#8 薬師と何でも屋のコンビ
馬車を降りたアルは辺りの喧騒に刺激され、心地いい胸騒ぎを感じた。
「ジフォンとはまた違った賑わいがあるなぁ」
大規模なギルドを有するユンニには各地から冒険者が集い、地域ごとで様々な装備を纏った群衆が行き来している。
大陸の端にあるジフォンも人口こそ多いが、今のアルにとっては武器や鎧がすれる金属音が無いと物足りなく感じただろう。
「アル君。それじゃあギルドに行こうか」
「ああ。約束通り、案内は任せる」
道中、アルはギルドカードの発行について尋ねていたが、なにぶん昔のことだったので曖昧なことが多かった。
ただギルドの所在地は目立っていてわかりやすいとのことで、案内はコトハに引き受けてもらった。
「着いた。ギルドカードの発行とかはそこのカウンターだね」
見えた建物は3階建てで、テラスになっていた2階部分にはちらほらと屈強な男達が見えた。
そしてコトハが指差した1階はいくつか並ぶカウンターと上へ続く階段が奥にあるだけで、2階と比べて混雑はしていない。
「コトハ。先にどうぞ」
「いいの? ありがとう」
アルはコトハに順番を譲る。
すると、長い間ギルドカードを更新しないままだったので結局再発行することになった。
参考のためにアルはその様子を覗かせてもらおうとすると、よくあることなのか『よかったらどうぞ』と受付の女性に手招きされる。
「今回はギルドカードの発行ということで、もし特別に記載するような、これまでの実績などを証明するものがあれば提出をお願いします」
冒険者の経験が無い2人は当然首を横に振る。
アルは昨日獣人を討伐したが、なんの証明も無いので適当に流す。
「では各種の修了書などはありますか」
「はい。私はこれでお願いします」
「『薬師』の資格認定がされていますね。ええと」
コトハは薬師の技能を有することを示す書類を出すと、指差し確認をした女性は素早くペンを動かしてカード発行用の資料へ記入を済ませた。
「……そちらのお兄さんの方はどうでしょう?」
「け、剣なら我流で」
「どなたか師匠の紹介状や学校の修了書は無いですか」
「……無いです」
最後に氏名と年齢、顔写真を撮影してギルドカードは完成した。
「こちらでの処理は以上です。定期的なものに限らず、新しく資格などを取得した場合は更新くださいね。紛失した時は早めの連絡を」
女性は完成したものを渡しながら、アルとコトハ1人ずつ注意事項をきちんと伝える。
だが特に前者は、『薬師』であるコトハに対して、『何でも屋』でしかなかったアルへの念押しだった。
「クエストの受注については2階の係にご相談を。では最後に……冒険者の道は始まったばかりです。ご武運を」