#93 故郷と空の星
「暫定リーダーはサジンを検討ね。本人の意思も後日きちんと聞く」
「はい。お願いします」
「まあ俺は補欠だけど、異論は無しだ」
オルキトとアルはコトハの決定に口々に同意し、パーティの問題が1つ解決した。
「残るはパーティ名か」
「これがレーネ達から聞いた候補」
「どれどれ……」
『秩序を保つ者』
「ふむふむ」
『輝かしき絆』
「いいんじゃないか? てか、実は前から考えてただろ」
体調不良で不在の2人だが、それにしては凝った命名に感心しているアル。
ただ、紙に書き出された筆跡はコトハだったのでどっちがそれぞれのものかは判断できなかったが、特に誰かを贔屓するわけでもないので気にしなかった。
「さっきはオルキトからだったから、次はコトハから聞くか」
「司会助かる」
コトハはその場でレーネ達のと別の候補を書き足す。
「『不思議の探索者』。パーティは個人じゃなくて調和を優先するから、それを考慮した無難なものにした」
「そうか。うん、冒険者らしさが出てていいな」
素直に評価をしつつも、内心はコトハが夢を話し出さないか、妨害が入らないかで安心していたアルだった。
次はオルキトにも同じ質問を振る。
「すみません。こういうの苦手で……少し時間ください」
「たしかにそうだな。……ちなみにお姉さんのパーティはどんな名前ですか?」
リーダー選出については真面目に答えてもらったので、アルは期待を込めて声をかける。
「『碧の原点』です。ネラガはホホロ海という海に臨んでいますが、飛空艇から見下ろすとそこは碧い深海が広がっていて、ネラガの冒険者にとって碧は特別な色なんですよ」
「ああ、いいねそれ。ネラガとジフォン、ユンニの人間が揃ってる……2人とも、どうですか。僕達ならではの特徴ですよ」
オルフィアの言葉にヒントをもらったオルキトは、3つの地の言葉を組み合わせようと提案した。
既にネラガの要素はひとつ、碧が挙がっている。
「ジフォンはテクトギバ山とお菓子しか無い」
「そうなんだよ。それそれ」
ジフォン出身のコトハとアルは、ご当地の自虐をしてはこれといった単語を出せずにいる。
「ユンニなら星の剣士の話があるのにな……」
「……そうか、アルさんが暗唱もできるぐらいの『黄色のネコシアター』の本編ですね」
「あ! 今すごい悪意を感じたぞ!」
黄色のネコシアターが話題に上がり、さりげなく馬鹿にされたアルはそのオルキトに詰め寄った。
オルキト、そしてジフォンでのアルを知っていたコトハはやれやれと呆れていて、オルフィアだけが不思議そうにきょとんとしていた。
「って、いいのが思いついた。『星』だ、ちょうど5人で」
アルは、描き出した☆の絵がコトハ達のようだと主張する。
「メンバーは増減しないと限らないわ」
「そうね、アル君」
オルフィアの正論に、先ほどのこともあってコトハも同意した。
「でも星といえば冒険者でなくとも共通の存在として周知されていますね」
「……! オルキト、いいインスピレーションが湧いてきたぞ……」
アルが没案で済ませようとしていたところ、オルキトの言葉でそれは新たに息を吹き返す。
「『星の冒険者』。生まれた地はそれぞれ違っても、1つにつながってる空で同じ星を見て育ち、同じ時代で巡り会えた冒険者達だ」
アルと一緒にいたその場の2人、そしてコトハを通じてその名前を聞いたレーネとサジンにも好評を得て、多数決によってパーティ名が決定した。




