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お化け屋敷スタッフ

作者: hito

 俺は、誰かを喜ばせたり楽しませたりすることが好きだ。それで、しばしば全国でイベントとして開催されるお化け屋敷でお化け役として参加している。基本的に暗い空間だからはっきりと相手の表情は見えないが、声や息づかいからも人の表情は読み取れる。俺のお化け役としての働きで、ちょっとした幸せのようなものを与えられるのは嬉しいのだ。

 さて、ここで都心でおこなわれた期間限定のお化け屋敷イベントで起こった一つのハプニングについて語ろう。そのイベントは、頭脳プレーヤーでも楽しめるように謎解き要素をふんだんに取り入れたお化け屋敷。謎解きの最中にお化け役が驚かしつつヒントを与えてくれる。スリルだけではなく、優しさを感じられるお化け屋敷ということだ。

 ところで、その日は8月で、一年で最も暑いといっても過言ではないほどの猛暑日だった。お化け屋敷会場は、半分屋内といったところに作られていた。そのため、会場を空調で冷やしていても汗が出るくらいには暑かった。その日、お化け役は30分ほどで水分補給のための休憩交代という決まりになった。

 13時頃、次の出番まで15分前。俺は休憩室で靴と靴下を脱いでくつろいでいた。足の指をパカパカ開いて指と指の間に通る新鮮な空気を感じて気持ちよくなった。休憩室は会場とは違い心地よい冷風が体を包み込んでいる。それで俺はいつの間にか眠ってしまった。

 俺は携帯のアラーム音で飛び起きた。休憩終わりの合図だ。いま暑い会場で頑張っているお化けスタッフが、熱中症で倒れて本物のお化けにならないためにも交代しなければいけない。それで俺は急いで休憩室から出て汗をかいて干し柿のような顔になったお化けスタッフと交代した。

 交代してしばらくすると、ゆっくりと警戒しつつこちらに近づいてくる二人の足音が聞こえた。10代の男女のカップルに見受けられる。2人は俺から見て3mほど先にある謎解きを見つけ、そこで静止した。男の子は暗い部屋やお化けに恐怖心がないのか堂々としている。対して、隣にいる女の子は怖く感じているのか顔を下に向けている。彼女は、このお化け屋敷に足を踏み出すために恐怖心との戦いに勝利をおさめたのだろう。

「ねえ…ちょっと前向いて一緒に考えてほしいな。」

 男の子は女の子に一緒に謎解きを解こうと働きかけた。それでも、彼女は顔が外れるのではないかというほどブンブン首を振り断固拒否。その謎解きは「1,4,9,○,25」と書かれており、落ち着いて考えれば答えられるような問題だ。しかし、少し緊張した精神状態によっては頭脳の働きは弱まってしまうようだ。

 ここで、優しさを兼ね備えた俺の登場である。そろりそろりと、ヒントを携えどんな表情をするかワクワクしながら、二人に近づいた。しかし、女の子が俺の想像をはるかに超えた距離で俺の存在を検知した。そして、俺の足元から顔を刹那の速さで視認。彼女はムンクの叫びの絵を彷彿ほうふつとさせる顔になった。

「ぎゃあああああ」

 彼女は、90デシベルをはるかに超えるような事件性のある叫び声をあげた。そして、彼女の1.5倍の体重はありそうな男の子の手を引っ張り、お化け屋敷の入り口へと走っていった。

 なぜ彼女はそこまでの恐怖を感じて逃げたのか。俺は自分の足元を見てその理由がわかった。目線の先にある俺の足元は裸足だった。俺は幽霊だから、肌が人間からは透けて見えてしまうのだ。それは、彼女の反応も仕方ない。反省反省。

 さて、少しして交代のお化けスタッフがきたので俺は履き忘れていた靴下と靴を回収しにいった。

読み手が「俺」を人間だと結末ぎりぎりまで信じてくれたらいいなと思って書きました。

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