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街に戻ったけど、何でこうなるの?

 翌朝。

 朝食を簡単に済ませテントを片付ける。見張り担当の騎士に一声かけてから、薬草採取用の籠を片手に野営地を出て森に入る。出発までの時間を利用して少しだけ材料を採集して置く。

 欠伸を噛み殺しつつ薬草を探し、見つけては摘み取って籠に入れる。余り野営地から離れない事も忘れない。

 野営地を一周したが、余り集まらなかった。街に一度戻ってから、もう一度森で集めよう。

 収穫の無さに肩を落としつつ、野営地に戻る。少し離れていただけで、野営地の撤去作業は半分以上終わっていた。

 撤去作業が終わると街への移動となる。

 作業が終わるまで邪魔にならないところで採集した薬草の仕分けを行う。

 正直、先に戻りたいが『道案内』が今の仕事なのだ。案内している以上、街に戻るまでが仕事の範疇に入る。

 仕分け作業が終わっても、撤去作業はまだ終わっていない。道具入れに仕舞い邪魔にならないところで・・・・・・観察はしない。鬱陶しいだろうから適当な樹の枝の上に移動してぼんやりと今後の予定について考える。

 最初に、街に戻ったら冒険者ギルドに向かい、依頼達成の報告と報酬を貰う。

 次に、宿で一晩休んでから再度森で薬草の採収を行う。必要量が溜まったら街に戻る。

 最後に、薬師ギルドで調合用の部屋を一部屋借りて回復薬の製薬作業に入る。完成したら全部売る。

 こんなところかな。

「おーい。そろそろ出発するぞー」

 下から声が掛かった。簡単に返事を返して枝から降りる。

 そのまま騎士団と一緒に移動を開始する。

 街まで無言のまま移動した。



 日がやや傾いた頃に街に到着した。

 予定通りに冒険者ギルドへ独りで向かい、依頼達成の報告を行った。先に戻った辺境伯の使いから連絡が届いていたらしく、報告はスムーズに終わった。

 また、予想外の大物が出たと言う事で、報酬は金貨三枚から白貨三枚に上がった。紺青大龍の魔石は国王への献上品となり、その他の部位は辺境伯とギルドで半分にするそうだ。

 魔石は国(騎士団では無い)で、その他は辺境伯と冒険者ギルド。

 割合がおかしい気もしなくは無いが、辺境伯は国境沿いに領地を持ち『それなりの戦力を所有していないと困る』貴族でも在る。爪や鱗で武具を作り、辺境伯家の戦力の強化をしろと言う事だろう。

 冒険者ギルドは案内人を派遣した事による人件費と今後の運営資金をオークションで回収する為。

 対して騎士団は国が保有する戦力。戦力に偏りが出ては困るのかもしれない。団員の編成的に。

 どう推測しようが、最終的な判断は政治的な理由の可能性が高いな。

 考えても関係のない事に思考を回しても意味は無い。

 予定通りに、二日前とは違う冒険者ギルドが運営している宿へ向かったが、途中でクルトを発見し、反射的に幻術で姿を消して隠れてしまった。

 ・・・・・・済まないが、今日はもうベッドで寝たいんだよ。

 王子から伝言を預かっている可能性が有るけど、今日はもうご飯を食べて寝たい。

 そのまま宿まで、こそこそと移動した。

 そして翌朝。

「やっほー」

 食堂で朝食を食べていると、クルトが現れた。許可していないのに正面に座った。

「何しに来たの?」

 少し考えて、口の中のものを嚥下してから、用件を問う。

「至急知らせなきゃならない事が出来たんだよ」

「このあと森に行かないと何だけど」

「何で森にまた行くの?」

「誰かさん達が、買・い・占・め・た・せ・い・で、もう一度納品してくれって泣き付かれた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだったのか」

 長い沈黙のあとに、クルトは絞り出すようにそれだけ言った。

 それはそうだろう。

 ここが宿の食堂なので一応暈したが、内容が判る人間には『お前らのせいだよ』と責め立ての文句に聞こえるだろう。

「最低でも十日ぐらいの時間が掛かるけど、一度に大量に作れるから三百以上も納品したのに」

「いや、十日も掛かるの!?」

「一番効果の高い奴はね」

「ええ~」

 クルトが顔を強張らせて驚いている。実を言うと、時間の短縮は可能だが言わない。

 製薬工程を知らない奴からすれば当然か。もしくは短時間で製薬可能な効果の高い回復薬を知っているのかもしれない。

 是非とも、自分が生産するものと効果を比べて見たい。

「そう言う訳で、最低でもあと十数日は予定が入ってる」

 朝食を素早く食べ終えて、クルトの前から移動した。



 憂鬱な気分で、街を出て、籠を片手に森の中を歩く。

 昨日までいた森の中に逆戻りとは。

「何て言うか、ツイて無いなぁ・・・・・・」

 そもそもの始まりは何だったかと思い返す。

 ギルドで調査依頼を受けて森に赴き、薬草を集め魔物を狩りながら四ヶ所の川を巡り、滝壺に落ちた人物を拾った。

 騎士だと思って救助したら、まさか王子だったとは・・・・・・。

 恋愛脳(スイーツ)女神の加護(?)が強過ぎる。

 どれ程時間か経過しても消えない加護ってどうよ? いや、消えたらある意味駄目なんだけど。

 世界問わずに権力者と遭遇率が上がるって、ある意味諸刃の剣だ。いや、禍福は糾える縄の如しと言うべきか。

 馬鹿と腹黒のどちらかにしか会っていないんだけどね。普通な権力者っていないな。腹黒じゃないとやって行けないから、ある意味仕方が無いんだけど。

 薬草を摘みながらふらふらと森の中を歩く。

 籠が一杯になるまで採集しても、足りないだろう。前回と同じ本数を作るのならば、最低でも籠四杯分が必要となる。前回納品した回復薬の等級は中級だが、納品する本数を考えるとこれぐらいの量が必要となる。

