#78 レプリカ(本物)とチンピラの正体
時刻は昼過ぎ、そんな往来の中でひときわ注目を集めていた男がいた。
騒音を出したかと思えば自分でそれに驚いて、両手足を広げうつ伏せに倒れていたアルだ。
「登場音省略はリセットされる仕様なのかよ……」
大量の視線を肌で感じ、アルは顔を隠しながら立ち上がる。
「そっちがその気なら俺も抵抗はさせてもらう」
「ジアースケイル!? おお……すげえ! これ本物か!?」
騒ぎになる予想はしていたが、別の意味でアルは驚いた。
激しい攻撃をされてしまうのかと思いきや、男は目を輝かせてジアースケイルを間近で観察していたのだ。
「い、いや、もちろんレプリカだけど……」
「ほー……本物みたいな完成度だな。ってことは、役割は鍛冶屋か工作師なのか?」
何でも屋だ、と答えるときょとんとした男だったが、呆気に取られていたのはアルの方だった。
「チンピラじゃないのか?」
「あ、いっけね。忘れてた」
思い出したように似合わない下卑た笑いを再開する男。
「そこまでですよ」
「オルキト? と、そっちはさっきの……」
アルが声がした方を振り返ると、別れたはずのオルキトとその知り合いがすぐそこにいた。
そして連れられていた男は肩を落として委縮している様子であった。
「あ。でかい音立てたから引き留めちゃったか。気にしないで先に……いや、ちょっとだけ手を貸してくれると助かる」
「はい。これは僕が片付けないといけない問題なので任せてください」
「ん? どういうことだ?」
オルキトが睨みつけると、チンピラは慌ててアルに頭を下げた。
それからオルキトも連れていた男とともに頭を下げる。
「そっちのチンピラ役をしていたのは、この人と同じで乗組員なので安心してください」
「チンピラ……役?」
「姉がアルさんの素性を調べるために刺客を送っていたそうです。手は出さないように、としていましたが、不安な思いをさせてしまって申し訳ありません」
「え、あの短時間で追跡を手配してたのか……」
「書面になると思いますが、姉には正式に謝罪をさせます。あと命令とは言え、この2人にも然るべき処置も取らせます」
オルキトは身内の起こした騒動を誠心誠意詫びる。
それが関係していたのか、何をされたか不明だが隣にいた男はぶるぶる震えていた。
「なんか可哀想だし、ちょっとは証言するからまた戻っていいか?」
「でもアルさん。船の時間は……」
「走れば平気だろ。少なくともそっちの人は悪い人じゃないのは感じたからさ」
無邪気にジアースケイルを見つめていたチンピラ役に、それが偽物だと嘘をついたアルはどこか罪悪感を感じてしまっていた。
また、騒動のきっかけについて非が全く無いわけでもなかったので、できるうちに話を済ませようとアルは飛空艇まで引き返していく。




