2.せめてさようならを
「リリー、そろそろ起きましょうね。」
母さんの優しい声で私は目が覚めた。寝て起きたら全ては夢だったのかと落ち込むかと思っていたのに、またこうして母さんのぬくもりを感じているなんて。
でも少しでもこのかけがえのない幸せな時間を楽しもうと私は笑顔で起き上がった。
母さんの作ってくれたオムレツはふわふわでとろける美味しさ。
近くのパン屋さんで買ってくるパンとサラダ、そしてスープが体に染み渡る。あぁ、母さんの味だ。
「そういえばさっき聞いたんだけど、セイラちゃんが男爵様の養女になるみたいよ。今日には家を出て行ってしまうみたいだから会いに行って来てもいいわよ。」
セイラもお父さんがいなくて、私と同じようにお母さんと二人暮らしをしている。
境遇も似ていて、同い年ということもあって、私たちは仲がいい。
優しくて可愛くて、守ってあげたくなっちゃう系なのよ。
母さんは先に店に行き、私はクッキーを作ってセイラのおうちに向かった。
集合住宅の前に馬車が1台止まっている。
もう迎えに来てしまったのかしら?
小走りに向かうと、ちょうど見知らぬ男性の後ろについて歩くセイラを見つけた。
「セイラ!」
私に気が付いてほしくて大きな声を出して彼女を呼んだ。
「あら?どうしたの?」
「男爵様の養女になるって聞いて。今日行ってしまうと聞いたからお別れだけでも伝えたくて。
これセイラが好きって言ってくれたクッキーよ。貰ってちょうだい。」
セイラは表情無く、私の持つクッキーに視線を落とした。
「…私本当はそのクッキー好きじゃなかったの。だから要らないわ。さようなら。」
冷たくそう言ったセイラは、そのまま馬車に乗り込んだ。
そして私なんていないかのように走り去っていった。
今のは本当にセイラなの?まるで別人のようだったわ。
氷の様に冷たい目で私を見ていた。どうしてしまったの?何か嫌がることでもしたかしら?
それとも本当は私のこと嫌いだったの?
馬車が見えなくなったころ私の肩に手を置いたのはセイラのお母さんだった。
「ごめんなさいね、今日のあの子ちょっと変だったでしょ。
きっと突然貴族の養女になることに戸惑っているんだと思うのよ。
本当にあんな態度を取ってごめんなさいね。」
申し訳なさそう顔を見ると、先ほどのやり取りを見ていたのだろう。
私は首を横に振って「きっと何か事情があったんです。」そう告げた。




