7.私を弟子にしてください
私は悩んでいる。
薬師に会ってからというもの、もしかして彼ならば流行病を治療することが出来るのではないか?と思うのだけれど、どう助けを求めればいいのかわからないのだ。
私が未来を知っていると言っても、それを信じてくれるとは到底思えない。
そもそも絶対に起こるかもわからない。だって私が知っている過去と同じこともあれば違うことだってあるんだもの。
しかし知っていながら何もせず、また大切な人がいなくなってしまうのをみていることなんて出来るわけがない。
もしかすると私が流行病をなんとかするために過去に戻ってきたのかもしれない。
なら…でも…いや…
ぐだぐだと悩んでいる間に時間はどんどん過ぎていく。
私がそれを決めたのは真夜中だった。
決めてすぐに行動に移さないと、またぐだぐだと悩みそうで何も考えずに準備を始めた。
外はまだ真っ暗だ。あぁ今夜も月がきれいだな。
寝ようとしても緊張して眠れない。それでも明日に備えて目を閉じた。
朝日が顔を出す前に家を出た。
母さんと顔を合わせたら決心が鈍りそうで、そうっと家を出た。
逃げるように、走った。走って走って、昨日来た隠れ家までやってきた。
ゼイゼイと呼吸が苦しい。
ようやく辺りが明るくなってきたばかりだ。
彼はまだ寝ているかもしれない。
早朝の空気はまだ冷たい。
私焦ってるな。
気持ちを落ち着かせるために、一つだけ握りしめてきたパンを齧ろうとした時、薬師の彼は出てきた。
えっ!?早くない!?
「ぎぇっ!?」
しばらく待つつもりだったのが、こんなに早く彼の姿を見つけてしまい驚いて変な声が出てしまった。
彼も驚いたようにこちらを見ている。
そりゃあ驚くだろう。
こんな朝早くから、森の中でパンを握りしてめている人がいたら。
「君は昨日の子かな?」
先に言葉を発したのは薬師の方だった。
「はっ、はい。あの、私リリーと言います。あの、あの」
うまく言葉にならない。落ち着け私!
大きく息を吸い込んで
「わたしを弟子にしてください!」
と、勢いよく頭を下げた。
「頭をあげてくれ。
私は旅をしながら薬師をしている。だから弟子は取らないことにしているんだよ。すまないね。」
私には彼を説得するだけの言葉がなかった。
「それでもお願いします。旅について行かせてください。お願いします。」
ただただ頼むことしかできない。
未来という不確定要素の為に薬師になりたいと言っても信じてはもらえないだろう。
冷たく私を見下ろすけれど、今は目を逸らせることなんてできない。
私はじっと見つめ返した。
「…ふぅ。…なんで?」
なんでとは?
「なんで私なんだい?町にだって薬師はいるだろう。彼らに弟子入りした方が楽だよ。」
「私は大切な人の命を守りたいんです。
あなたは旅をしているからこそ、知識の幅が彼らよりもひろいと思うんです。」
しばらく考えているのか沈黙が続いた。
「私はこれから薬草の採取に行ってくる。昼頃には出立する。
君は大切な人たちとしっかり話をしてからもう一度ここにおいで。」
はっとした。
私が何も言わずに出てきたのがわかったのかもしれない。
確かに旅に出てしまえば、次いつ会えるかわからない。もしかすると2度と会えない可能性だってあるのだ。
「わかりました。」
頷くと私の頭にポンと手を置いてきた。
「大切な人を守りたいのなら、その繋がりも大切にしなさい。」