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紺青大龍を討伐せよ

 互いに風を操り相手の飛翔を妨害しながら攻撃を放つ。『風の影響を受けない』重力魔法による疑似飛翔のお蔭で、紺青大龍の飛翔妨害はほぼ無効化出来ている。

 しかし、互いに決め手となる攻撃が放てない。向こうも同じ事を思ったかもしれないが、こいつは思っていた以上に素早く動くのだ。

 互いに攻撃は中々当たらず、決め手となる攻撃も放てず、戦いは自然と長引いた。こちらは無傷だけど、彼方は多少の負傷している。

 頃合いを見てスパーンと首を断ってやろうと思っていたのだが、この長引きは予想外だ。

 いっその事、強引に近づいて斬るかと考える。しかし、魔力で足場を作り、縮地を使っての接近も試したけれど、悉く失敗に終わっている。

 飛翔は強風の影響を受けないが、上を取ろうとすると強風に混じって雷撃が飛んで来る。

 誰かに見られると面倒な事に発展しそうな空間転移魔法で接近するしかないのか。

 紺青大龍との距離は目算で百メートル弱。この程度の距離なら、ゲートを使わずに移動可能な距離だ。

 仕方が無いと腹を括った時、下方から紺青大龍に向かって金色の閃光が走る。紺青大龍は慌てて身を捻ったが、閃光は尾に近い腹部を貫通。そのまま横にズレて腹部を切断した。切断された尻尾は森に落下し、押し倒された木々が倒れた轟音と衝撃で鳥が空へと逃げ惑う。

「ドラゴンブレス・・・・・・クラウス?」

 予想外の光景に、この世界にいない筈の知り合いの名が口から零れた。無意識に左右を見回して姿を探してしまう。

 金の閃光には見覚えが有る。口から零れた通り――本人は余り使わないが――クラウスが使う『圧縮したドラゴンブレス』に色も威力も似ている。

「クラウスとは誰の事だ?」

「は?」

 再び下方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。思わず下を見ると、一対のドラゴンの翼を背負った王子がいた。

 髪と瞳の色が似ているからか、この世界にいない奴と姿が被って見えた。頭を振って思考から追い出す。

 ・・・・・・それにしても、『リンドヴルム王家は竜の血を引く一族の末裔』って話は本当だったのか。

 自分の横に並ぶ王子を見ながらぼんやりと思い出すが、呆けていられた時間はそう長くはなかった。

 怒りの籠った咆哮と共に、鎌鼬が混じった強風と雷撃が飛んで来た。王子が飛翔による回避を試みないように腕を掴んで引き寄せ、同時に障壁を展開して全て防ぐ。

「空に上がって来たんだから、何か策が有るの?」

 風の魔法で障壁が攻撃を防ぐ音量を落とし、引き寄せた王子に問い掛ける。

「・・・・・・流石に空戦の経験は無い」

 策云々以前の王子の返答に、何しに来たんだよと突っ込みたくなった。

 少々手詰まりになって来たところにやって来たから、それなりに良い策が有るのかと思えば・・・・・・無かった。現実は無情だな。

「さっきの攻撃、まだ使える?」

「使えるぞ」

 ドラゴンブレスに似た攻撃がまだ使えるのなら、いっそ頼んでしまおう。本来ならば、王族に頼むような事じゃないんだが。

「囮をお願い」

「囮?」

 困惑気味に鸚鵡返しで尋ねて来る王子に言葉を重ねる。

「もしくは紺青大龍(あれ)の気を引いて」

「・・・・・・分かった」

 何か言いたげな顔をしていたが、王子は頷いた。初の空戦らしいので、魔法の威力を上げる強化魔法を掛けてあげよう。死なれたら困るからね。

 そんなやり取りをしていると、紺青大龍が放った攻撃が一度途絶えた。障壁を解除して左右に分かれる。紺青大龍の視線が自分に向いたが、王子が攻撃を放って気を引きに掛かる。数度の攻撃を受け、紺青大龍の意識が王子に向かう。その瞬間に魔法で姿を消し、紺青大龍の上へ移動する。

 王子が何時まで持つか分からない。なるべく手早く済ませよう。

 途中から邪魔になり道具入れに容れた漆を手元に召喚して抜刀。軽く息を吐いて集中し、眼下の紺青大龍に向かって落下しながら魔法を発動させる。

 使用する魔法は二つ。

 一つは刀身を望んだ大きさに伸長させる光属性の魔法――白刃(はくじん)

 もう一つは空間ごと割断する、空間に干渉する魔法が使えなければ防御不可能な攻撃魔法――絶境(ぜっきょう)

