18.ギイとデポネ
「帰ってくるのが遅かったじゃないか。」
「仕方ないだろ。奴らの目がどこにあるかわからないんだからどうしても慎重にならざるを得ないんだ。
でも遠くまで行った甲斐はあったぜ!」
そう言って1枚の紙を見せられた。
それは地方の教会に配布されるもので、カルヴァン大帝国の教皇が引退するというものであった。
次の教皇は決まっておらず司教以上の者たちが投票して時期教皇が決まる選挙方式だ。
通常は教皇が指名して決まるので異例中の異例だ。
何故こんなことになったのか?
それは現教皇があまりにも聖職者らしい聖職者だった為だろう。
いくら聖職者と言ってもやはり地位やお金に目がくらむ者のなんと多いことか。
恐らく指名したいと思わせるような崇高な者がいないということなのだろう。
「教皇はお前の帰りを待っていたんじゃないか?」
「私はもう聖職者になるつもりはないさ。内部事情を知ってしまえば真っ黒だ。
あんな世界に戻るなんてまっぴらごめんだね。」
「貧民街の出身者が枢機卿まで上り詰めたんだ。
どうせなら教皇までなって権力に群がっているやつらを消して欲しかったよ。」
「それはいくら教皇でも無理だ。あいつらはハイエナよりも金に目がくらんでるんだから。」
デポネはコップに注がれた酒をちびちびと舐めながら話をつづけた。
「ところでさっき会ったのは君の弟子かい?弟子はとらないんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけどね。」
ギイはそこで話を切った。しかしそれで終わりにするつもりはないらしい。
「彼女、セレスティア様によく似ていたね。髪や瞳の色は違ってたけど。
ただ気になるのは彼女からは魔力を感じないのに魔法の力を感じた。おそらく魔道具かな。
あと腕輪をしていたけれど、あれは魔力を封印するものだったな。」
もう答えはわかっているというように目を細めてギイの方を見た。
「彼女は間違いなくセレスティア様の子だ。
リリーと言うんだが必死に弟子にしてほしいと頼んで来たんだよ。
弟子にしたのは私の気まぐれかな。」
セレスティア様に似ていると思ったら断れなくなったというのが本音だけど。
「旅立つときにセレスティア様がいらっしゃって、リリーを私に託してくださったよ。」
デポネは驚いた顔をしたが、何も言わずにグラスを口に近づけた。
「危なくはないかい?君まだ命狙われてるだろ?」
「それでも守るよ。
ところでこの数日のことはどこまで聞いている?」
「感染症が広がって大変だったそうだな。」
「おそらくウイルスが瘴気に充てられた。森の泉の近くに魔物の死体があってそこから瘴気が発生していたよ。明日にでも払ってくれ。」
デポネの眉がピクリと動いた。
「この辺には普段魔物なんて発生しない。大帝国の奴らの仕業か?」
「あくまで可能性でしかない。」
「瘴気を放置していいことなんてない。悪いがこれから払いに行ってくるよ。」
「まだ明かるとはいえ気を付けろよ。魔物を放置した奴が見張っているかもしれないからな。
私は弟子に大量の調合を押し付けてきたから今頃泣きながらやっていることだろう。だから帰りますね。」
「渡したいものがあるから旅に出る前にもう一度寄ってくれ。絶対だぞギディオン!」
ギイは頷いて宿へと戻って行った。




