10.薬師ギイ
翌朝早くに出るつもりでいた。
小屋から出ると昨日の彼女が大きな口を開けてパンを食べようとしていることに驚いた。
「君は昨日の子かな?」
聞かなくてもすぐに分かった。
「はっ、はい。あの、私リリーと言います。あの、あの」
そうだ、確かにリリーと呼ばれていた。懐かしくて思わず目を細めた。
「わたしを弟子にしてください!」
と、リリーは勢いよく頭を下げた。
「頭をあげてくれ。
私は旅をしながら薬師をしている。だから弟子は取らないことにしているんだよ。すまないね。」
何を言い出すのかと思ったら弟子にしてくれなんて。
私にはそんな資格はない。
「それでもお願いします。旅について行かせてください。お願いします。」
私にはそんな資格はないんだ。
旅をしているのだって、学びの為ではある。しかし実際には自分に罰を下したいと願う自分がいるのだ。
私は決して幸せになってはいけない。私は楽なんてしてはいけない。私は誰かの側にいてはいけない。
そんな鎖がわたしを縛り付ける。
「…ふぅ。…なんで?…なんで私なんだい?町にだって薬師はいるだろう。彼らに弟子入りした方が楽だよ。」
「私は大切な人の命を守りたいんです。
あなたは旅をしているからこそ、知識の幅が彼らよりもひろいと思うんです。」
大切な人の命を守りたい。
それはかつて私が医者を目指した理由だ。
今は医者ではないが、薬師という仕事にやりがいを感じている。
「私はこれから薬草の採取に行ってくる。昼頃には出立する。
君は大切な人たちとしっかり話をしてからもう一度ここにおいで。」
本当はもう出立する予定だったのに、彼女を受けれ入れようと思ってしまった。
昔の自分と重ね合わせるところがあったのかもしれない。
しかし旅に出かけるからにはその大切な人ともう会えない可能性だってあるのだ。
恐らくこんな早朝に私を待ち伏せしていたということは、内緒で家を出てきたのかもしれない。
「わかりました。」
思わずリリーの頭にポンと手を置いた。
リリーはやはりとても眩しい。
「大切な人を守りたいのなら、その繋がりも大切にしなさい。」
自分で言っておいて、まるで過去の自分に言っているようだ。
この辺でしか取れない薬草を採取しながらリリーを待った。
時間があるわけではないので処理するのは後回しにしてどんどんマジックバックに収めていく。
昼にはまだ早い頃リリーは彼女にそっくりな女性を連れて来た。
「ギイ様大変ご無沙汰しております。セレナです。覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん覚えております。忘れるはずがございません。
やはりセレナ様の子でしたか。そっくりだ」
「急に薬師になりたいなどと言い出しまして。
ですが、ギイ様なら安心して預けられます。どうかこの子をお願いいたします。」
セレナは頭を下げるからギイは焦りながら
「頭を上げてください。セレナ様、本当によろしいのですか?」
ギイの念押しにセレナは笑って頷いた。
「自分からやりたいことを見つけられるなんて素晴らしいことです。
私はこの子の思いを尊重したいと思っております。」
ギイのは困ったような笑顔で頷いた。
「確かにお預かりします。」
「びしびし鍛えてあげてください。」
セレナとリリーが抱き合って別れを告げる姿を見つめた。




