…暇なのじゃが?」

   …。この子は…。自分の力が強すぎて使いすぎると神経系にダメージ蓄積していく事知ってるだろに。

    俺は苦笑いしつつ、ミニマム化しているイストの頭をこれでもか!というぐらいこねくり回す。

          「何を致すか!!」

          「大火力使っても、すぐに回復しちまうからだろうが」

   分かっているんだろうが、不服そうな顔をしている。 我慢してくれよ…。

          「まぁ、それは良いのじゃが。 神力を使ってこないのが解せぬな」

   そこは考えても仕方無いだろう。 知性が無い。そもそも蛇の神様であって人の神様…ああ。

    蛇の神だから知性が無い…いやいや、蛇神って狡賢いのが多いぞ。

   まぁ、これはどう考えても、オアシスにぶち込んで浸透圧からの脱水ダメージ見てみないとな。

    然し…、完全な状態の神との緒戦がコイツでよかったよ。 お陰で復元に対する有効手段を

    色々と考えて試して戦える。 会得した情報はコレ『復元と同等の持続性ダメージを与える』

   溶岩押し込んだり、浸透圧でダメージを与えたり、塩も生物次第では有効。

    地味だが確実にあのクソうざってぇ復元能力を消し飛ばせる。

          「如何致したのじゃ?」

   ん? しまった、考え込み過ぎてイストを無視していた。 不機嫌そうに俺の嘴を突付いたり叩いたり、

    色々と弄んでやがる!!  ったく、気楽だなおい。

          「考え事、知性が無いのか、あのデカブツの中に本体がいるのかってな」

   首を傾げつつ、振り返りデカブツを見るイスト。 再び軽くウェーブのかかった

    薄紫のツインテを揺らしながら振り返るイスト。

          「中身居たら…既に飛び出てきておらぬかの? レガやヴァランのブレスで」

   …。軽く右手の人差し指を、首を傾げつつコチラを見たイスト。 それを思わず鷲掴みにして答える。

          「そうだよな! あれだけ風穴あけられたら、中身いたらいくらなんでも…」

   何やら手の中で必死にもがいてるイスト。 それを無視して考えていると、姐御が声をかけてくる。

          「何か分かったかい?  にしてもアンタは少し寝たらどうだい」

   心配してくれてるんだろうが、俺も俺で心配事があって寝れない一種の不眠症。

    軽く笑いながら、頭をかきつつ答える。

          「うーん。ま、姐御と一緒。 考え事の所為で寝れないと」

   両手に腰を当てて、大きくため息を吐きつつ俯いた。

    そしてまぁ、無理するな等色々と言われたワケで…。軽く礼をして、話を反らそうと用事があるのか聞くと。

   アルドからの伝達が来たという事なので内容を聞く。すると苦笑いしながら紙を一枚手渡された。

    それと同時に、怒り狂ったイストが俺の顔を蹴るわ殴るわしてくるが…無視。

         『ここの王様がカヤク? とかなんとか言うのを集めるだけ集めて行くって。

          何か黒い筒みたいなほら、船に積んでるアレを翼竜に乗っけてるから

             もうちょいかかるって』             

   …。 なんじゃこの…。何時何騎くるんだアルド!!!! 火薬に黒い筒。大砲かよ。

    それを詰んだ小翼竜が来るのか。 もうちょい時間はかかりそうだな。

    俺はその紙を姐御に返すと同時に軽く苦笑いする。

         「大雑把だなアルド。 ガットの血がモロっぽいなこりゃ」

   それに苦笑いしながら大きく頷いた姐御。

    既に折り返し、こと細かい詳細書けと書いた伝書を飛ばしたとの事。

    と…そろそろ離れてきたので、駐屯地の移動らしいな。 周囲が慌しく日よけ等を片付けだした。

   俺も、姐御に軽く頭を下げてからそれを手伝いに行く。 暑いがこれをやらんとな。

    と、日よけの一つに近寄ると、俺はやらなくて構わないと他のリンカーに言われてしまった。

    まぁ、他から見たら上層に類するんだろうが、俺は余り上に行ったら駄目だ。

