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#64 不可視とジェネシスの苦痛

 調査を始めて初日での情報の共有が終わり、アルは荷物をまとめていた。


「明日は俺自身でももう少しギルドで怪事件を調べる。ユンニ中となると広いし、見落としてることが無いかも詰めたいから」

「だめです。また僕の目が届くところにいてください」

「まったく……少しは信用してくれよ」


 アルはオルキトの忠告を無視してその場から姿を消す。


「あっ、ちょっと待ってください」


 どこかにでも掠ればいいと、さっきまでアルが座っていた場所に飛び込むオルキト。


「……あれ?」


 しかしその腕は空振りして、テーブルの下も確認したがなんの手応えも無かった。


「ご飯の代金は置いていったからもう出てってるみたい」

「いったいどういう手で……すみません、コトハさん。失礼します」


 オルキトは目に見えぬアルを探して急ぎ足で店内を去っていった。


「俺って仲間を心配しないような薄情ものに見られてるのか?」

「そもそも見えない」

「へっ、言葉のあやだよ」


 姿だけでなく、新たに実体も消していたアルだったが、コトハはごく自然に会話をしていた。


「オルキトにまで眼帯を着けさせなかったのもそういう理由?」

「咄嗟に気づいたことだけど」


 実はその場にコトハがいなければ、眼帯の実験をするのはオルキトになっていたので振り切ることができたのは偶然であった。


「んじゃ悪いけど、サジンにバレないようにこのままで送ってくぜ。()()()()()()だ」

「……え?」

「気にするな」


 姿は見えないので顔を覆う必要は無かったが、耳まで真っ赤にして悶えていた。

 一晩明け、アルは宿屋に迎えに来ていたオルキトに新しいウラの1本のことをきちんと説明して、単独行動の許可についても交渉する。


「わかるか? 知った仲の人間がクエスト進めてるところを見ていて、なにも話しかけられない辛さを」

「なら恥を忍んで事情を話せばいいのでは?」

「それはだめだ。コトハは仕方がなかったが、最悪ジェネシスに目をつけられてしまっては……その辛さはオルキトがよく知ってるはずだ」

「アルさん……」

「だから決して気まずいとかそんな小さな理由だけじゃない」

「……一応そういう個人的な感情もあるんですね」


 交渉の末、容疑者を見つけたら報告無しに接触しないことを条件に単独行動が許可された。

 そしてアルは昏睡事件の詳細が載っている新聞を買って、その現場を周ることにした。


「犯行はいずれも夜に起きてて、実際に見てみると人通りが少ない場所だな……」


 まだ日の高いうちは拠点で潜伏しているのか、四竜征剣の持ち主に加えジェネシスらしき人物も見つからなかった。


「ギルドの出入りも見ておくか」


 改めて時間帯を変えて様子を見ることにしたアルは冒険者と、それに関連して商人の往来が多いギルドに足を運ぶ。

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