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第百一話 「言視の神伐戦 Ⅸ」



------ サルメア大砂漠 北西部 大型オアシス・ガイトス駐屯地・スヴィア 昼-----


  「うおー…改めて見るとデケェ…!!」

  「これ…湖かの?」

  「このオアシスは、この砂漠を渡る上での重要な場所。そして…ほら」


結構な緑に囲まれた、半径3kmぐらいの楕円形のオアシス。 深さもそれなりだろう、よく見えないが。

  そして、その澄み切ったオアシスを指差した姫さん。 その先を暫く見ていると…おお。

  「魚っスな」

  「ええ、数少ない食料源の一つ」


成る程、淡水魚か…ああ~ヤマメとかイワナとか食いたくなっ…淡水!?

  

  「おっしゃぁぁぁああああああああああああっ!!!!」


俺は思わず両手を空に掲げて叫んだ。そのあまりの大声に周囲のガイトス兵やらレガ・姫さんも俺を驚いて見ている。

 特にイストは顔の傍で浮いていたので、耳を塞いで目を瞑っている。


そんな驚く姫さんの両手を握り、真剣な目で彼女を見る。 

  そうすると理解出来ないのか、首を傾げて尋ねてきた。

  「どうした?」

  「ファリア、アンタがあのデカブツ。 いや、蛇神の弱点教えてくれたんだよ!」


結構な時間悩み続けていた事が余程嬉しかったのか、その場で姫さんの両手を掴んだまま飛び跳ねた。

 それを横で見ていたレガが興味深そうに顔を寄せてきた。

  「スヴィアよ。 蛇神の弱点をココで見つけたというのか?」

  

その声に跳ねるのをやめて、レガの方を向いて喋る。

  「ああ、蛇神は元々海の生物。 

       浸透圧であいつの復元速度を上回るダメージ与えながら攻撃すりゃいいんだよ」  


不思議そうに聞いてくるレガと姫さん。 それに嬉しそうに答える俺。

  「ああ、海の生物を淡水…そこの真水にいれると浸透圧っつーまぁ、

       海の生物はその体の構造上まぁ…早い話、脱水症状に出来る。

       ただ見た目がウナギっぽいんで…そこまで効果あるか不明だけどなぁ」

更に首を傾げているレガと姫さん。

  「ん~…、まぁ、自然を味方につけて有利に戦えるって話」


理解しきれてないんだろうが、納得した様に頷いたレガと姫さん。

  「溶岩を爆発させた事もある。 また驚かせてくれるのだろう」

  「溶岩を爆発? どんな魔術を」

水蒸気爆発持ち出すなよ。話がややこしくなる俺も詳しい事しらんのだよ。

  とりあえずさっさと戻るべきだな…こりゃ時間が勿体無い。

  「詳しい事はイグリスの駐屯地で」


それに頷くレガと姫さん。 …で。

  「さっきから、何してるんだ?」

  「 !? な…なんでもないのじゃ」


俺の手には、姫さんの両手を握りっぱなしだった両手。ソレを必死に引き剥がそうとしているイストがいた。

  何か今回マヌケな事ばっかしてるなコイツ。 そんなイストを摘んで肩に乗せると、

     姫さんを連れてレガに乗り込む。そして、ガイトスには後で追いかけてきて貰う事にした。


  「すまないが、レガと姫さんと一緒に一足先に行って準備が必要になった!! 後から追いかけてきてくれ!!」


それに応の声が聞こえたので、俺達はレガを連れて一路イグリスの駐屯地へと急いだ。          




風を切る程に早いレガの飛行速度、ほんとに優秀なユニットだよ。火力移動力共に申し分の無い。

 地面の砂漠がまるで線を大量に引いた様に見える。 流石にこの速度は俺達も辛く、レガの鱗に張り付いている。


小翼竜なら、3~4日はかかるだろう、そんな距離を僅か半日で行ってしまうこの飛行性能。

  敵に回すとイグナさん同様かなり厄介である。


夕日が恐ろしい程に大きく地平に沈んで見える。 が…今はそれに気を許している場合でもない。

  だんだんと見えてきたあのデカブツ。 相変わらず砂煙を撒き散らして暴れ狂っているな…。

その上空を一気に抜けて、駐屯地から少し離れた所にレガはいつもどおりの直滑降でズドン!!

