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14.美女たちの歓待

「話をもとに戻そう。

 先遣隊2チームが先に洞窟に入っていった。

 香ばしい匂い?


 そのときは匂いなど、しなかった。先に偵察した奴らすら、猛烈な暑さやら、飢えと渇きで、どうかしてたにちがいない。――ここまで人間を極限状況に追いつめてしまうイベントも倫理的にどうかと思う。これで死人が出たら、どれだけの損害賠償を請求されることか。




 男たちは一点の疑いも抱かず、誰もが猫背の姿勢で、ぞろぞろと、まるで亡者の葬列のように、暗くて足場の悪い穴を進んだ。誰かが松明を掲げていたのを憶えている。

 奥へ行くにつれ、向こうに光がさしていることに気づいた。


 前を歩く連中が我先に駆け出した。

 つられて、おれも走った。

 息を切らせて走った。

 遅れを取ったら、先を越される。そんな焦りが湧いた。




 すると――ようやく洞窟から、光あふれる広場に出ることができた。

 いや、広場どころなもんか。

 ずっと彼方には高い山々が霞んで見えた。豊かな木々に守られた安全地帯だった。さっきとは打って変わって、さわやかな風が吹いていた。


 ここは本当に妣島ははじまなのか? そんな錯覚に捉われ、おれはひどく混乱したのを憶えている。

 洞窟はさっきの山頂から、このエリアを結ぶトンネルにすぎなかったのだろう。

 トンネルを抜けた先は、粗末な小屋が建ち並ぶ集落になってたんだ」


◆◆◆◆◆


「集落だって? だって妣島は無人島だったはずじゃ?」


 大泉はアクリル板ごしに三村の顔を見た。

 集落をはじめて眼にしたときの感慨を思い浮かべているのだろう。どこか陶然とした顔つきのまま、遠い眼をしていた。嘘偽りを並べているわけではないと、直感が働いた。


 三村はうっとりしながら手探りで、テーブルに置かれたオレンジジュースのグラスを手にした。

 ストローをくわえると、蝶が花の蜜を啜るように、まばたきもせず吸収した。

 副調整室では大石ディレクターが腕組みしたまま、現場を見つめている。

 大泉と眼が合うなり、必死の形相となり、人差し指を回転させた。時間が押しているのだ。


◆◆◆◆◆


「いくつもの小屋から、本当に腰蓑こしみのだけをつけた若い女たちが出てきたんだ。

 目くるめくような光景とは、まさにあのことだ。

 見惚みとれてると、たちまちおれたち56人は、女たちに囲まれた。

 男以上に女の数の方が多かった。ありえないことだが、若い女ばかりの集落だったんだ。




 目鼻立ちの整った美女ばかりで、驚くほどスタイルがよかった。

 手足が長く、尻の見えそうな腰蓑しかつけていないので、バストは剥き出し。大きいのもいれば小さい胸もあったが、総じて型崩れはしていなかった。


 日本人離れたした人種で、具体的にどこの民族か言い表すことはできない。主にアジア系だろうが、なかには西洋人っぽい顔立ちの女もまぎれてた。黒髪をはじめ、ブルネット、金髪までより取り見取り。――ここは日本じゃなかったか?っていう疑問は、とうに吹っ飛んでいた。

 というのも、男たちの理性ははち切れんばかりになってたからだ。




 女たちに話しかけた。

 ところが人語は話せないらしい。けれど、驚いたり、恐れるわけではなく、客人として喜んでくれているようだ。

 そのうち、もてなしたいと身振り手振りで示してくれた。




 広場の中心で盛大な焚火が起こされ、おれたちは炎を囲むように車座になった。

 じきに、たくさんの料理が運ばれてきた。

 グレイビーソースしたたるうまそうな肉の塊、香草をふんだんに使って炒められた魚介、こんもり盛られた色とりどりの野菜、ありとあらゆるの珍味、そして今まで飲んだことのないような典雅な味の酒。


 やがて、飲めや歌えやのうたげがはじまった。

 鯛やひらめの舞踊りとまではいかないが、負けず劣らずの天にも昇る歓迎ぶりだった。

 おれたちは飢えと渇きに限界まで追いつめられていたので、がっつくように飲み食いした。

 どれもが驚くほどうまかった。酒に酔い、心が踊るようだった。




 あぐらをかいて座ったおれたちの隣で、それぞれに美女がはべり、料理を皿に取り分けてくれたり、酒を注いでくれたりと、至れり尽くせりの歓待を受けた。

 が、いくらおれたちが若いからとはいえ、贅沢な食べ物を矢継ぎ早出されても、おのずと限界がくる。


 なのに女たちときたら、げっぷが出て、食べるのをやめ、酒も休憩したいのに、どんどん口に運んでくるんだ。とても食べきれない。

 けらけらと笑いながら肉をねじ込まれ、酒を飲まされた。

 それこそフォアグラのガチョウみたいに無理やり食べさせられたんだ。まったく、とんでもないコンパニオンだと思ったよ。




 どれほど時間がすぎていったことだろう。

 宴会に夢中になって気づかなかったが、すっかり日は暮れていた。

 胃袋が丈夫で、酒に強い男たちが女たちの要求に応え続けていたときだった。


 やおら女を抱え、立ちあがった。

 肩に担ぐ奴や、お姫さまだっこをする者もいた。

 それぞれの美女を連れて、思い思いの小屋へ運んでいく。なかにはいっぺんに、3人の女を連れていく猛者もいた。




 ――なにを言わんとするかは言うまでもないだろ?

 男たちは食欲を満たした。お次はそれだった。

 誰もがそうした。

 恥ずかしながら、おれも例外ではなかった。というのも、やらずには(、、、、、)いられなかったんだ(、、、、、、、、、)




 それほど、隣で給仕をしてくれた美女こそ、おれの中の男の部分を掻き立てる、おれにとってはどんぴしゃ理想像そのもの――黄金比をそなえた女だった。頭のてっぺんから爪先まで、完璧な相手だった。

 むしろおれの場合、女の方から誘われた。抗えるはずもない。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだ……。


 二人して、小屋に入った。

 したたか酒が入り、足どりは覚束なかったとはいえ、おれはやる気満々だった。

 当時、おれには恋人がいた。交際歴2年のおない年の女性がいたのに、脇目もふらずついてきてしまった。

 今となっては、彼女――マチには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。おれはいとも簡単に裏切ってしまった……。今、この放送を聴いている世の女性たちに非難されても致し方ない……。




 ――それにしても、めくるめく時間だった。

 美女を寝床に押し倒し、ひたすら欲望の赴くまま抱いた。

 感度は申し分なかった。このまま時が止まればいいとさえ思った。




 やがて、そのとき(、、、、)を迎えた。

 女もおれの背中に腕をまわし、腰に両脚を巻き付けられ、がんじがらめにされた。

 まんざらでもなかった。熱烈な歓迎ぶり。

 まさに放とうとする、その瞬間だった――」

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