 森の中を彷徨うように歩いて薬草の採集を行い、必要本数を作る為の量が確保出来たのは五日後の事だった。



 五日振りに街に戻り宿で一晩休んでから、数日前と同じように薬師ギルドで作業室を借りて作業を始めた。

「ふぁ・・・・・・」

 欠伸を噛み殺す。作業を始めるとのんびりと休む暇は無くなる。上級辺りを作るのなら一晩掛けて冷ませば良いが、中級を作る際には何度か急激に冷まさなければならない。。下級に至っては、全ての冷ます工程を魔法を使用して急激に冷ましている。

 この冷まし方にも手順が存在するのが厄介なところだ。一度製薬方法を見直そうかな。

 ぼんやりとあれこれ考え、しかし作業の手は止めない。

 作業が終わったのは更に六日後。七日は掛りそうだなと思っていたが、全て納品する事を条件に、販売用の小瓶への移し替えを薬師ギルド総出てやってくれた。ギルド長までもが、見習いがやるような事を嬉々としてやるってどうよ? そんなに欲しかったのかよ。

 内心でドン引いたが、前回と同じ金額を代金として受け取った。最後の作業で多少値段が下がるかと思っていたのでちょっと驚いた。

 六日振りに宿に戻り、ベッドで爆睡。

 翌朝。何時かの時のようにやって来たクルトに捕まり、もう会わないだろうと思っていた王子と何故か会う事になった。



 「は? 噓でしょ? 聞いた事が無いんだけど」

 呼び出されて、王子から聞かされた内容は、一度も聞いた事の無いものだった。

「やはり知らなかったか」

 溜息すら零さず、王子は諦め顔で天井を仰いだ。他の三人は額に手を当てて、深ーくため息を吐いている。

 そんな反応をされても困る。こっちは何も教えられていないのだから。

「今更過ぎてため息を吐きたいのはこっちなんだけど・・・・・・」

 言っても意味は無い。現実は変わらない。

「思う事しかないだろうが、これは国の決定事項だ。下手をすると、シュヴァーン王国との外交問題に発展する。城で一度会うだけで良いから、一緒に来てくれ」

「えぇー・・・・・・」

 外交問題とか、知った事じゃないんだけど。実家が原因なんだから実家に責任取らせろよ。

 決定事項を告げられて、自分も王子と同じように天井を仰いだ。

 王都への出発日は明日。

 なお、王子達は辺境伯領での仕事を全て、既に終わらせているので、出発が延期になる事は無かった。

 嫌だと言っても王命を盾に却下された。

 散々だな。



 そして翌日。

 現在、王都へ向かう馬車に乗っている。何故か王子と同乗である。側近三名は、一名御者残りは其々の馬に乗っている。王子と二人っきり。実に気まずい。

 昨日の内にギルドと辺境伯への出発の挨拶を済ませた。逃亡の計画も立てたが、失敗に終わった。フリッツの奴、勘が良過ぎるだろ。

 窓から外を眺めながら、逃げ出したいと内心ため息を吐く。

 正直、今更過ぎる。戻りたくもない。あそこはもう、帰る場所では無い。

 散々放置され、三年も経過しているのに、今更になって『戻って来い』とか、有り得ない。管理出来ていないそっちが悪いだろ。

「そんなに嫌か?」

「嫌ですね。片手で数える程度しか会った事の無い人間の尻拭いをさせられるのは」

 王子の問いに即答。顔すら向けずに回答した。

 馬車での移動は非常に退屈だ。王都で合流する事にして、別手段で移動すれば良かったな。賭けても良いが、自分の方が先に着くけど。

 失敗したなぁと、心の中で嘆いた。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

第一章、辺境伯領編完結です。ここまで書き上がっていたので、お蔵入りにするか悩みました。


王子と出会ったのに『恋愛? 何それ? お米よりも美味しいの?』状態なオルトルート。王子が堅物過ぎるのも原因か。

エーベルハルトとオルトルートがくっつこうにも問題山積み状態な上に、エーベルハルトにはオルトルートと同い年の甥っ子がいるから頭を抱えそう。でも、甥っ子と取り合いになる未来が浮かばない方不思議。

そんなエーベルハルトの両親はケタケタ笑って、砂被りで見物に走る。そんな両親を諫めない兄王子達。末っ子が堅物で苦労人。割と珍しいかも。


続きは王都編になりますが、何時書き上がるか分からないので、ここで一旦完結とさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
続きを…続きをください!! (ノД`)・゜・。
[一言] ここからのざまあ展開。 王子との関係性はどんなふうに変化するのか。 冒険者としての活躍は? などなど、第2章に期待が高まります。
[一言] 十二で追い出されて、凄腕冒険者になっていたとか格好良いですね。苦労もしたでしょうけども。 本人しっかりしてそうですが、国や侯爵家にいいように使われないといいなと思います。続きが読みたいです!…
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