 周囲の砂漠を爆風で撒き散らし、軽い地震とも思わせる地響きと共に降り立った。

余程気にしていたのか、姐御が右手で砂煙から顔を守りながら駆け寄ってきている。

 俺達は姐御の下に飛び降りて駆け寄ると、姐御は相当心配してたんだろう少し怒った口調でいってきた。


  「かえったかい? ったく、心配させやがって…。 で、結果は…見るまでもなさそうだね」

姐御の視線が俺から姫さんに向いて、それに深く礼をして口を開く姫さん。

  「初めまして。ガイトス王トレザの娘、ファリアです。

     スヴィア殿の停戦交渉を受諾し、ガイトス3000騎が明後日に蛇神討伐にここへ参ります」

そのまま、目を丸くして俺の方を見る姐御。そして肩をおもっきり掴まれた。

  「スヴィア君…、停戦どころか味方につけたって一体何を…」

  「スヴィア殿には、我等が国の存亡に関わる大問題を解決する提案をして頂きました」

  「ま、ちょっと姐御が喜びそうな提案をね。 ……負担はかかるスが」


そのまま、姐御にイグリス~ガイトス間の一大交易路を作る提案の全てを話した。

  そうすると、姐御は口をあけたまま放心している。 ん? 失敗したか?

  「アンタ…、国一つ止めるどころか、サメルア砂漠の紛争全て平らげるつもりかい…」


ん…結果的にはそうなるわな。 少し頭かきつつ答える俺。

  「ああ~、結果的にはそうなるスが…。 まだユヴァが…不明じゃないスか」


その直後に姐御からアルド達の動向とユヴァの反応も聞いた。

  「んげ…、フェンリル言う事聞いてくれるかどうかわからんスが…」

いでぇっ!! おもっきし背中殴られた。

  「レガート・レリアス・デイト・トア・サルメア・ユヴァ・ガイトス。

     恐ろしいね…。 これだけの数の問題を一度に解決したかい」

  「いや、ガイトスから向こうの国の状況知らないスから。

               これが良作とは思っていないスよ」


今度は俺の肩を軽く叩いてくる姫さん。

  「そこは大丈夫。 スイグトの国は広大で強大ですが、我等の国は攻め入る理由がありません。

              悪く言えば、何も無い国なので見向きもされていない」


成る程。 んだが、次はそのスイグトとやり合う必要あるわな。 

 流石に日本だろう島まで海を渡っていくワケにはいかんし。 水神倒したら今度はそこを漁夫られる。

 先にスイグトをなんとかして経路を確保してから、水神だな。 まぁそこはいい。


俺は再び視線を姐御に向けて一言。

  「それと、まだ効果不明スけど、蛇神の弱点も見つけてきたっスよ」


どあーっ! 言った瞬間に姐御が抱きついてきた。 胸がっちょっ胸が顔に。

  「本当かい!? じゃあ早速だけど皆集めないとだね」

そういうと離れて、さっさと向こうへ行ってしまった。 余程待ち遠しかったのか…ああ。

 周囲を改めて見ると、士気がガタ落ちてきてるな、終わりが見えない戦い程辛いモノはないしな。

  「のう、弱点とはいかなものなのじゃろう?」

  「ん? まぁややこしくなるから後で纏めて話すよ」

  「う…うむ」


弱点つかまぁ、復元があるならそれを相殺出来るぐらいの持続ダメージ叩き込みつつ攻撃すりゃいいって話。

 が、コイツは賭けだからな。 見た目ウナギっぽいところもあるし、魚なのか自体判らん。

 血液も無いという所が気になる。 あの力場も使ってこない。 …ま、やるしかないか。


俺達も駐屯地の中央にある日よけの下、スラクで建てられた仮設テント。その中にあるテーブルを囲んでいた。


  三部隊のリーダーと、姐御・姫さん。んで俺とイストはリンカーフェイズを解いてそこにいた。


軽く、テーブルに右手を置いて尋ねてくる姐御。

  「で、弱点ってのはなんだい?」

俺はその言葉に、地図にも載ってある巨大なオアシスを指さして内容を伝える。

  

