#7 夜明けと新たな旅の幕開け
「あー、酷いもんだな」
獣人の襲撃から一夜明け、アルは青年団の団長と判明した男と、橋がかかっていた渓谷に来ていた。
橋の惨状を見た男は難しい顔で腕を組んでいる。
「あの、この橋以外にジフォンに戻るアテって知りませんか?」
「なんだよ改まって。前みたいにもう少し砕けてもいいんだぜ」
「……じゃあ教えてくれよ。偉い人」
アルは冗談交じりで質問を続ける。
「ははは。まずはユンニを目指せ。お前の目当てのブレンの拠点でもあったし」
「あ、そう言えば話が続きだったんだ。ユンニ、どれだけかかる?」
「すぐ近くだ。ここから定期的に馬車も行き来してるし」
「ユンニから先は?」
「船で海を進む」
男の提案にアルは笑えないでいる。
「そのお金が無いんだよなぁ」
旅行目的でなく業務上の出張扱い、ジフォンの近辺であって不測の事態への備えも薄く、アルは手持ちに余裕は無かった。
「なあに。ユンニにはクエストを手配するギルドがある。その場で工面すればいい」
「……クエスト。検討はしてみようかな」
最悪、騒動のことを知った勤め先が何か救済をしてくれることを期待しつつ、その間の生活費や決まった滞在先を得て連絡手段も確立するためにも何かしら職を見つける必要があった。
アルは元冒険者の経歴を持つ男から具体的な説明を聞くと、親戚の家に泊まっているコトハのもとを訪ねる。
「……というわけで、俺は軽く支度したらユンニに行きます。昨日はお世話になりました」
アルはコトハと親戚の老夫婦にリビングに集まってもらうと、資金調達のためユンニでクエストをこなし、そのままジフォンへ帰る計画を伝えた。
「ふむ。ならコトハちゃんを連れていったらどうだい? ギルドカード持ってるし」
「え?」
「というか冒険者の装備を引き取ってもらうために呼んでたから、コトハちゃんもユンニに行くよ」
夫の方から未知だった事実を聞かされたアルは、深刻そうな顔をしていた自分が無性に恥ずかしくなる。
「私、『薬師』の勉強をしてたの」
「いや、知らなかったな。コトハが冒険者目指してたなんて……」
コトハが学校を卒業した後も勉学に励んでいたことは知っていたアルだが、その夢が冒険者と判明して思わずため息をこぼしている。
「それにもうギルドカードも作ってるんだ」
「子供の頃に旅行で行ったユンニで記念に作ってあった」
「仮にも冒険者の資格が旅行産業扱いなの?」
コトハが差し出した手のひらサイズの光沢のある白いカード。
それこそが冒険者がクエストを受けるために必要となる、『ギルドカード』であり、実績によりその色や記載内容が変わる。
コトハのものは実績無しの真っ白で、魔法で転写されていた顔写真は、本人曰く6歳当時のものであった。
「それじゃあ私も支度をするから待っていて。またしばらくよろしくね」
こうして新たにアルとコトハの旅が始まった。




