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第14話 あの存在の正体

 西日が王都を赤く染め始めた頃に私は下街の冒険者ギルドに到着しました。夕方となると、依頼を完了させて戻ってくる冒険者たちで混み合っている時間帯です。いつもはこの時間帯をなるべく避けるようにしていたので、悪目立ちしていますわ。


『おい、誰か黒衣のアリシアは連行されたと言っていなかったか?』

『竜騎士も手に負えなくて返品されたんじゃないのか?』

『それヤバくないか?』

『とういうかアレ、鬼人の赤竜騎士の副団長だろ?見張りにあのクラスをつけている自体が異常だろう』


 ですから、何故私が悪いことにされているのですか! ああ、馬車の中は厚いカーテンが引かれていて、景色が見れないことが仇となりました。冒険者ギルドが混む時間帯とわかっていましたら、来ませんでしたわ。

 隣のアルからは不機嫌な気配が漂ってきています。


「アリシアさん。おまたせしました。二階のギルドマスターの部屋に行ってください」


 順番待ちをしていますと、顔見知りの受付の女性が声を掛けてくれましたが、私は依頼完了の報告が出来て、お金が貰えればそれでいいのですけど。


「ハゲに会う必要があるの?」

「一応、高貴な方からの依頼ですので」


 体裁というものが必要ということですか。第二王子からの依頼を受けた冒険者の報告をギルドマスター自ら確認したと。


「わかった」


 私が二階の階段に向かって行く横で、アルも付いて来ます。アルには馬車の中で待っていてほしいと言いましたのに、付いていくと言って一緒にここまで来たのです。あの?依頼者側が報告に立ち会わなくてもいいと思いますよ。


 何度か出入りをしたことがあるギルドマスターの部屋の扉の前に立ちます。軽く拳を作って扉をノックしますと、野太い声が入って来るようにと聞こえた瞬間に扉を開け放ち、腰に手を当てて言い放ちます。


「ちょっと今回の依頼、あの値段じゃ割に合わないのだけど! このハゲ!」


 お母様がこんなはした金では受けないと言った理由を理解した私は、まず値段への不満をぶつけました。


「戻って来て第一声がそれか……はぁ、普通は依頼内容の完了を言うべきだろう。それからこの頭はスキンヘッドだ」


 体格のいいハゲが、書類が山積みになった机に肘を置いて、頭が痛いと言わんばかりに手をハゲ頭に置いています。


「依頼もへったくれもない! 最悪の言葉しか出ない! このハゲ! 第二王子はバカだったし、依頼を受けるならもう少し人を選べ! このハゲ!」

「ハゲではないと言っているだろ! それから、隣の御仁も一緒に行っていたのだろう? それでも問題があったのか?」


 ギルドマスターは赤竜騎士団の副団長がついて行っても問題があったのかと言いたいのでしょう。しかし、それすらも問題だったことは、言うべきでありません。言ってもあの存在から干渉されギルドマスターの記憶の改竄がされれば意味がありません。


「部屋に入ってきて、きちんと説明しろ『黒衣のアリシア』」


 ギルドマスターが詳しく説明するように求めてきましたが、説明できることはありません。王家が関わっていることは、口にすべきことでないと、理解はしています。


「すまないが、詳しい説明は行うことができない。依頼を願ったときも説明したが、これは王家からの依頼だ。だから、口外することを『冒険者アリシア』に禁じている」


 あら? 私は何も禁じられてはおりませんわ。


「依頼は完了した。それだけがお前たちの知っていいことだ」

「しかしですね……」

「知ることは許されないよ……ふふっ」


 アルの最後の言葉に思わず、アルの腕を掴み、顔を窺い見ます。アルが絶対に言わない言葉に含み笑い。嫌な予感がします。


「そんなに睨まなくても一時的だよ。うん、完了。じゃぁね。ネーヴェの子」


 なんてことでしょう! あの存在にアルが乗っ取られました!


「『黒衣のアリシア』。報告ご苦労だった。今回の依頼に対する料金にギルドからも報奨金としていくらか追加しておく」

「は?」

「もう帰っていいぞ」


 え? どういうことですか?

