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森の中で救助した騎士の正体

 暗くなって来た道中、首と胴体が泣き別れした泥蜥蜴の氷漬けについて聞かれる。『そういやいたなぁ』程度の存在だったので、簡潔に『引き上げた際に足にくっ付いていた。襲い掛かって来たから氷漬けにした』とだけ答える。魔石回収し忘れたけど、買取価格は基本的に安いから、まぁいいか。

 不審者の可能性を考えて、男三人の素性を聞くと『リンドヴルム王国の騎士団所属』と返事が返って来た。騎士団なら王都中心が活動の場で、国境近くなら辺境伯が動くのが筋じゃないかと、尋ねると『辺境伯が対応し切れない程に、国境沿いの街道で魔物が続出したから数減らしの討伐で来た』と返答が来た。

 約一ヶ月前、辺境伯領の冒険者ギルドに顔を出した時に、そんな事は言われなかった。自分が来たのが、騎士団が辺境伯領に到着する直前だったからか? 真相は分からないが。

 逆に森にいた理由を尋ねられた。薬草の採集と魔物相手の魔法練習に、余裕が有ったらついでに調べてと頼まれた調査をしていたと答える。

 採集と練習については何も言われなかったが、調査については突っ込んだ質問を受けた。

「ゲトライデ王国の国境沿いの川で毒が検出された? そんな報告は聞いた事がないぞ」

「一度引き上げて、辺境伯に応援要請しますか?」

「・・・・・・そうだな。予定が少し早まるが、一度引き上げ情報を集めて、日程を組み直すか」

「城への報告はどうしますか? 城に報告してからだと調査に時間が掛かります」

「城には投函で報告する。ギルド長にも情報提供して貰う必要が有るな」

 金髪の騎士中心に話し合いが進む。自分の身長は三人の肩にも届かない。自然と三人の会話が頭上で行われる形になる。それにしても、金髪は騎士団の隊長格なのか? ホイホイ決めているから、責任者なんだろうけど。

 投函と言うのは、魔法陣が書かれた専用の封筒に手紙を入れて指定場所に転送する魔法だ。専用の封筒が有れば、国外にも手紙が送れる。便利だけど専用の封筒がいる。そしてこの専用の封筒は、五枚で金貨一枚と非常に高価だ。使用者は主に王侯貴族のみとなる。

 日が沈み切ったが、森の中を歩く。魚止めの滝を迂回した道を歩いているからか野営地はまだ遠い。暗い中を歩くのは色々と危険なので魔法で灯り代わりの光球を出そうとしたら、赤毛が威力を抑えた火球を出した。熱波の放出を抑えているのか、松明代わりの火球から余り熱を感じない。炎の熱が周囲に伝わらないようにするのは地味に高等技術の部類なので、ちょっと驚いた。

 そのままもう暫く歩き続けると、小さな灯りが見えて来た。炎のような赤い灯りではなく、蛍光灯のような白色の光。更に近付けば屋根と壁だけのテントと、数人の騎士も見える。彼らはこちらに気づいて、驚きの声を上げ誰かを呼びに行く。その様子を見て、金髪が怪訝そうな声を上げる。

「重傷者が出たと聞いていたが、全員治ったのか?」

 赤毛が灯り代わりの炎を消しながら答えた。

「ええ。辺境伯経由で購入した回復薬のお蔭です」

「薬師ギルドには良い顔されませんでしたがね」

 頭上で行われる男三人の会話に、奇妙な引っ掛かりを覚えた。薬師ギルドが良い顔をしない回復薬? 

 回復薬と言えば、森に入る前に薬師ギルドに『販売用回復薬試作三種(体力回復・魔力回復・異常状態解除)』の中級を三百本以上も卸したが・・・・・・違うよね? 街に戻ったら聞いてみるか。

 コートのフードを被りながら採集した薬草の種類を思い浮かべるが、薬草の種類と量が多いので確認しないと取り忘れが有りそうだ。

 野営地に足を踏み入れると、騎士格好の男が集まって来た。全員男で背が高いので、実にむさ苦しい。

「殿下! ご無事でしたかっ」

 不意に響いた単語に『ん?』と首を傾げる。今『殿下』って言わなかったか? 

