28.イグラクト王国に到着
次の日私たちはデポネさんや町の皆さんに挨拶をして再び旅に出た。
あと2日も歩けばイグラクト王国に着くそうだ。
道中魔法のことを教えてもらったり。魔力制御の訓練をしながら移動した。
「これは魔力がある者は必要な訓練です。しかしリリーの魔力はとても珍しく誰かに見られると危険です。できれば魔法は2度と使わないで欲しい。
しかしこの約束は君の身に危険が迫って身を守るためには必ず使ってください。」
人を救うことができる力を持っているのに使ってはいけないのはどうしてなのかリリーにはまだ理解できなかった。
でもギイからもデポネからも言われて、母からは魔力を封じる腕輪まではめられていたのだ。理解はできないけれど、理解したいとは思っていた。
いくらしっかりしていてもリリーはまだ子供だ。
子供には大人の事情はよくわからないわ。
というか、師匠が魔法が使えるだなんてびっくりだわ。
魔力は強くないのですごい魔法が使えるわけではないけれど、索敵なんかは得意だと教えられた。
昔から山の中に薬草を取りに行くのに魔物と戦うよりも、魔物を避けて通る方がいいからと練習したのだという。
「ごめんなさい、師匠は方向音痴なんだと思っていました。」
ふふっ。
ギイは笑って誤魔化したが、魔物を避けているうちに道に迷っていることが多かった。
方向音痴なのは間違いないのだが、自分のメンツの為に黙っていることにした。
最初は難しかった魔力制御は訓練をするうちに簡単に出来るようになった。
魔法を使うことを禁じられてはいたけれど、掌から糸のような細い魔力を出して動かすことすらできるようになってしまいギイは頭を抱えた。
リリーは恐らくしっかりとした魔法の師匠に習えば大魔導士にでもなれそうだな。
他の人がいる前では魔力を放出することのないよう再度注意をすると、わかっていると軽やかな返事があった。
ゆっくりと歩いていたので3日目の朝にイグラクト王国へ入る検問所に着いた。
大陸で唯一東方諸国との貿易をしているため、いろいろな国から商人が買い付けにくる。
朝の時点ですでに検問所には行列が出来ていた。
リリーはまだ子供ゆえ親子のふりをすることで入国することができたが、時間がとられすっかり昼を過ぎてしまった。
イグラクト王国に入るととても色鮮やかな町が広がっていた。
明るい音楽が聞こえる方に目を向けると人だかりが出来ている。
そこでは踊り子たちが音楽に合わせて美しい舞を披露していた。
リリーは興奮して人だかりの方へ走っていってしまった。
仕方なくギイも後ろから追いかけた。
踊り子たちは色鮮やかな衣装に身を包み美しい化粧を施している。
その顔には妖艶な笑みを浮かべている。美しいが顔の区別がつきにくい。
しかし一際美しい女性が出てきた瞬間歓声が上がった。
彼女が主役なのだろう。
誰もが目を奪われ時間が経つのも忘れるほどの美しい舞だった。
その女性とリリーの目が合ったのは、ほんの一瞬のことだった。
曲が終わると1人の男性が大きな花束を持ってその女性の前に歩みを進めた。
「誠に美しかったレディジョーカー。どうか私に、今夜あなたをディナーに誘う誉を。」
手の甲にキスを落とした。
うわっ!?なんて気障なのかしら
身なりから貴族か、平民でもかなり裕福な家の男のようだ。
レディジョーカーと呼ばれた美しい女性は花束を受け取ると踵を返し奥へと戻ってしまった。
男は嬉しそうに戻ってきた。そっと花束を受け取ることがOKのサインなのだと教えてもらった。
人だかりはすぐに散り散りになった。私たちも近くの屋台で何か食べようと探していると男が走ってきて声を掛けられた。
「レディジョーカーがぜひあなたと話をしたいと申しております。一緒に来てもらえないでしょうか?」
顔を見合わせて、しかしリリーのお腹は反対するように大きな声で不満を伝えてリリーは恥ずかしくなった。
「昼食をご馳走しましょう。」
男が冷静に誘ってくるので、余計に恥ずかしくなってしまった。
「話を聞いてみましょう。」
師匠がそう言うならとリリーも男について行くことにした。




