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【書籍化】私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください  作者: 白雲八鈴


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第45話 魔素が濃いです

「会った? どういうことですか? あそこは結界が張ってあって入れないはずです」


 そう言えば、侍従コルトがサリエラの花畑の周りは結界が張ってあると言っていましたわね。


「事前に連絡を入れれば、普通に通れましたわ。馬車で」

「あ……ありえない」


 そう言って第二王子は頭を抱えています。ありえないと言われましても、事実ですから。


「色々お話を聞かせてもらいました。それから第二王子に頑張れと言っていましたわ」

「シア。良いように言いすぎだ。ジークフリートが頼りないから、うまく誘導しろと言っていたんだ」


 流石にそのような直接的な言葉は言えませんわ。ほら、ますます第二王子が項垂れてしまっているではないですか。


「アルフレッド。ジークフリートはよくやっている方だろう? 辺境にいる俺でも赤竜騎士団の話は耳に入ってくる」


 グラナード辺境伯爵が第二王子のフォローをしています。

 確かに赤竜騎士団の噂話は聞くことがあります。しかし、その殆どは何処でどのような魔物を討伐したという話であり、団長である第二王子の話ではありません。いいえ、第二王子が采配したということで、功績は第二王子のものとなっています。


「アルフレッドお義兄様の活躍の話の方が多いです」


 クレアは赤竜騎士団の中でも、副団長のアルの噂話の方が多いと言ってきました。それも事実です。


 一番有名なのはブルードラゴンを討伐した話でしょうか。赤竜騎士団が討伐に出撃したものの、ブルードラゴン二体に苦戦し、副団長のアルに出撃命令が出たことがありました。

 その時は、北の辺境まで行かなくてはならず、アルが行きたくないとグチグチ言っていたのを覚えています。ええ、騎獣の移動で三日かかるため、次の白の曜日のお茶会ができないと言っていたのです。

 すると背後から侍従コルトが、乗り換え用の騎獣を同行させれば、移動日数の短縮になるのではと提案してきたのです。

 そのことを聞いたアルは機嫌よく北の辺境に向かい、往復五日で王都まで戻ってきたのでした。


 あの……私はどうしても白の曜日にお茶会がしたいとは言ったことはありませんわ。お仕事で都合がつかない場合は、連絡してくださいませとしか言っておりません。


「ネフリティス赤竜騎士副団長様の話は聞き及んでおりますわ。海竜を討伐してくださったおかげで、ウィオラ・マンドスフリカ商会の船が沈められることがなくなったのです。直接お話する機会がありませんでしたのでお礼を言えませんでしたが、我々ウィオラ・マンドスフリカ商会はとても感謝しているのです。ありがとうございます」


 海の上での海竜討伐も有名な話です。ヴァイオレット様はウィオラ・マンドスフリカ商会のオーナーですので、船が海竜に沈められることに頭を痛めていたのでしょう。

 とても嬉しそうな笑顔を浮かべて、アルにお礼を言ってきました。


「ん……シア。確かに直接、礼を言われるのは嬉しいものだな」


 アルはそう言って私を抱いている腕の力を強めてきました。

 私が冒険者を続けたいとアルに言ったときに、人々の役に立ちたいと言葉にしたことを覚えていたのでしょう。


「アルフレッド。いっそのこと、アルフレッドが団……」

「断る!」


 第二王子がアルに団長職を押し付けようとする前に、アルがズバッと切り捨てました。


「これ以上、シアとの時間を潰されたくない。あと、今日から定時で帰るからな」

「今朝も言ったが、俺を忙殺する気か?」

「だったら、副団長を別の奴にすればいい」

「上層部がそれを許すと思うか?」


 アルと第二王子がそのようなことを言い合っていると、馬車がガタンと止まりました。

 やっとこの恥ずかしい状況から解放されそうですわ。


「ジークフリート。アルフレッドは浮かれているらしいから、落ち着くまで定時で帰した方が無難だと思う」


 そう言いながら、グラナード辺境伯爵は外から開けられた扉から馬車を下りて行きました。


「浮かれているってなんだ? ガラクシアース伯爵令嬢と旅行に行って、浮かれているってことか?」


 第二王子がグラナード辺境伯爵に疑問を投げかけながら、馬車の外に出ていきます。


「ファルヴァール殿下も楽しい方ですが、ジークフリート殿下がグラナード辺境伯爵様とあのようにお話になるなんて、知りませんでしたわ」


 第二王子に続いてヴァイオレット様も外に出られます。

 ファルヴァール殿下は魔導式自動車を王城で乗り回して、器物損壊事件を起こした第三王子ですわよね。そんな第三王子を楽しい人と認定できるヴァイオレット様は、寛大な心を持っていらっしゃるようです。


 そして、無言で馬車を降りられるエルノーラ様。不満だという気配がありありと出ています。そんなに観劇に行きたかったのでしょうか?


