きぐるみを着た少年
床がかたくて、ぼくは目が覚める。
あれ? ぼく、おふとんで寝てたんだけど……。
ここ、どこだろう?
「んっしょ」
ぼくは起き上がって、周りを見た。
周りは真っ暗で、かろうじて見えるのは部屋の隅にある机。
ぼくは机の方に歩こうとする。
ふと気になって服を見ると、寝るときに来ていたきぐるみパジャマで、大好きな犬のぬいぐるみを抱いていた。
「わあ」
抱いていた犬のぬいぐるみが空中に浮かんで、だらーんとしてる腕と足。
「麦」
ぬいぐるみが言った名前はぼくの名前だった。
ぼくは大好きなぬいぐるみに呼ばれて、嬉しくてにっこりする。
空中に浮かぶぬいぐるみが手を差し出してきたから手を繋ぐ。
ぼくは机に近づいていく。
机の上には下手に縫われた猫のぬいぐるみがあった。
少し寂しそうなぬいぐるみに、ぼくは躊躇せずにそのぬいぐるみを手に持って、そのまま抱きしめる。
「ぎゅー」
少し、縫われてないところから綿が出てくる。
急に大好きなぬいぐるみがぼくの服を引っ張る。
ぬいぐるみは扉がある方を指さした。
ぼくはぬいぐるみに言われるまま、扉を開けた。
扉を開けて中を覗くと、そこは薄暗くて黒かった。
薄暗い中、見えたのは部屋の隅にある机だけだった。
机に近づくと、またぬいぐるみがあった。
ぬいぐるみはどうやらたぬきだった。
ぬいぐるみの目のボタンが外れていて、痛そうだった。
たぬきのぬいぐるみを慰めるようにぼくは抱きしめて撫でる。
「よしよし」
大好きなぬいぐるみが扉を指差す。
差された先にあった扉を開けて、次の部屋に進む。
部屋の中は鮮やかな紅の部屋。
とても明るい部屋の真ん中に机がぽつりと置いてあった。
机の上には口が縫われた、キツネのぬいぐるみが。
哀しそうなキツネのぬいぐるみをぼくは抱きしめてあげる。
「ぎゅっ」
大好きなぬいぐるみが扉を指差す。
扉を開くと、中から眩しい光が差し込んできた。
眩しくて目を瞑ってしまう。
そのまま部屋の中に入っていくと、光がぼくを包み込んだ。
ぼくは目が覚めた。
目が覚めたら、窓から日差しが流れていた。
ぼくが目線を窓に移そうとすると同時に、扉が突き破られる。
突き破ってきたのは人だった。
その人はオレンジ色の服を着て、ぼくを家の外に運び込んだ。
それからぼくは『俺』になった。