#51 改善点と別れの挨拶
「あれで終わりですか……」
「気になるところはあったか?」
「いっぱいあります」
「やっぱり?」
観賞後、オルキトの感想は後半に限られた。
「シュウとスレーネが結ばれて終わり。なんですが、姉2人の気持ちを勝手に決めつけてたのに違和感しか無かったです」
「一応最期に思いを寄せてた描写はあったな」
「僕の感性なんですけど、あの場には姉妹のうちどちらか1人の方がそういう表現はぶれなかったと思います」
長女に加えて次女がいたせいで、主人公の後悔が一方に振り切れず半端であったと主張するオルキト。
「というか最悪、最初から姉妹は2人であっても話の進行に影響無かったんじゃないですか?」
物語は基本、主人公が魔王軍相手に無双をしていて、長女と次女はそれぞれで際立った特徴や役割も無かった。
「なんだかんだしっかり見てるじゃないか」
「どうしても気になったので。前半が面白かっただけに今も混乱してます。くたびれた悪魔のハリボテにしもべの衣装であっても演技力で補えると示されたのに、文字通りただの使いまわしをされて悔しくなるほど残念でした」
どうしても評価の対象として見てしまう衣装に対し、オルキトは申し訳なくてため息をこぼした。
「他に気になるところは?」
「あー……そういうのをわかって聞いてますね。アルさん」
作品に改善されるべき点があることにどれだけ気づけているか、アルは期待の眼差しを向けている。
「最期で力を託されたシュウでしたが、転生のきっかけになった恋人のコニーが何も進展無しで終わってますね」
「おお……!」
「……あと説明無しと言えば、なぜシュウだけが姉妹にかかってた魔物になる呪いを解けたか、ぐらいですか。次女が確か、『冒険者に殺されてしまう』と言ってた気がするんですが、その冒険者が他ならないシュウだったのですが」
「オルキト……細かいところもきちんと見てて、本当は初めてじゃないな?」
嬉しくない賞賛に顔をしかめるオルキト。
それから劇場を出た後も話し足りなかったアルに夕食まで付き合うことになり、その頃には外はすっかり暗くなっていた。
「さあて、いよいよ明日はジフォンに帰れるか」
宿までの道中、どうでもいい用事で延期になったのは自業自得です、という気持ちをオルキトはこらえていた。
「寂しいですが、夢を追う冒険者として人との別れは今後も避けられないこと。アルさんを僕の都合で引き留めることはしません」
「ああ、俺の言葉じゃ頼りないけど、そのまま立派な冒険者を目指してくれよ」
「いえいえ。アルさんは特別な存在に変わりないですから」
別れまでの残り短い時間を2人なりに過ごしていると、向かいから通行人がやってきていて、おどけていたアルはつい背筋を伸ばす。
「……目にせよ」
「ん?」
道路の石畳に何かが突き刺さる音が4つ連鎖する。
そしてそれは通行人とアル達を壁のように隔てた。
「お、おお? 四竜征剣の『表』……か」
「アルさん! 下がってください!」
何も無い空間から出てきた見覚えがある4本の剣を前にして、アルはじっくりとそれを眺めていた。
しかし直後にオルキトにより厳しい警告がされる。
「大丈夫だ。これが表の四竜征剣で、そっちは知り合いのブレンだ」
「アルさん、僕がいなくてよく今まで生きられてましたね。本気の殺意も感じ取れないんですか?」
オルキトに弓を引かれていたアルは、それに気づくとばたばたとその場を離れる。
「どういうことだ……ブレン、じゃないのか?」