「見ての通り無事だ。鎧は替える必要が有るがな」

「被害が鎧だけで良かったですよ。・・・・・・ん? そちらは?」

 視線が集中したのを感じ、逃げ出したくなったが両肩を押さえられているので諦める。ここに到着しても未だに赤毛に手を掴まれた状態だったし。幼児扱いかと内心突っ込んだが、逃亡防止としては正しいのかもしれない。

「森で会った。彼女から手当てを受けた」

 金髪の簡潔な説明に、フードでよく見えなかったが男が仰け反るように驚いたのだけは見えた。周囲もちょっと騒めいた。

「えぇっ!?」

「何だ、その驚きようは?」

 金髪ちょっと不機嫌そう。怒っているのか声が少し低くなった。

「だ、だって、女性嫌いが酷過ぎて、男しか近付けないから一時期、同性――」

「それ以上言うなら、今ここで、剣を捧げて貰うぞ」

 剣を捧げろとは『自害しろ』の別の言い方だ。王侯貴族や騎士にしか分からない隠喩みたいなものだ。

「あ、はい、申し訳ありません」

 素直に謝った。聞き分けが良い。金髪が本気っぽいのを感じ取ったんだな。

 少し気になったが、『同性』の後ろに何が付いたんだ? もしかして『愛』か? 首を捻って考えていると頭をポンポンされる。気にするなと言う事か。

 仰け反ったり謝ったりしていた男が、今度は屈んで下から自分の顔を覗き込んだ。金髪碧眼の軽薄そうな青年と視線が合う。

「それにしてもこの子、まだ子供ですよね? 殿下って、もしかしてロリコ――」

「ブルーノ。クルトは不慮の事故で死んだとこいつの家に報告しておけ」

「承りました。事故内容は適当にでっち上げます」

「冗談ですよ! つか、ブルーノ! お前も本気にするなよ!」

「この状況で冗談を言うお前が悪い」

「フリッツ!」

「お前が悪い」

「くっ、味方がいない」

 不真面目な方の金髪は地面に四つん這いになり地面を叩いて悔しがる。しかし、何かに気づいたように顔を上げて自分を見る。救援を見つけたような目で見られて、ちょっと引いた。

「いや、一人――」

「巻き込むなっ」

「あだっ!?」

 金髪の脳天に拳骨が落ちた。ゴキンッ、と人体で鳴ってはいけない音が響く。金髪は頭を押さえて『頭が~、頭が~』と地面を転がり回る。

「全く・・・・・・」

 頭上でため息が聞こえて来る。お調子者な部下を持った人間がたまに漏らすタイプのため息だ。転がり回っているこいつみたいなお調子者はいるとウザいけど、ムードメーカーとしての役割が有るから、いなくなるとちょっと困るんだよね。実力が無いなら切り捨てても良いんだけど。

 それはともかく。『ロリコ』のあとに何が付いたんだ? もしかして『ロリコン』か? 転生者の中に日本人がいて、『年下少女趣味=ロリコン』と広めたのか? 何て余計な知識を広めたんだ。

「気にしなくていいですよ。寧ろ、忘れた方が良い」

 再び頭をポンポンされる。完全に幼児扱いだ。そのまま手を引かれて進む。痛みに転がっている金髪は完全に放置。

 野営地内を歩くと好奇の視線が自分に集中し、そこかしこから『誰だ?』『子供らしい』『しかも女の子だってさ』などのひそひそ話が聞こえて来る。

 ぶっちゃけると、居心地が悪い。物凄く悪い。フードで顔を隠して良かったと思える程に。あー、逃げ出したい。

 男三人のあとに続いて、野営地のテントの一つに入る。仕切り布で作られた内部には、むき出しの地面の上にカウチとテーブルのセットが置かれ、奥にはもう一つの仕切りがあった。栗毛は真面目な方の金髪と一緒に仕切りの奥に向かう。自分は赤毛と取り残されたが、テーブル前のカウチに座らされた。赤毛はテントの入り口の布を降ろし、自分の正面に座った。

 何の話が始まるのかと思えば、ここに来る途中でも話した『ゲトライデ王国の国境沿いの川での毒物検出』の一件の詳細を教えて欲しいと切り出された。

 詳細と言っても、ゲトライデ王国に向かって流れる川の上流に異変がないか調べていただけで、しかも調査は途中。ギルドで貰った地図を出して、調査済みの川の位置を教え、明日にでも最後の一ヶ所の調査に向かう予定と話す。

 野営地からだとかなり離れており、早朝に行って帰って来るだけで日が暮れる距離だ。

 自分一人で行くのなら、空を飛んで移動するので時間はかからない。こう言う時、飛翔魔法が使えると便利だ。しかし、団体行動を取るとなると使用は出来ない。この世界に飛翔系の魔法は存在するが、使用者の数が少ないし、習得者はほぼ宮廷仕えのものばかり。一冒険者の自分が使えると判明すれば、しつこく勧誘されるのは目に見えている。自由の為にここは我慢だ。バラしてはならん。

 検出された毒の種類は不明だが、川の水が農業用水や飲料水に使用出来ない状態に有る事から『人体に有害』である事は確実。別の川の水や井戸水を使用している為水不足には陥っていないが長くは持たない。ゲトライデ王国はこれから乾期に入るので、迅速な解決が望ましい。

 と、ギルド長経由で聞いた見解も併せて話す。

「俺の許にはそのような報告上がっていないぞ」

 ボロボロの鎧から、金属板のない新しい簡素な革鎧に着替えて、栗毛と一緒に合流した金髪が険しい顔をする。それは討伐の方を優先して欲しいからじゃないかと思う。口には出さないけど。

