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騎士だと思って救助したら王子だった  作者: 天原 重音


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野営地で肉祭り~理性が飛んだ騎士を添えて~

 方針決定後に、今更感溢れるが自己紹介を交わした。

 真面目な方の金髪はリンドヴルム王国のエーベルハルト第三王子だった。責任者どころか王子だったよ。川で拾った男が王子って、どんな確率だよ。何度目か分からない、加護と言う名の呪いに戦慄を覚えた瞬間だった。

 他の三人は側近で赤毛はブルーノ、不真面目な方の金髪はクルト、栗毛はフリッツと言うそうだ。三人揃って貴族らしいが、誰一人として家名を名乗らなかった。

 ・・・・・・家名を名乗らない貴族。近衛騎士とはまた違った立場の側近か。揃って公爵家の人間だと面倒臭さが増すな。

 などと思ったが、おくびにも出さずに『冒険者オルトルート』と名乗った。

 名乗り合ったあとに晩御飯となったが、クルトが取り出した干し肉を見て待ったを掛けた。この世界の干し肉は非常にしょっぱく、堅くて、美味しくない。

「血抜き途中の森林魔豚(フォレストオーク)の消費を手伝って欲しい」

 数日前に手に入れたが、血抜き途中で魔物がわらわらと寄って来たので作業を中断した、高級豚肉が手元に在る。

 この豚肉、名前に『オーク』と付いているので見た目は『人型の豚の魔物』を思い浮かべるだろうが、見た目は迷彩柄の四足歩行の豚の肉。全長が三メートル半も有るけど、地球で家畜として飼われている『ピンク色の豚』にそっくり。毛皮が迷彩柄になっているだけ。一応魔物なので突進を始めとした攻撃もして来る。

 でも豚だ。市場に出回れば高級肉扱いされる豚肉だ。臭みも少ないので血抜き処理をして焼いただけでも結構美味しい。

 それが十数匹単位の群れで襲い掛かって来た。全部氷漬けにしてゲットした。誤算は血抜き作業が出来なかった事か。

 森にいた間は体長二メートル半の三つ目の狼の魔物を捌いて燻製にしたものを食べていた。この狼も群れで行動するタイプだったのか、ニ十匹以上が道具入れに入っている。どれも三メートル超えの大物で、一番小さい奴を捌いたのだが・・・・・・消費し切れていない。

 この狼よりもデカい豚を消費するとなると、毎日食べて何ヶ月かかる事やら。下手をしたら数年単位で時間が掛かる。

 消費し切れないと判断し、お裾分けとしたのだ。十体以上いるから三体提供した。

 新鮮な高級肉に『不審な子供』を見るような目付きだった野郎共は大喜び。血抜きしカットして、鉄串に刺して焼いただけの肉を『美味い』と貪っている。

 流石に王子は臭みを感じたらしく、少しだけ顔を顰めたが、臭み消しの香辛料と塩を振って焼いた肉を差し出したらガツガツと食べ始めた。

 自分も臭みは気になったので、贅沢な、とは文句は言えん。



 豚の燻製肉を作っている傍ら、欠食児の集団と化した騎士達を眺める。騎士になれるのは貴族だけの国もあり、リンドヴルム王国もそうらしい。

 干し肉に飽きていたところに新鮮な高級肉がやって来て、理性が多少飛ぶのは解るが・・・・・・。

「誰だ!? 俺の肉を奪ったのは!?」「はっ、ノロマに食わす肉は無い!」「その法則が適用されるんだったら、俺が食ってもいいよな!」「「よくねぇっ!」」「くっそ、酒が、酒が有れば」「飲みたくなるから酒って言うな!」「ガルルルルゥ・・・・・・」「何故だ、何故俺は、遅番なんだ」「きぃぃぃっ、これ見よがしに肉を食いやがって」「幸せだ。天に召されそう」「そのまま召されろ! そして、俺の分の肉を残せ!」「野菜を食えって言う奴がいない。天国か?」「あああああああ!? 肉が尽きかけてる!?」『何だとぉっ!?』

 貴族あるまじき口調の言葉が飛び交い、肉を食べるものは『酒が欲しい』と身悶え、二交代の見張り役は嫉妬に怒り狂う貴族令嬢のように高周波を漏らす。

 実にカオスな光景だ。騎士に幻想を抱いていたものが見たら、間違いなく幻滅するだろう。

「この燻製肉も美味しいですね」

「それ三つ目狼の燻製肉」

 いい加減消費しなくてはならない、狼の燻製肉をブロック状に切って出したらこちらも高評価だった。一口食べたフリッツでさえも『酒が有れば』と唸っている。リンドヴルムって酒好きの国だったかと思ってしまう光景だ。

