#74 手紙と正義の心
ユンニでのフィーネ戦を終え、カフェレストラン『ヤナギ』で穏やかな朝を迎えていたアルとオルキト。
そこにレーネによって一通の手紙が届けられる。
「オーナー、今日はグレープジュースちょうだい」
オモテの四竜征剣による連続昏睡事件、その被害の拡大を阻止した翌朝、ヤナギでアルとオルキトが食事をしているとレーネが注文をしながら2人のいた隣のテーブルに着いた。
「やっぱここにいた。オルキト宛ての手紙だって」
「ありがとうございます、レーネさん。えーと……」
ん、と手を出したアルが手紙を受け取ると、ハカルグラムでその封を切ってやった。
「変なペーパーナイフ」
「ああ。拾った」
「なによそれ」
アルはシンの四竜征剣を厚紙に包んで手帳に挟んであったので、レーネでもわざわざ鑑定眼を使わなければ大層な代物だとは気づけない。
「……! アルさん、もしよかったらジフォンへの帰宅、空路を手配できますよ」
「やっぱりオルフィアさんからだった?」
「はい。予定だと……今日にもユンニに到着するそうです」
オルフィアという人物について、オルキトとレーネだけがそれを知っていてスムーズに会話をしている。
「オルフィアって?」
「僕の姉です。ネラガにいる冒険者で、ギルド所有の飛空艇の艦長も務めていて今日ユンニを訪れるとのことです」
「そっか。レーネが知り合いって言ってたな。飛空艇……えっと、割と偉い人じゃないのか?」
アルは重要なことを聞いている気が薄っすらしていると、レーネがはっきりと言い放った。
「オルフィアさんはネラガのギルドマスターの子だからね。そりゃもちろんオルキトも」
「えー……そういうことかよ」
「けど実力もあるから。オルフィアさん、元サンクチュアリ所属だったもん」
「なんだったっけ、レーネがクビになったユニオンで間違ってない?」
「ほっとけ!」
アルにいじられることになったレーネはがぶがぶとジュースを飲んだ。
「どうです? 姉には僕から話をつけるので」
「だめだめ。飛空艇を飛ばすからには元が取れないといけないらしいし、アルの足に使うだけなんてもったいない」
レーネはさっきのお返しとばかりに論理的に反論をした。
「俺は船で帰るから平気。それよりほら、手紙は続いてるだろ? その元を取るための来訪のわけを書いてあるんじゃないか?」
「失礼します……えーと、これは……」
「どうした?」
言いづらいことがあるのか、オルキトはアルに小さく首を横に振る。
「なになに……『ネラガ付近で獣人が多く目撃されており、今も討伐実績のあるユンニでの重要な資料の閲覧を希望……』」
「ああっ、手紙を取らないでくださいよ!」
「全然読まないからよ。それで……『獣人を討伐した経験のある冒険者を募って、ネラガにてその手助けを受けたい』か。ネラガだと獣人は珍しいのかしら。ん? アル、なんかやたら汗かいてない?」
オルキトが気を遣って読み上げずにいた手紙が、レーネによってその内容を明かされるとアルは額に冷や汗をかいていた。
「困ってる人の声を聞いたら正義の心に燃えて、ついつい汗がだな……」
アルはネラガで起きている困った事態について、その原因に心当たりがあった。
十中八九、ネラガに飛ばされるように仕組まれたカンナ姉妹のことで、元凶はアルであった。