#80 ダイヤル錠と出向の期間
「お待たせ。勤め先に休職は相談しといた」
「事情が事情ですが、書面だけでいいんですか?」
「まあわりとゆるいところだし」
ネラガへ同行する約束をしてから一晩経ち、アルは朝早くの郵便局で勤め先へ手紙を出し終えた。
「じゃあ船旅の買い出しをするか。片道で2日はかかるんだろ?」
「ええ。最低限の食料は支給しますが、個人ごとの衣服や日用品に、意外と暇つぶしの嗜好品は必須ですね」
「適当に商店街見て見繕うか」
アルは飛空艇での旅の経験があるオルキトをつれ、商店街の方へ向かう。
昨晩は地元ネラガの冒険者との打ち上げがあったようでオルキトは珍しくあくびをしていた。
「あ、鍵は持ってた方がいいですよ」
しかし注意力は健在で金物屋に立ち寄る。
「選考したといっても見ず知らずの冒険者がかなり乗ってるか」
「それもですが艦長である姉はマスターキーを持ってます」
「ああ、そう……」
「もちろんきつく注意しておきます。そうだ、僕が持ってれば安心では?」
「俺に渡すんだよ」
オルキトの勧めもあって、アルは4桁の鍵番号を自由に設定できるダイヤル錠を手に取る。
「相部屋じゃないの? 私はレーネとサジンと組んだ」
「うおお! こ、コトハか……おはよう」
死角からコトハに声をかけられ、アルは悲鳴をあげてから挨拶を交わした。
「相部屋……一般の方はそうなんですね」
「……坊ちゃんめ」
「アルさんまでやめてくださいよ……もう」
「なあ、コトハは俺がネラガに行く話は聞いてるか?」
それを聞きに来た、とコトハは返事をする。
アルはダイヤル錠を購入した後、コトハも加えて買い出しを続ける。
「招致はパーティ単位だったから、補欠のアル君はどうするのかなって」
「補欠とは言い得て妙だな。ああ、獣人との接触経験があるからって参加することになった」
「欠員も出てたから助かる」
「欠員? レーネとサジンは同行するし、ウジンに何かあったのか?」
「左ひじに違和感がある、って」
「何千万の肩だよ。けがなら無理はしない方がいいけど」
ウジンのことはともかく、アルは相部屋の組み合わせがどうなるか不安になる。
「飛空艇の都合で最低でも半年は……」
「おーい、坊ちゃんにアル。艦長から聞いたが買い出しをしてるんだろう? いい店を知ってるぜ」
昨日チンピラ役を務めていた乗組員がオルキト達に合流してきて、コトハの会話は遮られた。
「わざわざネラガで半年もかけてやりたいことがあるのかな?」
ネラガのギルドが提案した冒険者招致の計画は半年間の契約であった。
それは元を取らねばならぬ飛空艇の飛行予定に合わせてであり、よほどのことが無い限り緊急の飛行をすることは無いのだ。




