#71 ウラとシンのやり取り
「今日も来てるの?」
「こっちの台詞だよ」
「……その人は冒険者?」
コトハは唯一の客であったアル達を見つけるとそこへ近づいていき、ヘキサスについて尋ねる。
「名乗るほどじゃない、ただの旅人さ」
ヘキサスがそう言って名前や素性をはぐらかすと、コトハは黙って別のテーブル席に着いた。
「……ま、ギルドカードや身分証明を見せなきゃ当然の反応だな」
「ああ、そういうことか……」
コトハがすぐに危険を嗅ぎつけてくれて、アルは内心ほっとしていた。
「あい、お待たせしました。いつも来てくれてるから今日はおまけしとくよ」
「ありがとうございます。いただきます」
そして店主の厚意でいつもより増量されたクイニーアマンを頬張っていた。
「えっと……」
「うん。次に進めよう」
戸惑っていたオルキトだが、危機管理がしっかりしていたコトハを信頼したアルが話を続ける。
「これも同じ理屈……だよな」
紙面の『ウラ』の文字を指して表情を曇らせるアル。
「アレを体験したお前ならわかるが、まだリーチとはいえ俺も揃えて持ちたくはないぜ」
「アンタも体験してたのか……」
姿、感触、匂い、音。
それら現世へ干渉する術を失い、存在が抹消してしまうことを防ぐ『死の警告』。
ヘキサスもそれを受けたことがあるようで、レジスタンス側の事情を押しつけられていたものの、アルはわずかに同情していた。
「しかし、俺がアーチャーに渡してた分、仲間が別で渡した分、奴等から取り返した分が1人に集まってたのは、本当に想定外の一言だ」
「……僕は、望まれれば引き取りますよ」
「いや待て。さすがに俺が起こした問題なのは明らかだと自覚してる」
バリアー・テフをアルに引き取ってもらったオルキトが責任を感じて手を挙げるが、ヘキサスはそれを止める。
全ての問題を起こした張本人に違いなかったことに加え、揃えるべきでない四竜征剣を分散させられる仲間もいたので妥当な判断であった。
「もともと何でも屋に渡されてたのは護身用だ。それはまだ持っておけ」
「ならこうだな」
「って、雑だな……」
ブレンにされたように握手を経由して渡せたはずだが、アルはそれを思い出す前にテーブルにごとごととバリアー・テフとソクを並べていてヘキサスは困っていた。
「で、後は現場に戻って隠してたブツを返してやれ。今頃騒ぎになってるだろうから姿は消してな」
「待て待て。まだ話が終わってない」
「……」
「無言で紙を片付けるな。ほら、『シン』が残ってるから」
「これ以上はうちでは面倒見られません」
「動物か! ほら、さっき見せた通り、決して邪魔にはならないから」
ダースクウカを隠し、バリアー・シーの所有権を任されていたオルキトはごねたヘキサスになかなか強く言えずにいて、アルは結局折れて相談に乗ることになった。