「あの? アル様、降ろしてくださらないと、馬車から出られませんわ」


 未だに私を膝の上に乗せているアルに、降ろすようにお願いします。


「もう少し、このままでいたい」


 それは駄目だと思いますわ。


「アルフレッドお義兄様。今日お戻りになれば、いくらでもお姉様を堪能できますから、降りてください」


 隣のクレアから降りられないと文句が出てきました。いいえ、出ようと思えば、広い馬車ですので、私達を置いて出ることはできますが、エルノーラ様の前で一人になるのが嫌なのでしょう。


「あー! むしゃくしゃします! お姉様! あとで手合わせをお願いします」


 違いました。まだクレアの拳は振り上げられたままで、私がいる手前、渋々下ろしたのでしょう。

 そして、エルノーラ様と向き合えば、手が出てしまうと言っているのです。


「ふふふっ。わかりました。後で、ネフリティス侯爵家の訓練場を貸してもらいましょうね」


 クレアのイライラを感じ取ったアルは、クスリと笑い、私を解放してくれました。先にアルが馬車を降り、その手を取って馬車の外に出ます。

 視界が広がり、太陽の初夏の強い日差しを浴びて、思わず青い空を見上げます。雲一つない蒼穹は美しく、違和感に満ちていました。


「シア?」


 空を見上げたままの私を不審に思ったアルが声を掛けてきます。


「お姉様?」


 後ろから馬車を降りてきたクレアに呼ばれましたが、私の頭の中では別の事を考えるのに必死です。


「クレア。ストレスの解消をさせてあげます」


 そう言って私は亜空間収納から巨大穹砲(バリスタ)を取り出します。大きさは大人の男性がやっと担げるほどの大きさで、普通は置き型で使い、弓を引くバネが強すぎて、女子供では使用が不可能な巨大な弓です。


「矢は爆裂系がいいですね」


 金属の矢に爆裂魔術が施された物が入った箱を取り出し、地面に置きます。


「フェリシア嬢。いったい何が始まったのだ?」


 グラナード辺境伯爵が武器を取り出した私を不審に思い、近づいてきました。

 そんなグラナード辺境伯爵に視線を向け、クレアに大型穹砲(バリスタ)を渡しながら答えます。


「ガラクシアースの血が、辺境に帰らないように選択した理由が襲撃してきたのですよ」


 私の言葉に、グラナード辺境伯爵は私が見ていた空を見上げます。


「やけに魔素が多いな」


 空を見上げたグラナード辺境伯爵の感想です。はい、違和感の原因はそれです。恐らく、他の人達は気にならないでしょう。


「アドラセウス。ムカつくから殴っていいか?」


 よくわからないことをアルが言っています。どこにグラナード辺境伯爵にムカつくことがあるのでしょうか?


「はぁ、アルフレッド。フェリシア嬢が何を見ているかわからないからと言って、俺に当たるな。これはガラクシアース領に行かない者にはわからないことだ」

「ええ、そうです。ガラクシアース領の魔素は異常に多く、移動するのであれば、周辺の魔素量には常に気をつけておかないといけませんので、必然的に魔素を見る目が養われます」


 グラナード辺境伯爵の言葉に補足を入れます。ガラクシアース領はダンジョンが十三もある特殊な土地柄のため、普通ではないことがよく起こります。


「魔素が多いとどうなるのですか?」


 第二王子が聞いてきました。ですので、実際に再現してみます。


 私は自分の中に押し込めている魔力を、何もせずに垂れ流すようにしました。


「生き物には魔力がありますわね。その魔力とは魔素を力として使っています。ただ、生き物の魔素と大気にある魔素は違いますので、強すぎると火花を散らすように反発し合います」