 ブロック状の肉を一つ口に放り込み、燻し中のオーク肉の燻製をチェック。

 もう少し時間がかかりそうなので、自分のご飯を一品作ろう。と言っても、簡単な奴だけどね。

 まず冷凍保存していたパン種を一つ取り出し魔法でゆっくりと解凍。食パン用として作り置きしていたものだ。これを型に詰め、焼いて半分にカットし、肉と野菜を挟めばサンドイッチになる。魔法を使った解凍中に挟むものを手早く作る。

 どうせならパテを作りたいが、ここは森の中なので我慢。血抜きした豚肉をパンの大きさに合わせてカット。厚さは二センチ、長さ十センチの長方形を四枚切り出す。内二枚に塩と臭み消しの香辛料のミックスと胡椒を振りかける。残りの二枚は塩胡椒のみ。塩胡椒のみは作り置きの柑橘マーマレードジャムとマスタード合わせたソースを絡めて焼くので少しこのまま置いて味を馴染ませよう。

 解凍が終わったので、油を塗った直方体の型にパン種を敷き詰めて魔法を使って手早く焼く。全方位から均一に熱が伝わるようにすれば、予熱不要であっと言う間に焼ける。オーブンだと予熱だのと一手間必要だが、魔法を使うとそんなものは不要となる。

 型から出した焼きたてパンが少し冷めたら半分に切り、片方を八枚に切り分ける。断面の白さが眩しい。残りは明日の朝食。八枚の内四枚を更に半分にカット。パンに馴染ませる工程は今回省く為。キャベツに似た葉物野菜の酢漬けを千切りにしてバターを塗ったパンに載せたら準備よし。

 最後に馴染ませていた肉を取り出したフライパンで焼いて行く。胡椒のみの方にはソースを絡めて焼く。焼き上がったら酢漬けの上に乗せてパンでサンドし、完成。一切れ食べる。臭みゼロ。うん、美味しい。そのまま残りも全て食べ切る。

 食べ切ってから燻製をチェック。やや高温で燻しているのでそろそろ良いだろう。

 燻製台から肉を降ろし粗熱を取る。朝食分は出来た。明日の朝は食パンと燻製とリエットだな。あっ。冷凍保存していたコンソメスープもそろそろ飲まないと傷むんだった。小分けにして冷凍したコンソメスープを取り出す。スプーンで端を削って味見。朝食にする分には問題なさそうなので、道具入れに戻す。

「随分と広い収納魔法を持っているのだな」

「平騎士の五倍以上の魔力を誇る殿下でも、十キロ程度しか収納出来ないのに」

「広さが魔力量に比例するとは言え、どれだけの魔力を持っているんだ?」

「このオチビちゃん。ホントに、普通の冒険者なの?」

 燻製の粗熱をチェックしていると背後から、会話と言うよりも独り言のような声が聞こえて来た。感心していると言うよりも呆れていると言う方が正しいか。そんな感じの声音だ。うっかり口を滑らせて王城に連行されたくもないので、聞こえない振りをするしかない。

 会話に出て来た『収納魔法』と言うのは、簡単に言うと自分が持っている道具入れを魔法で再現したもの。手元に小さな閉鎖空間を作りそこにものを収納する。念じるだけで出し入れ可能なので非常に便利。だけど、独り言にも在った通り『収納可能な広さと重量』は魔力量に左右される。普通の人は大体一キロ程度の三十センチ四方程度の空間しか作れない。冒険者でも三キロ前後で五十センチ有れば良いと言われている。

 自分が持つ道具入れは、参考にしたものが『広大な空間を作る』となっていたのでそのまま再現したようなもの。広さは完全に把握していないが、少なくとも、日本の小学校の敷地(校庭含む)よりかは遥かに広いだろう。収納物の重量は現時点で数十トン単位のものが収納されている。

 しかし、自分の道具入れはその重みを感じさせない。

 何しろ見た目が『大きめの石が付いた指輪』なのだ。指に装着するか、紐かチェーンで首から下げていればアクセサリーと認識されるだろうしね。

 自分が習得した魔法とこの世界の魔法の『仕組みの差』を感じる。

 仕組みの差と言えば、この世界には強化系の魔法が存在しない。広域・遠隔発動の魔法もない訳ではないが種類が少ない。付与系の魔法もない。剣に炎を纏わせるとか、ファンタジー系の創作物だと結構な頻度で存在するのに、この世界ではない。

