#73 オモテとシンの最終ドラフト結果
「ほら、こっちに来い」
アルはコトハを別のテーブルに連行する。
「だいたい事情は察してるだろ。関わらない方がいいって」
「1本だけでも……」
「我慢しなさい」
「お手伝い頑張るから」
「それはお母さんに言ってあげろ」
まだ食い下がるようでいるコトハは、頭ごなしに否定しても軋轢を残す。
そしてコトハのわがままを見るのは珍しかったので、アルは可能な限りは取り合ってやろうとした。
「……もしかしたら」
「うん」
「私の夢への手助けになるかもしれない」
「待て待て……まさかここで……」
アルの予感は的中し、店のドアベルが鳴った。
「あれ……意外に人がいる」
「だが4人だけか」
「すみませーん、いつもの。コトハー、お疲れー」
レーネにウジンがそれぞれ痛烈な一言を放つ。
レーネはまだ、つい口にしてしまったようで店主にはしっかりと聞き取られていないようだが、ウジンは心に思ったことをそのままべらべらと口にしていた。
そのため、後ろにいたサジンはとても恥ずかしそうな顔でうつむいている。
「ああ、オルキトに……あれ?」
「なんでアンタもいるの?」
今さら逃げることは観念したアルはその場を苦笑いで取り繕い、目でヘキサスにサインを送ろうとしたがそれまで座っていた席には誰もいなくなっていた。
ブレンにしろレジスタンスにはそういう状況が多々あるようで、いつの間にかいくつか奥のテーブルに1人で移動していたのだ。
「ちゃっかりブツは残していって……」
シンの一式は意図的に並べたままで、最も近かったオルキトが一旦全て回収した。
「皆さんお疲れ様です。僕、これから人と会う用事があって失礼しますね」
「夜遅くに珍しいわね。あ、大きな事故があったらしいから気をつけなさいよ」
「はあ、事故ですか。わかりました。ありがとうございます」
レーネが注意した現場へ向かうためにオルキトが立ち上がると、一呼吸おいて他人のふりをしていたヘキサスがその後を追っていく。
適当な理由をつけてレーネ達にユンニを出ていないことを伝えながら食事をし、アルはオルキトが泊まっている宿屋の前でその帰りを待っていた。
「……やられました」
しばらくしてアルの前に現れたのは、とぼとぼと歩くオルキト。
簡単な説明によると、引き渡しの際は逃げられないよう乱暴だが腕を掴んだままにしていた。
まずダースクウカは確かに手渡せたが、小さかったシンの四竜征剣を手渡すとき、手が滑ったとヘキサスが2本落としてしまった。
このまま拾うから、と遠慮されてオルキトが手を離した隙に、ヘキサスは実体を消して去っていったとのことだ。
「放置しておくわけにもいかず拾ってきました」
「……俺が受け取ることが既に決まってるの?」
どうしますか、とは一言も言わず、オルキトは小さな刃物をアルに差し出していた。
その態度がやや気になったが、冒険者を続ける支障になるのはかわいそうだったのでアルは黙って受け取った。
「それぞれ、『長さ』を操作するノバスメータ、『重さ』を操作するハカルグラムだそうです」
アル達は聞き損ねましたが、オモテの四竜征剣一式による昏睡状態は数か月、長くても半年を経過すれば回復できます。
※アルの現在の装備:
ジアースケイル/バリアー・シー/ノバスメータ/ハカルグラム