#6 ダースクウカと奥義の雄たけび
「みんな! 屋内に避難しろ! アンタは青年団に連絡を頼む。兄ちゃんも下がってな」
元冒険者の男は女性や老人に避難を呼びかけ、村の若者に青年団の応援を呼ぶよう指示する。
それから腕に巻いてたバンダナを右拳に固く巻き直し、アルを押しのける。
さっきまで情報をエサに食べ物をねだってきた男とは思えない、てきぱきとした行動だ。
「しっ!」
「ヤギっ!?」
「ヤギヤギ!」
男の拳は獣人の頭に見事ヒットしたが、死角から迫ってきたもう1体の獣人の突進を食らってしまった。
「あのまま囲まれたらまずい、なんとか気を引けば……『ダースクウカ』!」
アルは黒いレイピア、ダースクウカを呼び出すが登場音はしない。
「来てほしいって時に限って……ああ、いいよ! こうなったらやけだ!」
『セイス・ダーク』!!!
予期せぬ騒音に驚いたが、アルの腕はまるで剣の達人のように目にもとまらぬ速さで動き、獣人をめった刺しにした。
「奥義だか必殺技の音を実装してあるのか……相変わらずうるさいな」
穴だらけになった獣人は灰のように崩れ去っていく。
「人造人間……とはいっても生物らしくないな」
「に、兄ちゃん、そいつは……」
「ああ、ちょっといろいろあってさ。俺も手を貸すから」
アルは2発目、刺突の音だけが響くセイス・ダークで、男が仕留めきれなかった獣人を灰にして消し去った。
残った2体は屋内に逃げた住民を追って扉にしがみついていたので、その背中から同様に処理した。
「……ダースクウカ。お前が四竜征剣の1本を持っていたんじゃないか!」
「いや、逆ぎれをするなよ。というか、もし正直に答えてて手は出さなかったって言うのか」
神輿の上でかんかんに怒っているカンナだが、それは見当違いだとアルは指摘する。
「ぐぬぬ……無駄遣いしたら評価が下がるのに……くっ、撤退だー!」
獣人は担いでいた神輿をゆっくり丁寧に旋回させる。
その後もゆっくりと主のカンナを優しく運ぶので、アルは容易に追いつけた。
「ここまでされて……みすみす逃がすかよ」
「もっと走れー! あわわ、ひぎゅんっ!」
アルにより担ぎ手を失い崩れ去った神輿からカンナは転げ落ちた。
その後、駆けつけた青年団に身柄を引き渡してアルはそそくさとその場を去っていった。