 元々海の生物。なら淡水に沈める事で体内の塩分を根こそぎ排出させて脱水状態に追い込める。

   問題は、それに対する抵抗がある外見をしているから効果は不明。

   だが、確実に何かから身を守る様に粘膜が体を覆っている。 

   それと、以前に熱中症を避けようと、水泡で水を撒き散らした時に一層暴れ出した事。

    あの時は、元気にさせてしまったと思ったが、浸透圧の関係で逃げ様としていたと考えても良いと。


その言葉に全員が首を傾げる。

  「イマイチ…判りにくいんだけどねぇ。 要は真水に押し込めば良いってことかい?」

姐御の言葉に頷くと、イグナさんが腕を叩いて気合を入れだした。

  「よっしゃ! ようやくこの焔の瞳を使えるね!! 全力で押し込んでやるさ」

ラナさんは俺の肩を叩いてくる。

  「ボウヤ、アタシ達の村の事まで考えてくれてたんだねぇ。

                  こりゃ先が楽しみだよ」


うへへ…ちょっと気分良いわ。 徹夜で考えて良かった…って何で睨むよギアのオッサン!!

  「感服した」

相変わらず口数少ないな!! まぁ、褒め言葉だろう。 そんなこんな口々に喜んではいるが、

    俺的にはここからが正念場なんだよな。 それなりの死者も覚悟しなけりゃいけない。

俺は、真剣な顔つきになり両手を机に当てて、全員の顔を見る。

   それに気付いたのか、全員が俺の方を見る。 うへ…プレッシャーが。


  「取り合えず、問題は山積みでその上賭けに近い。 これは非常に危険な選択でもあるんスわ」


その言葉にギアのオッサンが一度、刀を鍔鳴りさせて答えた。

  「この戦いに勝たねば、祖先の地もまた夢と散る。 タガラクの命運は君に預けよう」


ちょ…重い!! 重過ぎる!!!!

 他の連中もここまで着たら任せる的な…うーわー…。 すんげぇプレッシャーなんだが。


  「じゃあ、全員一致という事で…」


俺は地図を指さして作戦内容を告げる。

 

 ここより北からタガラクの主力部隊が来ている事 明後日にはガイトスの騎兵もここに到着。

  ガイトス兵がくれば、その時点であのデカブツを北へと追いやっていく。

  同時に駐屯地は破棄して、食料と水と日よけを持って移動しつつ全力で押し続ける。

   この時の尾撃の問題、これは正直どうしようもない。 

   俺が水圧カッターで出来るだけ切り取るが、こちらの体力の問題もあるので常時は無理。

  そこで、タガラクの騎兵のみと、イグリス・ガイトスの共同で俺が尾撃を封じる。

   その後、タガラクの主力と合流したらオアシスへ向けて押していく。

   オアシスに届いたら総力戦。 そして自然を利用して完全消滅させるという事。


勿論、不明瞭な点も多く、実際問題ただの賭けに近い。 が…これ以上は方法が無い。

   その事も付け加えて全て話した。


すると、姐御が黙って頷き、全員を見回すとそれぞれも頷いた。


 最悪、イストの大火力にも頼らないといけないからな。 フェンリルもそうだが。

   出来る限りオアシスに押し込むまでは使いたくない。

そして、それを話し終えると、姐御が外へ行き暫くして周囲から物凄い覇気に満ちた声が聞こえてきた。


まぁ…終わりが見えてホッとしたんだろうが、同時に死ぬ確立も跳ね上がったワケで…。

 そのまま、会談は終わり夜が更けた。



少し駐屯地から離れた所で座りつつ、俺は久しぶりに一人で双星の封印が解かれた後の悪影響を考えていた。

  封印の効果が薄まって、双星がそれぞれの自転で星の周囲を回りだしたんだろう。

  それはいいが、何で魔力が薄れていく? あの鎖がなんか意味があるのか?

