どうやら俺の幼馴染は幼馴染を辞めたいらしい
それはいきなりの申し出であった。
日曜日の昼下がりのこと。幼馴染である織宮 菜穂が俺の部屋で漫画を読んでいる時である。
「ねぇ、涼弥…私ね聞きたいことがあるの」
「なんだ?藪から棒に」
「私達のさ関係ってどんな関係?」
「え?…普通に幼馴染だと思うんだけど」
「そうね、そうよね…そうなのよね~」
菜穂は難しそうな顔をしながら読んでいた漫画を置いて考える仕草をする。
何をそんなに悩んでいるのだろうかと不思議に思っていると菜穂は予想外なことを言い出した。
「私…幼馴染であることを辞めるわ!」
「はい?」
堂々と絶縁の申し出である。
いきなりのことで何がどうしてそうなったのかと考えるが、パッと思いつくことはなかった。
「幼馴染を辞めるって…じゃあ俺たちの関係ってなに?」
「…まずは友達からじゃないかしら?」
「なるほど?因みにどうして幼馴染を辞めたいと思ったわけ?俺のことが嫌いにでもなったのか?」
俺は率直に聞いてみる。正直に言うと俺は菜穂が好きである。
なのでもし菜穂が俺のことを嫌いになったのだとしたら……立ち直れない自信がある。
俺の質問に菜穂は慌てる様子で答えた。
「ち、違うわよ!…だって、幼馴染だといつか来るんですもの」
「何が来るんだよ。鬼でもやってくるのか?」
「違うわ、もっと恐ろしい何かよ」
青ざめた顔をしながらそんな事言う菜穂。一体彼女には何が見えているのだろうか。
俺にはさっぱり彼女の考えていることが掴めなかった。
「なんだよそれ。というか、幼馴染を辞めるって言ったけど辞めれるものなのか?」
幼馴染とは別に辞める辞めないとかそういう感じでは無い気がする。腐れ縁みたいな感じだろ。
「え?でもほら、ゲームとかで称号とかあるじゃない?付け替えるやつ」
「いやあるけどな?あれと同じってこと!?それは無理があると思うんだけど」
「むぅ…良いじゃない!別に幼馴染を辞めたって」
彼女は俺の反論に頬を膨らませながら駄々っ子のように抗議する。どうやら彼女はそこまでして俺との幼馴染を辞めたいらしい。ちょっぴりどころか、かなり落ち込むんだけど?
はぁ、彼女の決意がここまで硬いとは思わなかった。絶対に1周間は落ち込むだろうけど…仕方がない。
「じゃあ、もう俺の家で漫画も読まないんだな?夕食も時々一緒に食べていたけど、それもしないということでいいんだよな?」
「なんでそうなるのよ」
「いやだって、普通の友達に戻るんだろ?普通の友達はそんな事はしないぞ」
「は?別にしたっていいじゃない!?」
「うん?」
話がどうも噛み合わない。
彼女は俺と距離を置こうとして幼馴染を辞めたいわけではないのだろうか?
俺はここで違和感に気がつく。それは彼女は俺を嫌いになった訳では無いが、幼馴染は辞めたいという矛盾があった。というか今日までそんな事を一度も言わなかったし、何か他に原因があるんじゃ…ん?
俺は彼女の読んでいた漫画に目を移す。
「お前…もしかしてその漫画に感化されたわけじゃないよな?」
「うぐっ!」
「図星かよ!?」
「だって仕方ないじゃない!こんな展開になったら気になるわよ。こんな幼馴染が別のヒロインに負ける展開なんておかしいわよ」
「いや、それはフィクションで」
「そんなことはわかってるわよ。でも調べてみたら、幼馴染って距離が近いから異性として見れないって書いてあったし…。他の女が現れたら絶対にそっちに奪われるのがテンプレ何でしょ?」
涙目で俺を睨みつける菜穂は漫画を指さしながら俺にそういう。
…ん?俺は今何を言われているんだ?さり気なく告白まがいな事を言われなかったか?
異性として意識されない?…ッ!?つまりそういうことか?そういうことなのか!?
俺の顔は一気に熱を帯びる感覚に襲われる。
「菜穂?つまり、それは」
「はう!?…わ、私、い、今なんて言った!?ち、違うわよ?あ、いや違わないのだけど…そうじゃ、あわわわわ」
顔を真赤にしながら噛み噛みに何かを言おうとする。
さっきまで俺が慌てていたが、こうも自分以上に慌てている人を見ると落ち着くのだと思った。
「なるほどな?つまり、幼馴染だと他の異性に俺を取られるんじゃないかと思って、幼馴染を辞めようと思ったわけだ」
「うぅ…全部、全部言われた」
「菜穂?」
「ん?いたっ!?」
俺は菜穂のおでこにデコピンを軽くする。俺の心を悪戯に傷つけたお礼だ。
不安から一気に安心へと変わり、俺はホッとする。
「な、何するのよ!」
「それは俺の台詞だ。いきなり幼馴染を辞めるとか言い出しやがって。びっくりしたぞ」
「仕方ないじゃない、こんな部屋の中で二人っきりになってもちっとも手を出そうとしてくれないんだもの…馬鹿」
「いや、だって俺らはまだ高校生だし…。でも、これだけは伝えれるよ。菜穂、好きだ」
「そんな事はわかってるわよ。…ん!」
菜穂は目を閉じて顔を俺に向ける。
俺はそれに対してぎこちない仕草で彼女の頬に軽く唇を当てた。
「……馬鹿」
「今はそれが限界です」
その後、色々と吹っ切れた彼女の猛攻は夕方まで続いた。
読んでくださりありがとうございます。
幼馴染系を書くのは始めてなので王道的な感じにしました。
良いなと思ってくれたらぜひとも評価をお願いします。
では次の投稿をお楽しみしてください。O_0