 漆を大上段に構えて刀身を伸ばし、絶境を発動させて、一気に振り下ろす。

 頭上に気づいた紺青大龍がこちらを見上げて回避行動を取るが、王子が魔法を放って妨害する。

 空間割断攻撃だからか、骨まで斬ったにも拘らず、手に伝わる手応えは軽かった。一拍置かずに、自重で紺青大龍の首と胴体が二つに割れて眼下の森に落ちた。

 木々をなぎ倒し、尻尾が落下した時以上の地響きが鳴り響き、盛大に砂埃が舞った。先程と違い鳥が空へと逃げ惑う姿が無い。尻尾が森に落ちた時点で殆どが逃げたようだ。

「・・・・・・はぁ、終わったぁ~」

 残心を解き、魔法を解除して納刀。そのまま道具入れに仕舞う。バサリと、羽音が正面から聞こえて来たので顔を上げる。そこには目頭を揉んでいる王子がいた。

「囮ありがとう」

 お疲れ様と言うべきか迷ったが、先に礼を言って置こう。

 そう思い礼を言ったが、目頭を揉むのを止めた王子の顔が仏頂面になった。

「・・・・・・貴様。秘術の使い手だったのか」

「はい?」

 呆れ果てたと言った感じの王子の台詞に、自分は意味が分からず首を傾げ、率直に尋ねた。

「秘術って何?」

「まさか、知らないのか!?」

「?」

 信じられないと言わんばかりに、王子の顔が盛大に引き攣った。

 どう言う事? と、傾げていた首を反対側にコテンと倒す。疑問符を頭上に浮かべていると、頭が痛いと王子は片手で目を覆った。

「貴様、先程俺に強化魔法を掛けただろう?」

 視線を合わせ、確認事項のように問われたので素直に頷く。

「強化系の魔法が存在しないのは知っているな?」

 言葉を区切って、念を押すように確認して来る。意味が分からないが、知っているので取り合えず頷く。

「この大陸で、強化魔法が唯一使える家系が存在するのは知っているか?」

「え? 知らない」

 素直に答えると、『やはりか・・・・・・』と絶望したような声と共に王子は天を仰ぎ、問いの回答となる言葉を紡いだ。

「・・・・・・強化魔法が使える唯一の家系は――シュヴァーン王家だ。そして、強化魔法はかの王家の秘術に該当する」

「え゛」

 予想外の情報に思考が停止した。

 この王子は今何と言った?

 強化魔法が、シュヴァーン王家の秘術に該当する? いや、そもそも、

「秘術って、何?」

「やはり、何も教えられていないのか」

 疑問が口から零れると、ため息を吐いた王子は再び仏頂面になった。しかし、律儀にも教えてくれた。

「秘術とはな、各国の王家に伝わる『血統魔法』の事だ。どこの国も『王家の秘術』と呼んでいるが」

 血統魔法、か。確か『特定の血を引いていないと使えない魔法』の事を言う。こればかりはどんなに学び練習しても『特定の人物の血を引いている事が発動条件』なので、取得出来ない魔法だ。逆を言うと、『血統魔法が使える=どこの血筋の人間か特定可能』と言う事でも在る。

「我がリンドヴルム王家は『竜化』だ。シュヴァーン王家は『加護と祝福』、厳密には『他者の強化と回復』だ」

 王子の解説に自分は絶句した。

 同時に、自分が元貴族令嬢だと言う事もバレたと悟った。思わず距離を取ろうとしたが、移動するよりも早くに王子に片腕を掴まれる。

「現在のシュヴァーン王家に王女はいない。貴様はどこの家の人間だ?」

 険しい表情をした王子の尋問に、口元が引き攣ったのが判った。

 王家の秘術について詳しい事は何も知らない。ついさっきまで、存在すら知らなかった。父は侯爵だったから秘術について何か知っていた可能性が高い。しかし、二度しか会っていないし、自分に関する報告も受けていないだろう。

 眼光鋭く自分を睨む王子に何と答えれば良いのか分からず、母親が王家筋で十二の時に家から追い出されたと、冒険者になるまでの経緯を簡単に語った。

「・・・・・・」

 すると、今度は王子が絶句した。

 普通は驚くか。公爵令嬢を母に持つ令嬢を家から追い出す馬鹿がいるとかさ。政略結婚の経緯を考えると『血筋の管理』が目的とも取れるのに。それに気づかず色々とやらかしてるんだもん。

 何とも言えない沈黙が降りた。

 王子は思考が停止したのか、一向に再起動しない。掴まれていない方の手で、王子の肩を叩いて正気に戻す。

「何が問題なのか知らないけど、地面に降りよう。他の皆が心配する」

「・・・・・・・・・・・・そうだな」

 長い沈黙のあとに王子は頷いた。

 すっかり忘れていたけど、空に浮き上がったまま会話している場合では無い。紺青大龍を討った処理が残っている。地上がどんな状況になっているかも分からない。負傷者がいる事は確定だけど。

 片腕を掴まれたまま、王子を促して地上に降りる。ある程度の高度にまで降りたところで、ふと湧いた疑問について尋ねる。

「背中の翼はそのままで良いの?」

「・・・・・・そのままでいい訳無いだろう」

 先程の会話の衝撃が抜けきっていないのか。それとも、今になって思い出したのか。王子はやや間を置いてからぶっきらぼうに答え、背中の翼を消した。

 しかし――

「あ」

「ちょっ――おぉっ!?」

 翼って出し入れ可能なのかと、感心する間も無い。

 地上まで目算二十メートルの高さが有ると言うのに、王子がうっかりミスをやらかした。フリーフォールで地面に着地する気か!?