 私が首を捻っていると、アルに背中を押され、目の前で扉が閉められてしまいました。

 それよりも!


「アル様。大丈夫ですか? 意識は保てていますか?」

「シア。どうした? もう報告を終えたのなら、戻ろうか」


 いつものアル様ですが、さっきのは完璧にあの存在でした。私はアルにしがみつきます。


「アル様。あの存在に意識を乗っ取られていた自覚はありますか?」

「なに?」

「さっき一瞬だけ、アル様じゃない、あの存在が話をしていたのです。今は大丈夫ですか? どうもないですか?」


 アルは考えるように、眉間にシワを寄せて黙ってしまいました。恐らく自覚は無かったのでしょう。


「馬車に戻ろう」


 ここでは人の耳や目が多くあるので、話すことができないと判断したのでしょう。私の腰を抱いて、早足で冒険者ギルドの建物の中から出ていきます。


 その姿を見た冒険者たちが、また連行されているとか言っていますが、警邏を担うのは黒竜騎士団だと知っていますよね!




________________


侍従コルト Side


 脇道に停めた馬車の中で待機しておりますと、アルフレッド様が冒険者ギルドからお戻りになられました。

 しかし、お二人の雰囲気がいつもと違っております。如何なされたのでしょうか?


 確かにダンジョンから戻られたときも、アルフレッド様とフェリシア様の様子に変化がみられました。

 いいえ、アルフレッド様は基本的にはお変わりはありません。フェリシア様、大好きオーラが溢れておりますから。


 変わられたのはフェリシア様の方です。何があっても淑女としての態度を崩されることのないフェリシア様が、アルフレッド様に寄り添う様にお側におられる姿に、私めはダンジョンの中でお二人の関係に何か進展があったと愚考いたしました。


 私めがサルス地区にお迎えに行ったときに感じたことは、表面上はニコニコとされているフェリシア様でしたが、どこか不満げでもありました。

 その不満はどこから出てくるのかわかりませんが、恐らくアルフレッド様が原因だろうと予想いたしました。ならば、侍従としてアルフレッド様にお仕えする者として、フォローをしなければなりません。

 アルフレッド様が『冒険者アリシア』様をお認めになっているということを示さなければなりません。


 ガラクシアースの方々が特別なのは存じております。ガラクシアース伯爵領には十三箇所のダンジョンが存在する変わった土地です。そのような土地に住む人々が普通であるはずはありません。


 ガラクシアース伯爵夫人の名は国中で知らぬものがいないほど、有名であります。しかし、フェリシア様もガラクシアース伯爵夫人と変わらないほどの力を持っているのも事実です。そのフェリシア様に置いて行かれないように、アルフレッド様は努力し続けてきたのです。

 フェリシア様の全てをお認めになっているアルフレッド様が『冒険者アリシア』様を認めないはずはありません。


 フェリシア様とアルフレッド様の望みが叶う外套を私めは用意いたしました。そのことに喜んでいただけたことは、アルフレッド様の侍従として当然のことでございますゆえ、礼を言われることではありません。


 ダンジョンから戻って来られた雰囲気では、私めが用意した外套は必要無かったかもと思いましたが、冒険者ギルドから戻って来られたお二人の雰囲気から、何か深い問題があると感じました。


「おかえりなさいませ。冒険者ギルドで何かございましたか?」


 ただならぬ雰囲気のお二人に話しかけますと、アルフレッド様が重い口を開きました。


「コルト。人の意志を乗っ取る者の話は聞いたことはあるか」


 ……これはまた恐ろしい言葉がアルフレッド様の口から出てきたものでございます。そうでございますか。アルフレッド様もあの方にお会いになったのでございますか。


「そうでございますな。私めは一度しかお会いしておりませんが、お会いしたことはございます」

「何! その話を詳しく教えろ!」


 お話するのは構いませんが、アルフレッド様の記憶に残るかどうかは、わかりかねます。


「その御方は初代国王様でございます」

「は?」

「え?」

「銀髪に金色の瞳を持ったガラクシアース家に似た容姿をされていたのではないのですか?」

「そ……その通りだ」


 お二人にとって予想外の人物だったのでしょう。初代国王様の絵姿は王宮の神の間に入らないかぎり見ることができません。大旦那様に付き従って、私めが若き頃に一度入ったきりでございますが、今でもよく思えております。


