#56 いたずらとコトハの直感
『一応れっきとしたクエストのひとつだし、安全なものにするか』
アルは道端にあった太い枝を拾い、すぐに見えなくさせる。
それから、歩いているレーネを先回りしてそっと足元に置く。
「ひいいっ!? ああ、びっくりした……転ぶところだった」
『くっ、くく……あ、あぶね、こらえろ俺……』
レーネが予想外に大きな悲鳴をあげたのでおかしくなったアルは、地団駄を踏んで土煙を上げないように必死になって、病みつきになる緊張を味わっていた。
『オルキトに感づかれないようにほどほどにしておかないとな』
しばらく定期確認は慎重にしたが、特にオルキトは非常時の筆談もしてこないので、またもアルは辛抱たまらなくなる。
「止まって。少し調査してく」
その日、何度目かのコトハによるクエストとは別の植物の観察が入る。
ウジンにサジン、オルキトは散らばって周囲の警戒、コトハは観察に夢中で、その後ろにいたレーネは格好の標的であった。
「……! ひゃああ! む、虫!?」
「どうかした? レーネ」
「気のせいかな、ごめん。なんか急に首筋がぞくってきて……」
『おー、まさに想像した通りの反応だな』
雑草を巧みに使ったぎりぎり自然さを攻めたいたずらをしかけ、音は伴わないがくすくすと笑うアルであった。
窮屈さに負けてしまっての行動だったが、流石に程度はわきまえていたのでそれ以降、アルはまたしばらくパーティとぎりぎりの距離を保つ。
『ん? あれは……』
パーティが再出発するところで悩ましい場面に直面したアル。
観察の記録を終えたコトハがペンを落としてしまい、誰もそれに気づかぬまま進んでいったのだ。
『見たところ安物だし、オルキトにわざわざ接触するのもな……』
つい手に取ってペンをよく見ていたアルは、もう一度その場に捨てるのもはばかられて、仕方なくメモの用意をした。
「……!」
オルキトは腕を掴まれると体を強張らせる。
アルには余程の非常時でない限りは接触を控えるようにと言っていたので、どんな一大事かと身構える。
「ペンと、メモ?」
『コトハ、ペン落とした。返す。自然に』
要所だけまとめたメモの内容を見て、オルキトは一芝居うつ。
「あれ……コトハさん、ペン落としてません?」
「え?」
ほら、とオルキトはさっきまでコトハがいた場所へ駆けていき、その場で拾ったように見せかける。
「ああ、ありがとう」
『気づかれてない……よな?』
ペンを受け取ったコトハはざっと後方を見ていて、アルはつい身構えてしまう。
「ねえ、オルキト」
「どうかしました? コトハさん」
ペンの落とし物をきっかけにコトハがオルキトのそばに寄っていく。
「今度こそアル君はちゃんと帰った?」




