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EgoiStars:RⅠ‐3358‐  作者: 紅城楽弟
海陽連邦暦 79年
2/20

プロローグ『おごれる人も久しからず』

【海陽連邦自治惑星ラヴァナロス パネロ大学】


<PM15:38>


 校内の廊下を歩きながら俺は思わずため息をついた。そして現状の悲惨さと未来の自分を垣間見たようでウンザリしていたのだ。

 歳を重ねれば人間は探求心と好奇心を失っていく。その空いたスペースには保身や権力への執着が入るのだろう。そう言った俗物を俺は今まで何人も見てきたつもりだったが、教授連中が皆この毒に侵されているとは思いもしなかった。


『君かね。ダンジョウ=クロウ・ガウネリンの墓を暴く戦犯種族というのは』


『既に解明されている研究をだろう?』


『困るんだよね。もう少し革新的な研究をしようとは思わないのかね?』


『第一、ラヴァナロス人である君が戦争歴史の研究をするなど連邦政府が何と言うか』


『皇族派の復権などという風潮に危機感を感じこの大学もただでは済まないだろうな』


『それはいかん! 君は我が大学を潰すつもりかね!』


『どうだねタケダ助教授? そろそろ古代史の研究に戻るというのは?』


寝る間を惜しんで纏め上げた研究成果は発表どころか目を通してすらもらえなかった。徒労にも感じるその状況が俺の精神を益々蝕んでいく。

 喫煙所に辿り着いた俺は柄にもなく止めたタバコに火を点けた。口の中に苦味と鼻の中に異臭を感じ取り俺は嗚咽してすぐに火を消した。


「あ、先輩ここに居たんですか」


狭い喫煙スペースに入って来たのは考古学科に所属するミハエル・インデット君だ。

 彼は白衣の俺と違い、どこぞの作業員のような恰好をしていた。さらに手慣れた様子でタバコに火を点けると装いも相まって美味しそうに煙を吐き出した。


「聞きましたよ? 教授連に啖呵切ったんですってね」


「そんな大層なもんじゃない。人の探求心を人種差別で否定するのは愚かすぎると言っただけだ」


「マジすか? 格好いいなぁもう!」


ミハエル君はケラケラ笑うと、壁にもたれてながらも足を組むような体勢で再びタバコを吸いながら煙を吐き出して口を開いた。


「でもしょうがないですよ。教授連は昔の人間ですからね。未だに戦中意識が残ってんでしょ」


「だからと言って戦争の実情を明らかにしない事が正義といえるか?」


「そういう正義論に関して語る気はないですよ。でもまあこんな事予想してた話じゃないですか? 先輩が論文纏めてる時から僕は忠告してましたからね」


「そっちはどうなんだ? 君も確か中々責めた研究をしていたじゃないか?」


俺がそう告げるとミハエル君は眉をハの字にしてへこたれる様にしゃがみ込んだ。


「全却下ですよ。女神メーアは実は凡人説。でもまぁ仕方がないといえばそうなんですどね。この海陽系を作った神様を貶すなんて罰当たりもいいところですから。だから切り替えましたよ! 今はほら、こないだ発掘された三賢人のザイアン・ユリウスが使ってた槍が届いたんでそっちに夢中です!」


「君はポジティブでいいな。……俺はあの研究成果を捨てきることは出来ないよ」


俺はそう言って再び大きなため息をつく。

 そんな俺の表情を見たミハエル君はタバコを消すとお尻のポケットから端末を取り出し、端末を弄りながら話し始めた。


「何をへこたれてんですか。別に研究成果を学会で発表しなくたって聞いてくれる人がいますよ? 何より、正解かどうかを教えてくれる人がいるじゃないですか」


ミハエル君はそう言って端末を差し出してくる。

 端末から浮かび上がる二次元ディスプレイを見て俺は思わず顔を顰めた。


「君は突拍子もないな。そんな大人物に会えるわけないだろう?」


「でも行かないと後悔するんじゃないですか? 試さない後悔が一番嫌いだって昔っから先輩はよく言ってたじゃないですか」


ミハエル君の言葉に俺は思わず呆れたような溜息をついた。


彼の差しだした二次元ディスプレイに映っていた詳細を簡潔に言おう。

ダンジョウ=クロウ・ガウネリンの息子ヴィジョウ=ビスマルク・ガウネリンがラヴァナロス星で静養中という記事が載っていた。

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