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不思議な冒険者オルトルート~エーベルハルト視点~

 オルトルートが去ったあと。執務室に取り残されたもの達は閑談をしていた。

 三日後についてある程度の話を詰めてあるから出来る事だ。しかし、現状は国境沿いの件で外交問題手前の状況に陥っている。エーベルハルトは今朝城から投函の魔法で届いた手紙で、その情報を知っている。それでも閑談をしているのは、エーベルハルトが気になる事についての情報を、ギルド長や辺境伯との会話から探っているから。

 冒険者オルトルート。

 見た目は十代前半の少女だが、実際の年齢は十五歳。三年程前に突如として現れた新人だが、成している事には目を見張る。

 イェーガー辺境伯が買い占めた回復薬はその代表例と言えるだろう。

 誰に師事して作ったか分からない回復薬。彼女が作る回復薬は上中下の三階級に分かれている。しかし、階級が『下』でも市場に出回っている回復薬の『中の上』に位置する程の効果を齎す。階級が『上』に至っては、王室献上品と言われても疑われない程の効果を持つ。

 そんな品が市場に流れたら、混乱が起きるのは必定。事実、彼女が薬師ギルドに初めて持ち込んだ際にちょっとした騒動が起きていた。

 回復薬に目が行きがちだが、オルトルートは冒険者としての功績も残している。

 特に、単身で三つの邑を滅ぼした魔鳥を斃した功績は金級並みと讃えられている。

 他にも、大量の魔物を倒して食料や素材として売り払う事で有名。

 ただ、オルトルート本人はこれらの功績に興味を示していない。

 理由として挙げられるのは、彼女が『努力をひけらかさない事を美徳とするシュヴァーン王国の出身である事』が、最有力候補だが実際は不明だ。他には望まない婚約を押し付けられそうになったなどの何かしらの理由で家を出た、どこかの貴族令嬢か没落した元貴族令嬢とも言われている。

 真実は親の都合で追い出されたシュヴァーン王家の血を引く侯爵令嬢で、現国王の従兄妹姪なのだが・・・・・・エーベルハルトが真実を知るのは王都に着いたあとの事である。オルトルートが『王の姪』と言う情報は当の本人ですら知らないので、真実を知る人間はここにいない。

 それらの話を閑談として聞き、三日後の準備の為に解散した。

 馬車での移動途中、エーベルハルトは火炎蜥蜴との戦闘で火傷を負った右腕を眺めながら独り考える。

(どう治療しても、後遺症が残ると思っていた負傷を完治させた手段は結局判らずじまいか)

 右手をぐっと握る。何時も通りの感覚が伝わり、どうやって治療されたのかと思う。

(回復薬は治療対象に飲ませる必要が在る。当時俺は溺れていたと聞く。溺れた人間に飲ませるとは思えない。どうやって治療したのだ?)

 滝の傍で再会したフリッツとブルーノも、彼女が回復薬の瓶を持っていなかったと証言している。

 ・・・・・・滝の傍に辿り着いた時点で『既に人工呼吸を受けていた』と、いかに幼馴染の側近で在っても教えていなかった。根が真面目で変なところに拘る幼馴染を気づかっての行動であり、断じて、愉快犯的な理由はない。

「殿下。そんなに彼女が気になるのですか?」

「治療方法を考えていただけだ。アレだけの重傷を負ったにも拘らず、負傷前の状態にまで治療する方法が在るのなら気になるだろう?」

 隣に座るブルーノの質問にエーベルハルトは素っ気なく答える。実際に考えていた事をそのまま口にしただけなので嘘も言っていない。

 本当かと、冷やかすクルトに一撃加えて黙らせ、暫しの沈黙のあと三人に尋ねる。

「・・・・・・シュヴァーン王国の王家の秘術は何か知っているか?」

「いえ。流石に他国の秘術は存じません」

 突然関係のない話題を振られ、ブルーノが否を返す。エーベルハルトが同乗しているフリッツとクルトにも話を振るが、二人も否を返す。

「加護と祝福だ。厳密には他者の強化と回復」

 エーベルハルトが教えると、何かに気づいたクルトが鸚鵡返しに尋ねる。

「回復?」

「そうだ」

 エーベルハルトが肯定すれば、残りの二人も『とある可能性』に気付く。

「シュヴァーン王国で行方不明の令嬢がいないか調べる必要が有りますね」

「あの国に王女はいない。調べるとしたら、王家筋になるな」

 薬師ギルドが治療院の代わりをしているので、勘違いされている事が在る。それは治癒魔法の限界についてだ。

 実は治癒魔法は『骨折治療』が限界で、先日エーベルハルトが負ったような重傷を治せる治癒魔法は、存在しない。出来る可能性を持つ人間はシュヴァーン国王のみ。

 この時点でエーベルハルトの治療行為が、オルトルートのうっかりミスだった事を知らない四人は、宿に着くまで彼女の正体について頭を悩ませた。


閑談・・・・・・無駄話。重要では無い話。

歓談・・・・・・楽しく話す。打ち解けて話す。

漢字の使い分けは難しいですね。


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