3.幸せな日常
お店に行くとすでに母さんの手によって開店準備が終わっていた。
元気がないと言われて誤魔化したけれど、引きずっていないで気持ちを切り替えよう。
お店で出しているお菓子は母さんとレティさんが作っている。
レティさんの作るプディングはこの店の1番人気の商品だ。
母さんの作るケーキもとても美味しい。二人とも紅茶について詳しくて、庶民だけじゃなくて高貴な方も御贔屓にしてくれている。
チリンと音がして振り返ると常連のお客様が入ってきた。
今日は奥様も一緒だ。
「いらっしゃいませ!商会長様、奥様!」
「今日もリリーは可愛らしいね。」と社交辞令を言ってくれる。
アンドリュー様はファラッド商会の商会長をされていて、このお店の物はファラッド商会から仕入れている。
茶葉の種類が多く、コーヒーを取り扱っているのもファラッド商会だけだ。
銀髪の美しい髪に碧色の瞳をしており、奥様にいつもデレデレしている可愛らしいおじさまだ。
週に2、3回は来店してくれる。
奥様のイザベラ様は王都で化粧品のお店をやっていると聞いたことがある。
髪も肌も美しくて美意識の高さがうかがわれる。
よく母さんとお茶について話をしている。
このご夫婦は本当に仲が良くて憧れの存在だ。
いつか私も素敵な人と結婚してこんな風になりたいと思っている。
「サンドイッチのランチセットを2つお願い。飲み物は食後に紅茶とコーヒーを一つずつね。」
「かしこまりました。準備ができるまでごゆっくりおくつろぎください。」
まだ店内はあまり人がいないけれど、カウンターに並んで座っている。
このお二人の定位置だ。
お昼近くになってくるとランチのお客様たちがぞろぞろとやってきてお店の中は混雑してきた。
今日は平日だけれど、なんだかいつもよりも人が多く忙しい。
その忙しさのおかげで、余計なことを考えなくて済んだのは良かったかもしれない。
ランチが一段落したところで、私たちも交代交代で休憩を取りながらお昼ご飯を食べる。
今日の賄はレティさんが作ってくれた魚介のパスタ。
それにスープとサラダがついている。
魚介のうまみが最高!
母さんとレティさんの作る料理もお菓子もすごく美味しくて評判がいい。
私はまだまだ料理のことも紅茶のことも勉強中だ。早く二人のようになるんだ。
忙しさと美味しいランチのおかげで、セイラとのことはあまり気にならなかった。でも…
「私たち友達だと思ってのは、私だけだったのかしら…」
そしてふと気づく。
私ってこれからの未来のことは知っている。なんとなく現実をやり直しているような気がするのだ。
予知夢とかじゃなくて、実際に経験してたぶん私は死んだ。
そして過去に戻ったのかもしれない。
しかし前回のセイラの様子がおかしいなんてことはなかったと思うのよね。
よーく思い出せリリー!!するとおぼろげながらお互いに泣きながら抱き合っていたはずだ。
そのあとも何度か手紙のやりとりをした。
やっぱり今日の様子は明らかにおかしい。
すぐに和解するのは難しいかもしれないけれど、きっといつかまた一緒に笑えるはずよ。
またおばさんの所に行って、セイラのことよく聞いてこよう。
よしっ!と気合を入れなおして片づけをしてから再びお店に出たのだった。