   シンボルは姐御以外にイグリスでは必要無い。

   そんなこんな、脳内妄想を楽しみつつ、日よけ等の片付けが終わる。

    そしてレガやヴァランの休んでいる付近まで、それを運び再び設置する。

   ただそれだけの行動。距離は確かにあるが思ったより疲労感が凄い、気温の所為もあるが。

    塩を舐めつつ水を飲んで再びデカブツの方を見ると…ん? ありゃなんだ。

   妙に地平線がボッコリと一部盛り上がって…地掘。 きたのか、にしてもあの距離であのモッコリ具合。

    相当デカくないか? まぁいい、 俺は姐御の元に駆け寄ってそれを告げると、姐御も遠くを見る。

    姐御も姐御で目がいいからな。 多分そうだろうと言っているし、伝書も飛ばしているので、

   言視術にハマる心配も無い。 現状維持で待つだけだわな。

    

    どんどんそのモックリしたモノが大きく近づいて周囲に小型のモックリも見えてきた。

   その間の時間を使ってもう一度、あのデカブツの事を考える。

    何故、血が無いか、知性を持ち合わせていないか。 弱点はあるんだろうあの粘膜を見る限り。

容姿もそうだが、色々とおかしい部分が多々ある。 本当にコイツに弱点があるのか?

     何故超重力場を使ってこない? この大地を砂漠に変えた力にしてもそうだ。…。

    世界屈指の魔術師だろうリーシャ=スレイワードを持ってしても倒せず、封印するしかなかった化物。

    相当数の人間を、地中深くから一度に長距離転移させる様な馬鹿げた魔力を持ってる奴だ。

   …。 イストの力に頼るのもいいが…、彼女の力自体も諸刃の剣だ。極力使わせてはいけない。

    頭いてぇ。 砂塵の霊宮に引き続き頭イテェ。


   出ない答えに頭痛がしてきたのか、眉間にシワを寄せて両腕を組んでいる俺。

    その肩をイグナさんが軽く叩いてきた。

         「大丈夫か? えらく疲れが背中にでているが」

   作り笑顔で振り向いて答えた俺。 しまった、背中に出てたか…あぶネェ。

     背中はつねに笑って自信あり気にしておかないと、全体の士気に関わるからな。

   少し話題を変えようとイグナさんの九尾の爆弾鞭について詳しく聞いてみた。 すると、やはりというか。

    あのフザけた破壊力と範囲の広さ。それに見合ったクールタイムが存在している様で連射は出来ない。

    その上、火の魔精具や他のも含め、大気中やら自然にあるものを集めて力にするという事が判った。

   つまり、その力を使う時には自然から貯めている力が、一定量必要との事。

    どうりで爪の水圧カッターもクールタイムみたいなものが存在するかと思った。

    土・火属性は砂漠では有効らしく、比較的早く溜まる。 …色々と使い所があるんだな。

   軽く、イグナさんに頭を下げて礼を言う。 またこれで戦術が組みやすくなった。

    オアシスにいけば、俺の水天もそれに応じて効果が高まる事を指すワケだ。

    少し、気が楽になったが…現状倒す方法が無いに等しい。

   ひたすらあの超高速リジェネ+超高HPを持つ化物に色々と試して戦うしかないわけだ。


    そうこうしているウチに、太陽が地平に近づいてくる。 少しだが黄砂が赤みを帯びてきている。

    気温も下がり、随分快適になってきた。 その地平線の先にいるデカブツを見ると、

     今は、タガラクの主力と合流の為、足止めのみ。 

     合流後にオアシスへと今度は西へ押す事になる。

    姐御も今か今かと両腕を組んで遠くを見ている。 レガは…出番が来るまで寝ているな。

     相当体力を使うんだろうあの二種混合ブレス。 ヴァランは会うのを楽しみにしているんだろうか、

     大甲竜アーガート。この世界では飛行系は攻撃力と防御は、やはり飛行能力の無い生物より劣っている。

    それは、リンカーを見ていたら良くわかる。 ドラゴンともなれば差は凄いモノとなるだろう。

     そうこうと考えていると、足元から小さい地震が…いや段々と…って、おい!!!