  どうみても双星を繋ぎとめていた楔と鎖だろ。 なんでだ?


  …考えられる理由は…ん? 誰だよ俺の肩をって姐御か。

  「多くの国を平らげた英雄さんは、次は何を考えてるんだい?」

  「茶化さないで下さいっスよ。 平らげたつもりも無ければ、本当にしんどいのはこれからスよ。

    スイグトっつー大国と今度はドンパチやらないとっしょ? とどめに水神。 封印の後始末」


俺が見ている双星に視線を向けつつ、隣に座ってきた姐御。

  「ああ、確かにこれからだねぇ。スイグトは強国であり大国。

             とどめにこれでもかと言うぐらい傲慢な国だ」


うーわー…まともにやったら勝て無いなそんな国。まぁ、情報0なんでそれはいいか。

  「水神倒すのにも、そこまでに至る経路確保でスイグトどうにかしないとスからねぇ」

  「大変だね。 だがソッチはアンタに一任する事にしたよ。

              どうやらアンタの方が何倍も悪知恵も回りそうだ。

        あいつ等の国は悪名高くてね。テメェ等がした悪さはなんとも思っちゃいない」


……。 どこぞの国みたいだなおい。 俺は姐御の方を見て答えた。

  「つまり、多少卑劣な手段も大目に見るって事スかね? 勿論タガラクにバレない事前提で」

それに頷いて答える姐御。

  「ああ、タガラクにバレなきゃ…アンタの世界の知恵で徹底的に叩き潰しても構わない。

           事実あの国の一方的な理由だけで滅ぼされた国は多いからね」


成る程…。 じゃあ、悪人化して徹底的に挽肉にしてやるか。…いや、まて。

 俺が殺し過ぎたら輪廻転生する際に、咎人の鎖に捕まってしまうな。 

  リンカーフェイズも出来ないフェンリルが助けるかもわからない。 こりゃまた頭痛いな。


んでまた俺の肩を叩いてくる姐御。

  「で、イグナに何したんだい?」

  「イキナリそっちスか!! …まぁ、弱点を突きまくったって事で一つ」

  「なんだいもったいぶって…」


姐御も姐御でたまってんのかよ、つか旦那の一つも作れアンタは!!!

  「ここから、ちょいと話が変わるけどね」


お? なんだなんだ。 えらいマジな顔に。

  「なんスか?」

俺の両肩を掴んで、マジな顔で言ってきた姐御。

  「ガイトスでも言われただろう? アンタの子をファリアに産ませろって」

ん? …まぁそりゃそうだわな。 単純に戦力増強出来るワケだ。

  「言われたスが…ユグドラシルの実が無いとどうにもならんスよ?」

  「ああ、ユグドラシルの実が無いと無理だがね。 

      アタシやオズ・アラストル・マリアもそうだ。竜の体力を持ってる奴ならそうとは限らないだろ?」


…て、待て。 アンタもソッチ考えんなよ!! 俺はあれか? 馬か!?

  かなり不機嫌になったので姐御を睨んだ俺。

  「冗談にしちゃ、笑えないんスが…」

  「これからアンタが何時死ぬかもわかんない。 でまた人間や魔人に生まれ変わるまで何百年だい?

      その間イグリスが在るかどうかもわからない」


いてぇな!! 両肩押さえられたまんま、砂地に押し倒されたじゃないか。




  「いいかい、スイグトの国家戦力総数は確か100万にも上った筈だ。

              わかるだろアンタなら」


  「ひゃ…ひゃくまんスか…」



そのまま暫く、砂地に押し付けられて真剣な顔で睨まれる俺。 どうすんだよ。

       敵じゃなくて味方にそれ言われたら…逃げるぞマジで。

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