「しかし、アルフレッド様。私めが話したところで、アルフレッド様の記憶に残るかは、保証できません」

「それは知っている。だが、シアの記憶には残るだろう?」


 そうでございますか。既に無い記憶があるということですね。


「初代国王様は今でも存命で、この国を護っておいでです。ただ、何からどの様にという記録は存在していません」

「それは記録が破棄されたということか?」


 記録の破棄ですか。どちらかと言えば、もともと作られなかったのではないのでしょうか?


「それはどうでしょうか? 初代国王様の意志が存在しているのであれば、作られなかった可能性の方が高いと私めは愚考します。これは数十年ごとに憑依する肉体を替えるタイミングと魔物の活動が活発になる時期が重なっていることに関係があるのでしょう」

「魔物の活動が活発に? 今のところそのような兆候はないが?」


 そこにどのようなカラクリがあるのか存じませんが、これは昔から言われていることでございます。


「アルフレッド様、今回は先日その儀式が行われたのです。魔物が増える時間を考慮すれば、自ずと活動期が導き出されるでしょう」

「そうか、問題は肉体に憑依する儀式の方か。だから、直ぐに憑依する肉体を求めていた。ちょっと待て、コルト。何故お前は記憶している?」


 私めとしましては、初代国王様の姿を見て記憶しているアルフレッド様の方に驚いております。あの方は大旦那様の記憶も……いいえ、まだ本当の儀式が済んでいないからでございますか。


「初代国王様がその力を奮われるのは、血族の方々だけだからです。下々の我々は目にも映らない存在でございますゆえ。しかし、逆鱗に触れた者は誰であろうと、容赦はされないと聞き及んでおります。血族で無かろうと、記憶の改竄が行われると」


 己の血族に干渉する術とは、その計り知れない力に我々では平伏するしかありません。


「アルフレッド様。私めから言えることは、初代国王様は敵ではございません。全てはこの国の安寧のために、動いておられます」

「コルト。一つ聞いてもいいかしら?」


 フェリシア様がアルフレッド様の腕に抱きついたまま、尋ねてきました。私めもお聞きしたいことがございますね。何がフェリシア様のお心を揺さぶったのでしょうかと。しかし、私めがその事を口にすることはないでしょう。


「何でございましょう」

「私のお祖母様が亡くなったときの、魔物の活性化も今回のような儀式があった後なのでしょうか?」


 その辺りのことは大旦那様の方がご存知のはずですが、その記憶はきっとお持ちではないでしょう。


「私めが知っていることは、神王の儀式でございます。新たな肉体を得た神王が高位貴族を集めて行われるものでございます。その儀式の最中に我々は入ることが許されなかったので、何が行われたかは存じません。私めが知っていることは、この程度のことでございます。お役に立てましたでしょうか?」

「コルト。十分だ」


 アルフレッド様は納得をしているように装っておりますが、内心腹立たしいという感じでしょう。フェリシア様はそんなアルフレッド様を心配そうに見ています。


 しかし、我々では初代国王様に敵うことはないでしょう。混沌とした時代にこの国を築いた御方です。普通のはずがありません。


「アルフレッド様。気分転換に何処かに寄られてはどうでしょう? 外で夕食を取られるのも、偶には如何でしょうか?」

「そうか。それもいいな。ああ……コルト。急で済まないが、フェリシアと旅行に行く準備をしてくれないか? 一週間の休みを取ったからネフリティス侯爵領に行く」

「かしこまりました」


 そうですか。先に領地の方に行って根回しをしようということでございますね。

 このコルト。アルフレッド様が侯爵の地位を得るために、全力でお仕えさせていただきます。




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