「国の討伐隊が何時から森にいたのかは知らないけど、雨が上がった日にギルド長から聞いた」

 平民である事を強調する為に敬語は使用しない。敬語を使うのは商家か貴族か、貴族に仕える人間だけ。冒険者はまず使わない。子供と認識されている事もあって、誰も目くじらを立てない。

「それだと、我々が森に入ってから三日後に聞かされた事になりますね」

「何時ギルドに連絡が行ったかは不明だが、こちらが森に入った直後と見るべきか」

「時系列的には近そうですね」

「しかし、辺境伯が調査員を出していないでしょうか?」

 栗毛の疑問は尤もだろう。自分もギルド長にやってくれと言われて『辺境伯にやらせろよ』と速攻で返したし。

「領地内の別件で討伐隊を出しているからだろう」

「ギルド長に聞いたら、別で派遣した討伐隊に人員を割いたから人手が足りないって返って来た」

 金髪の推測を肯定すれば、男三人が揃って嘆息を零した。

「そもそもの話、どうして魔物が増えたんでしょうね?」

 何時やって来たのか。何時の間にか復活した不真面目な方の金髪が、淹れたお茶を全員に配りながら疑問を口にする。

「確かに原因不明だったな」

 真面目な方の金髪は『何時やって来たのか』と突っ込まずに不真面目な方から受け取ったお茶に口を付ける。赤毛と栗毛も突っ込まない事から『これが日常の光景』であると容易に想像出来た。そして出されたお茶は、意外な事に紅茶ではなくハーブティーだった。一口飲むと意外と少し酸味を感じるが美味しい。軽薄そうな見た目の割りにお茶の入れ方上手いな。

「おチビちゃん砂糖入れる?」

「ちょっと酸っぱいけど、このままでいい」

 砂糖は断った。ハイビスカスとローズヒップのブレンドティーのような酸味を感じるが、飲めない程に酸っぱくはない。

「ははは。しかし、貰ったモンをホイホイ飲むのは良くないぞ」

 不真面目な金髪は角砂糖を三つ入れ、笑いながら自分の頭を撫でて来る。子供扱いが酷いと思ったが、この世界の成人年齢はどこの国でも十八歳。十五歳の自分は未だに未成年なので我慢する。

「先に飲んだ人に、何も起きていないのに気をつける必要が有るの?」

「・・・・・・意外と強かだな」

 忠告っぽい事を言われたので、暗に『周りの奴を毒見役代わりにした』と言えば、不真面目は笑顔を引き攣らせた。黙って先にお茶に口を付けた金髪と赤毛も口元を少し引き攣らせている。栗毛に至ってはちょっとだけお茶を噴いた。

「森の中を歩いていた時、この辺りの魔物の数は多かったけど、こっちは少なかった」

 逸れた話を戻す為に、遭遇した魔物が多かった場所を地図上で示して行くと、不真面目男以外の三人の顔が引き締まった。

 ついでに遭遇した魔物の種類を挙げて、辺境伯が討伐隊を派遣した場所と未調査の川の場所を教えると、意外な事が判明した。

「この川が中心ですね」

 赤毛が深刻そうに口にすると他の男三人も同意した。

「偶然か否かは不明だが、行ってみるしかないな」

「ですが、この野営地からは離れ過ぎています。一度街に戻って、物資の確認と補充をしてからの方が良いでしょう」

「けどさ、斥候を何人か出した方が良いんじゃないか? この川の下流だけでも調べた方が良さげだし」

「往復でどれだけ時間がかかると思っているんだ」

「早朝にここを出ても、戻りは日没後、確定」

「遠過ぎる。辺境伯とギルド長から情報を得てからの方が良い」

 真面目な方の金髪の鶴の一声で、一度街に戻る事になった。自分? 子供扱いだから街に戻れと言われたよ。

 で。

 今後の方針が決まり、遅い夕御飯となった。

 野営地にいた騎士達は保存食の干し肉などで先に食事を済ませていた。方針決めの四人も当然の事ながら同じ食事らしい。

 しかし――

「うめぇ」「おい、見張りの分も残しておけよ!」「分かってる! てめぇらも確りと見張っておけよ!」「当たり前だ!」「俺の肉を奪うなぁっ!」「はっ、欲しくば俺の屍を越えて行け!」「うんめぇ」「肉ー。新鮮な肉ー」

 焼き台を中心に行われる肉の奪い合い。見張り番の騎士は『きいぃぃぃっ』と高周波を漏らしながら焼き台を凝視している。いや、仕事をしろよ。

「美味いな」

 両手に持った串焼きを優雅に食べる真面目な方の金髪改め、リンドヴルムの()()()()は食べる手を休めない。それは側近三人も同じだった。

タイトル回収出来ました。忘れていた女神の加護の恐ろしさ。そして、登場人物紹介で菊理のところに書いた出来事がまさかの発生ですが、何時か書きたいシーンの一つでした。


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