 揃って慌てたが、片腕を掴まれたままだった事が幸いし、王子は助かった。

 重力に引かれて王子が地面に向かって落下しかけたが、自分の腕を掴んでいたお蔭で宙ぶらりんになる程度で済んだ。代わりに肩が痛い。体重が倍近くある男に全体重を掛けて腕を引っ張られたようなものだが、肩が脱臼しなくて良かった。

 王子にも重力魔法を掛けて自重を軽減させて一緒に降り、地面に着地する。

「~~~~っ」

「済まん。大丈夫か?」

 腕が解放されると同時に、涙目になりながら痛めた肩に手を当てて治癒魔法を掛ける。痛みは早々に消えたが、肩を回すと音が鳴った。時間が有る時に鑑定魔法を使って肩の状態をチェックしないと。

 目尻に浮かんだ涙を拭い文句を言おうと口を開いた直後、栗毛を揺らしたフリッツがやって来た。その後ろには数名の騎士がいる。

「殿下! ・・・・・・何をやらかしたのですか?」

「あ、ああ、いや・・・・・・」

 フリッツは王子の無事を喜んだが、涙目になり肩に手を当てた自分を見て動きを止め、不審者を見るような目で王子を見る。

 王子は何と返答すれば良いのか迷い目が泳いだ。堅物王子が狼狽える姿は、何と言うか、滑稽では無く、面白いでも無く、微笑ましい(?)ものだった。

「こほんっ、フリッツ。紺青大龍の討伐は完了したが、辺境伯はどうしている?」

 露骨な話題の逸らし方に、フリッツは胡乱な眼つきで王子を見る。後ろの騎士達は『何をやらかした?』と、ひそひそと小声で会話をする。

 フリッツは目を合わせない王子を数秒見つめていたが、徐にため息にも似た大きな息を吐いた。

「時間が惜しいので今は良いでしょう」

「悪いな」

 どうやら諦めがついたらしい。『悪いな』で済まされる辺り、慣れなんだなと思う。

「辺境伯達は治療後に、紺青大龍の残骸の回収を行うそうです。大急ぎで凍結処理を行っています」

「分かった。急いで合流しよう」

 王子は早口でそう言うなり歩き始めたが、フリッツから無情な突っ込みが入る。

「殿下。どこに向かう気ですか? 方向が違いますよ」

「む。済まん」

 一体どこに行く気だったのか。王子は全く違う方向に向かって歩き始めたが、フリッツの突っ込みを受けて歩みを止めた。その後ろ姿は恥ずかしそうだった。

 改めてフリッツの案内で移動する。騎士達は殿として自分と王子の後ろを歩く。

 歩きながら治療を終えた肩を回す。音は鳴らない。痛みも無い。感覚にも問題は無い。これなら大丈夫かな?

「まだ痛むのか」

「もう大丈夫です」

 肩の調子を見ていたら王子に問われた。肩を痛めた原因だから気になっただけだろう。

 辺境伯領での仕事が終わったら、彼らとは別行動だ。一緒に動くメリットも無いしね。

 辺境伯と合流地点に向かいながら、残りの仕事内容を思い返す。

 回復薬を再度生産納品する以外には無かった筈。一度街に戻り薬師ギルドで何本納品すれば良いのか確認するか。そうすれば、使わなかった分を引いた量を作れば良い事になる。しかし、作れるだけ作ってと言われる気がする。どこに行ってもそうだったし。最大で作れる上限をこちらで決めると『それで』と言われそう。

 やっぱりこちらである程度の本数を作って持ち込むのが良いな。

 結局、何時もの結論に落ち着いてしまった。

 何本作るか考えながら、無言のまま歩き続けた。



 その後。

 予定外の大物討伐が終わり――辺境伯達は合流後に強行軍で街に戻った――自分は王子達と一緒に昨日設置した野営地に戻った。

 帰りの足取りは重い。忘れていたが、色々とバレてしまったからと言うのも有るけど、王子に関する機密情報を知ってしまった事も含まれる。

 リンドヴルム王家は竜の血を引く一族の末裔と言う、与太話と言うか『王族に相応しい盛った作り話』が存在する事は知っていたが、まさか事実だったとは。知りたくも無かった。と言うか、自分からバラすなよ。

 沈黙の制約術の対象だよな、コレ。いや、制約術を交わすだけで済むのならまだ良い方かも。口封じか取り込みの対象にされる方が面倒だ。色々と。

 王子の側近三人が『大事にならないように配慮する』と言ってくれたが、公爵家の人間の言葉をどこまで信用して良いものか。だってこいつら、自己紹介時に『家名』を名乗らなかったんだぜ。途中で切り捨てられそうだ。

 今色々と警戒しても意味は無い。昨日と同じように夕食を作って食べて、テントに引き籠った。


討伐完了だけど、一難去ってまた一難と言った具合です。

残り二話で終わりとなります。

エーベルハルト視点を挟みます。


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