#61 少女の正体と3本目の剣
きっかけは偶然のことであった。
のちのち他の冒険者に被害が出かねないことを考慮して、アルはバリアー・ソクを回収しようとしていた時のこと。
疲れ果てて倒れていたニンナの手をほどこうとするがその指は妙に固く閉じており、創作物
で学んだだけの武術の要領で肘を含む関節を捻れば開くだろうと上腕部を握って軽く力を込める。
「あ、取れた」
手にしていたバリアー・テフが軽くなったので反射的にそう呟いた。
「前腕部もついてきた!?」
露わになっていた球体関節を見て一瞬驚いた後、アルの1つの疑いが確信に変わる。
「やっぱり『人造人間』か」
連続して現れた同じ顔をした4人が人造人間の研究者を追っており、カンナ姉妹が食料の一切を持ち歩いていなかったこと、そしてニンナが文字通り燃料切れのように倒れたという点も気になっていたが、無機質な前腕部が決め手となった。
「完全な人間じゃないからこれも体内にしまえずにいたのか……てか石みたいなの無いかな」
バリアー・ソクをわざわざ箱で収納していた理由を察しながら、アルはそれにくっついていた手の甲を石で叩いて無理矢理外す。
四竜征剣は柄をしっかりと握れば所有権を得られ、アルはすぐに体内に収納。
それから鑑定眼を補える眼帯も回収して、おそるおそるもう片方の腕も外した。
「寝て回復するならいいけどそんなはずないし」
神輿に上がったアルは、籠状に囲われた椅子にニンナを座らせて外した両腕も放り入れると、燃料になるであろうものを探し始める。
すると頭を乗せる部分に不自然なチューブがあり、そこにちょうど当たるニンナの首部分の髪をかき分けると次は人間には通常存在しない何かのプラグ。
「これでしばらく様子を見るか」
それからは思い付きの作戦で、寝覚めの不意をついて命令だけ読み上げさせて口を塞ぎ、腕は外してあるのでしばらく遠くまで向かってもらうことにした。
最低限、燃料供給のチューブはつなぎっぱなしなので必死で猿轡さえ取れれば、放置するだけよりも多少の救いはある。
「俺も帰らないとな。お腹が空いた」
『バリアー・ソク』!!!
ユンニへ戻ろうとしたアルは回収したばかりのウラの一本を抜いた。
『バーウ・アーツ』!!!
「うるさい音声を消化するのもあるけど、俺の予想だとこれなら……」
自らの実体を消し去ったアルはやぶや木々など気にせず最短距離を駆けていく。
初めは腕を目の前で構えていたが、しばらくするとそれは緩み出し、ぱちぱちと目をつぶり出したりもする。
「あー、いいもの手に入れた。冒険者は望んでないけど、こういう体験は気持ちがいいな!」
スリルによるもの、息切れするほど走ってかいたものが混じった汗は気持ちいい夜風ですぐに乾き、そんなアルの気分は爽快なものであった。




