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#90 オルフィアと秘密の共有

 家族ぐるみの秘密を晒したオルフィアには恥も外聞も無かった。

 それまで見せていたしとやかさは取り繕ったもので、アルに対して本性を表している。


「運よく四竜征剣の力を手にしただけで、ただの冒険者ごっことはね」

「……口悪いな」


 オルキトが聞けば確実に一悶着あったが、姉からみぞおちに1発食らって今は床にうずくまっていた。


「なんかすごんでたくせに呆気ない……」

「弟が姉に敵うはず無いから」


 獣人をもKOできる体術はオルフィアも父親から伝授されていて、なおかつオルキトよりも数年先輩であったのだ。

 カンナ姉妹をネラガに押し付けた以降の話は、その数と入れ替わりがごちゃごちゃしていた四竜征剣の状態をきちんと伝えるため、紙に書き出して説明する。

 地中にしまっているジアースケイルに、そのまま持ち歩いているシンの2本、オルキトに預けていたバリアー・シーについても説明すると鑑定眼に引っかからなかったことも納得された。


「姿を消す能力が四竜征剣のうちの1本の能力なのね」

「……レーネ達か。食事とか言って聞き出してたな。たぶん鍵番号も」

「それは生年月日にしたあなたの非よ。本当、よくあなたは今まで生きてるわね。危機管理能力が無さ過ぎる」

「オルキトと同じことを言うな」


 姉弟から同じことを指摘されて、事実に違いなかったがむっとするアル。

 つい余計なことを言ってしまうのも仕方なかった。


「まあ運がよかっただけですね。今度こそ、どこかの物置に閉じ込められたりするかもしれないなー」

「……皮肉のつもり?」

「危機管理能力の高いお姉さんでも『運悪く』そんな目に遭うんですから」

「いいの? ここは大空の密室。逃げ場は無いのだけど」


 強い語調で脅迫するオルフィアであったが、同時にその表情には余裕が無くなっていた。


「脅迫してきたな……」

「……そうです。僕のアルさんにもうちょっかいはかけないでください」

「『僕の』じゃないが。というか大丈夫なのか?」


 快復したオルキトが介入し、暴走していた姉をいさめる。


「わかったわ。望む通り、あの個室のマスターキーは渡すし、潜影術で部屋にも入らない。寝ている時もオルキトが相部屋でつけば安心でしょう」

「身内をつけてどうする。それにあそこはベッド1つだし」

「……なら助言をしてあげる。誰かに封印した遺書を渡しておきなさい」

「また脅迫だ」

「最後まで聞きなさい」


 自業自得とはいえ説得が難航していたオルフィアはため息をついた。


「遺書には私の正体を書いておく。仮にあなたが誰かに始末され遺書の内容が明らかになる。噂が立てばそう長くせず私の冒険者生命が終わる。今回に限って私は誰に渡したか特定しないようにするわ」

「まあ言葉の通りだとして、お姉さんは俺を始末できなくなる……」

「それだけじゃなく、他の誰かにあなたを始末されても困ることになるのよ」

「……つまり?」

「これで一転して、あなたを一生守り抜くことになるわ」


 アルはがしっという音が出そうな勢いで、虫のようにソファに抱き着いた。


「やだやだやだ! 船にいる間は絶対ここから出ないから、だから別の方法を考えて!」

「あなたが考えなさい。こっちは忙しいから」


 オルフィアは身なりを整えながら部屋を後にする。


「オルキトも何か対案を……」

「……大丈夫です。僕ももちろんついていますから」

「話を聞け! 『殺されない』対策はされたが不法侵入への対策はどうなった!?」


 助言を聞いてしまったアルに、また1人付きまといが増えることになった。

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