     両腕組んで立っていた俺、その腕に座っていたイスト。周囲にいた人間全てが、強大な単発の縦揺れ。

      それに大きく地面から弾き飛ばされた。その瞬間、日よけや貯水・食料の入れ物が倒れる。

     慌てて姿勢をたてなおし皆が周囲を見ているが、その縦揺れの原因が見つからない。

          「なんだ? 今の」

          「なんじゃろうか…」

     互いに顔を見合わせている俺とイストの横にいるイグナさんが、笑いながら答えた。

          「ついにきたね! 大甲竜アーガート…水の大甲竜アーガート」

     へぇ…。そんなご大層なも…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!

      余りの事に絶叫した俺、周囲のリンカーもそれを見て驚きの声を上げている。

     理解した、姐御か誰かがアーガートが来るだけで全体の士気が上がるという意味を理解した。

       突如蛇神の下からそれに匹敵する様なデカい顎が土煙を上げて現れ、

      蛇神の胴を咥えると同時に全貌を現し、大きく空中で弧を描いて地面に叩きつけてしまった。

     余りの事かイストが目を丸くして、口が三角になっている。 イグナさんはそれを楽しそうにみているが。

       アーガート…水の大甲竜…。

          「玄武じゃねぇか!!!!」

     噴いた! 土に気を取られててそうくるとは思わなかった!!! 

       レガやヴァランが小さく見える深緑の甲羅を身に纏っている巨大な亀。 何mあるんだありゃ…。

      とどめにその瞬間玄武の周りから水の柱が並び立ち、あたり一面水浸しにしてしまった。

     …。これオアシスいく必要なくね? …全員が突然現れて戦っている玄武の傍まで近寄ろうとしたその時。

      ついに恐れていた事が現実になった。 蛇神に脅威を抱かせる様な戦力に達したんだろう。

     周囲何kmとか、確認する方法が無い程に強大かつ広大な超重力場が形成されてしまう。

       余りの圧力に、空に浮いている雲が地面に落ちて掻き消え、

        その場に居たほぼ全員が砂地に叩き付けられ、体がめり込んでいく。

          「ぐぁ…!! んだよこりゃ。 範囲広過ぎだろうが…っ!!」

     俺の位置からまだ数kmは軽くあるが、余裕でその効果範囲らしく、

      俺も耐え切れずに地面に叩き伏せられた。余りの圧力にまともに声も…いや。

     骨がきしみ、肋骨がその増し続ける圧力で肺を圧迫して息すら困難になってきている。

      視線だけなんとかイグナさんや、レガやヴァランを見ていると流石のイグナさんも耐え切れてない。

     完全に地面に叩きつけられているが、その中でレガ・ヴァラン・アーガート・姐御だけ立っていた。

      姐御お前!!!! どんだけバケモンだよ!!!!

      然し、…どう考えてもこれは勝ち目無いぞ。 こんなフザけた超重力場で戦えるかって…の。

         (面白い…)

     フェンリルかよ…。無理だ、お前の馬鹿火力でも瞬間的に消滅させられんだろ!

         

      少しでも呼吸を楽にしようと仰向けになる俺のその横で…ん?

         「お前…イス…ト。 なんでこの中で立って…」

         「わからぬ…」

      水平線に巨大な太陽が沈みつつあるんだろう、赤く染まった空と大地の上で、

        不思議そうに首を傾げて考えているイスト。 んだよ…どういう…まさか。

       いや、それが正しいなら全て合点がいく。そう考えたのか、イストに向けて全力で叫んだ。

          「イスト! フェンリルを使うぞ!!!」

      その言葉に慌てて俺の胸の上に乗って、右手を当ててくるイスト。

       これが正しけりゃ…コイツを倒せる!!

         

          「心拍同期…再接続リアクセス!」

                

      

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