 私の垂れ流した魔力が大気の魔素とぶつかり、私の周りでパチパチと光っています。近くで見ますから、火花のように光って見えますが、遠くではこのような火花は見えません。


 ただ、大気がふんわりと明るく見えます。ほんの些細な違いです。ええ、今の空は綺麗すぎるのです。その魔素の多さに戸惑うほどに。


「この感じだと百羽前後の魔鳥が急降下してきているのでしょう。西の第三層は放牧地が多いですから、餌を求めて来ているのでしょうね」

「ではお姉様!今日は鳥料理ですね」

「毒がない魔鳥ならいいわね」


 ドレスが汚れないように全身を覆う外套を羽織ったクレアが、身の丈ほどの大型穹砲(バリスタ)を担いでいます。そのクレアに金属の矢に爆裂魔術を仕込んだものを使いやすいように、肩がけのベルトに仕込んでいきます。


「もしかして、クレアローズ伯爵令嬢に行かそうとしているのですか? そんな仰々しい武器が魔鳥に当たるとでも?」


 第二王子が何かを言ってますが、無視です。あまり時間がありません。それを感じ取っているグラナード辺境伯爵も戦闘準備を始めています。胸当てをつけ、腕には篭手をつけています。

 そして、空間を裂くように大剣を取り出しています。


「アドラセウス。防具まで必要か? 魔鳥なんだろう?」


 その言葉に私とグラナード辺境伯爵が第二王子に視線を向けました。


「赤竜騎士たちに防具をつけさせていないのか? 死ぬぞ」

「魔鳥と言いましても大きさは放牧しているンモーモー以上と魔素量から推測できますわ。魔鼠を食べる魔鳥とは違いますわよ」


 私とグラナード辺境伯爵の言葉に第二王子の顔色がだんだんと青ざめていっています。


「はぁ。バカ王子。どういう命令をされたのかは知らないけれど、神王の儀が行われたあとの事をきちんと調べるか、王太子殿下か国王陛下に聞いたほうがいい。赤竜騎士団の団長はバカ王子なんだからね」


 クレアの支度が終わった私は、黒の外套を羽織り、第二王子にため息混じりで忠告しました。


 第二王子が慌てて何処かに連絡を取っている姿を横目にヴァイオレット様にお詫びの言葉を口にします。


「ヴァイオレット様。急遽予定がはいりましたので、買い取りの件は後日でお願いいたします」

「あの……私に何か手伝えることはありませんか?」


 そんなヴァイオレット様にニコリと笑みを浮かべ答えます。


「まだ、ヴァイオレット様の出番ではありませんわ」

「まだですか?」

「ええ、これは始まりに過ぎないでしょうから」


 そう言って、私はヴァイオレット様に背を向けて、西区第三層に向けて地面を蹴りました。



「あの……アル様。赤竜騎士団の方々と行動をしなくてもいいのですか?」


 はい。何故か赤竜騎士団の隊服を着たまま、私に着いてきているアルに疑問を投げかけます。


「俺は駄目で、アドラセウスは良いのか?」


 えっと……駄目、駄目じゃないとかではなく。アルのお仕事は赤竜騎士団の副団長ですから、部下の方に命令をする立場だと思うのです。


「グラナード辺境伯爵様は、個人で動いていらっしゃいますから、私が何かを言う立場ではありません。しかし、アル様は赤竜騎士団として……」

「だったら、赤竜騎士を辞めればいいよな」

「そそそ……そのようなことは言ってはおりませんわ」


 私はあまり勝手な行動をしていると、騎士団の中で問題視されないのかと心配で言ったのです。赤竜騎士を辞めて欲しいということは言っていません。


「フェリシア嬢。どちらにしろ、今回の事はジークフリートの失策だ。赤竜騎士団の立場としても、アルフレッドを同行させればいい。それに、シアシアとうるさいのが黙るのであれば、それに越したことはない」


 グラナード辺境伯爵様。アルに絡まれるのが鬱陶しいから、好きに行動させようとしていませんか?


 はぁ、しかしバカ王子はどのような命令を聞いて、赤竜騎士団が出撃しなければならない命令を、その辺にいる魔鳥討伐と勘違いしたのでしょうね。



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