＃８４ 錬金術師とアクセサリのエンチャント
なんとかひっかかりを生もうと全くの見当違いは除いて質問をする。
「ミサンガをお返しに編むのは？」
「編み方知らない」
「さりげなく俺から聞こうか」
「やだ！ 感づかれたらそれはつまらなくなる」
レーネの個人的な理由で却下され、ついでにユンニにもいる装飾品の職人に頼る手も否定された。
「アクセサリはどうだ？ 派手でじゃない程度の、普段使いできるのでいいから」
「コトハは飾らないキャラがかっこいいの！」
「ええ……」
「あの魅力をわかってないなんてなぁ。まあ、それとは別に私の感性が否定されるのも怖いし……」
これもレーネの個人的な理由で却下。
レーネは頬に手を当ててうっとりしたかと思うと、照れて指先をもじもじさせたりと一人で忙しくしていた。
「でもアクセサリかあ。能力を付加させた実用的なものならいいかも」
「エンチャント？ なにそれ」
「……本当に冒険者素人なのね」
きょとんとしていたアルに呆れながらも、レーネは説明をしてやる。
「剣とか盾の武器、指輪とかのアクセサリに能力を付与することよ。武器ならより硬く、より鋭くしたり、アクセサリだと騎士の加護に近い力を得られたりもする」
「ああ、天使による加護だろ？」
「なぜそこは知ってるの……もうめんどくさいから細かく聞かないけど」
レーネは怪訝そうな目つきでアルを見た後、ずりずりと机に突っ伏した。
「あの、そんなに落ち込まなくてもな」
「……いい考えだと思ったんだけど、高性能なものほど値は張るし、そもそもオルフィアさんがいる時点でどれも霞んじゃうのは目に見えてるもん」
「なんでオルフィアさんが出てくるんだ？」
「エンチャントは錬金術師の代名詞だからよ。それもネラガからユンニにある『サンクチュアリ』ユニオンに入れちゃうような人とくれば、アルでも説明不要でわかるでしょ」
エンチャント済みのアクセサリは、役に立つものでは駆け出しの冒険者には手が届かないし、どれだけ気持ちを込めても低能なものではがっかりさせてしまう。
期待をしてしまっただけにがっかりしたレーネだったが、アルは発想を逆転させる。
「ならエンチャント前のアクセサリはどうだ」
「ただのアクセサリを？」
「手ごろな価格のはずだし、性能だってそもそも比較ができない」
「確かにその通りだけど、まだ薬師でしかないコトハには不要だってば」
レーネの指摘でアルはぎくりとしてしまう。
「でも興味がある様子ならきっかけの一つにはなれないか？」
「うーん……プレッシャーになっちゃうかも……」
「コトハに限ると奥手になるなぁ、ったく。いずれにせよお礼を言うきっかけがいるんだ。ほら、ここで立ち止まってるのが一番よくない」
「ああちょっと！ 杖を持ってかないでよ！」
アルはレーネを無理矢理連れ出し、先日デクラルから耳に挟んでいたアクセサリ屋まで足を運んだ。
「お？ アルとレーネか。珍しい組み合わせだ。アクセサリ屋に入っていった……？」
アクセサリ屋に入っていく２人組を目撃したのは、兄の見舞いを終えて宿に帰ろうとしていたサジンであった。