 参考にはならなかったが、群衆に埋もれる為には『ありふれた魔法か否か』を知っておく必要が有る。オリジナルと言い張るには限度が有る。特にこの世界には転生者がいるのだ。その内の一人と認識されると、どうなるか分からない。

 余計な事は言わないに限る。

 嫌な鉄則を再認識した瞬間だった。 



 夕食後。お肉を提供したと言う事で見張り番は免除となった。代わりに明日の朝食分の肉の提供を求められた。『血抜きなどの下処理をしてくれるのなら』と条件を出したところ、あっさりと受け入れられた。朝食分の肉は三つ目狼で良いか尋ねたところ了承が得られた。五体出して処理をお願いする。

 なお、提供した六体分の豚肉(三体追加した)は全て騎士達の胃袋に納まった。王子と側近もガッツリ食べていた。

 欠食児しかいないのかと突っ込みたい。我慢したけど。

 許可を取ってから野営地の一角に持参の三角錐型のテントを張る。このテントは自分の身長に合わせて作ったもの。見た目は自分が寝っ転がる程度の広さしかないように見える。天井の高さも一メートル程度と低いからね。ま、自分が作った一品なので当然の事ながら違う。

 テントの布地は防水防汚加工を施し済み。骨組みの金属には遮断障壁を付与し、『音・振動・外気温』をテントの外と遮断する。内部の床布に敷いているラグマットはふかふか。この上に座るか寝転がるだけで『疲労回復と体と衣類の自動洗浄』が可能となる。

 寝る時はこのラグマットの上に『賢者も駄目になるクッション』を敷いてベッド代わりにする。クッションは大きく作ったので大活躍だ。

 内部がここまで快適でも広さがないと意味がないと思った貴方。キチンと対策はしている。

 魔法を使って内部空間の拡張を行いました。これも骨組み内部に指定している。

 拡張された空間は、とっても広い。見た目の三倍近い広さだ。天井も高いよ。

 内部を明るく照らすランプには室温自動調整機能を付けた。点けると自動でテント内部の温度が快適になる便利品です。

 で、何でここまで凝ったものを作ったのかと言うと、理由が有る。

 作業の為でもあるが、一番の理由はお風呂。転生先がどうもヨーロッパに近い世界が多く、湯船に浸かれないのだよ。妙なところで日本人の性が出た。

 テント内部でも楽しめるお風呂タイムの為に、無駄に技術を注ぎ込んで作りました。

 名付けて『どこでもシステムバス』。ネーミングセンスのなさは目を瞑って。

 一見すると直方体の金属の箱だが、内部に在るのは湯船とシャワー。入浴方法は広さの関係から洋風にした。湯船に浸かりながら体を洗い、出る時にシャワーを浴びる。使用済みの水は魔法で処理。テント外で使用するのなら普通の排水も出来る。使用する温水も魔法で作っている。魔法が便利過ぎる。

 利便性を追求したとも取れるが、自分の我儘を叶える為に技術を無駄に使いまくってるんだよね。

 テント内で使用すると湿気が籠りそうと考えて金属の箱にした。流石に入浴中にテントに入られたら困るからね。

 ラグマットを敷く意味がないとか突っ込まないでね。シャワーを浴びるのと魔法で汚れを落とすのでは気分的に違うのだよ。

 長々と説明したが、本日はシャワーのみを使用。理由は王子がいるからです。側近らしい男共がこの設備を知ったら貸して欲しいぐらいは言いそうだしね。

 シャワーのみなら、蒸しタオルで拭いただけと誤魔化しが可能。石鹸の香りは香油で誤魔化す。

 いざシャワーを浴びようとして、採集した薬草のチェックをしようと考えていた事を思い出し、採集籠を道具入れから取り出す。籠から出して種類を確認すると試作品三種類がそれぞれ二十本前後作れる量があった。他にも薬になる薬草を幾つか採集していた。これらは薬師ギルドに売ればいい。

 自作用と販売用に薬草を分けて道具入れに仕舞う。

「ん~スッキリ」

 気を取り直して、シャワーを浴びて汚れを落とし、軽く伸びをする。タオルで手早く体を拭いて服を着る。髪の水気をタオルで拭き取り、ランプの光量を落とす。道具入れから毛布を取り出してクッションの上に転がる。

「ふぁ・・・・・・」 

 欠伸が出る。ラグマットの効果かシャワーを浴びた結果か。最早、どちらでも良いな。

 毛布を被る。やって来た眠気に任せて、眠りに就いた。


エピソードタイトルが料理風になったが気にしない。

まだまだ連投続きます。

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