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#50 3姉妹と剣の達人

 ざっざっと足音がしてオルキトは辺りを見渡すと、6人いたはずの観客は黄色のネコ耳を着けた熱狂的なファンの男1人になってしまっていた。

 舞台の入れ替えが終わり、照明が点くと真っ白な背景に少年役が横たわっていた。


「目覚めなさいです、シュウよ。目覚めるのです」

「ここは……この声、あなたは誰なんですか」

「私は神様です。若くして病死したあなたと話をするためにこの空間に呼びましたのです」


『微妙に神役の台詞が気になりますね……』


「あなたの恋人コニーなのですが、彼女が命をかけた献身により、あなたの生命が復活をしてしまいましたです」

「それって……俺が生き返れるってことですか?」

「異常な事態ですがその通りです。ただ元の体は既に火葬されているため、別の瀕死である人間の体への転生となりますです」

「そうなのか、コニー……神様、お願いします。俺は彼女の分まで生きたいです」


『強引に感じますが、物語上の動機としてはいいんでしょう』


 創作という前提なのでオルキトは黙って観賞を続け、生まれ変わった影響で剣の達人となったシュウは転生直後に魔物を相手にそれを見せつける。


『さっきのしもべ役が使いまわされてる……』


「しゅっ! ばばばっ! しゅぴっ!」


 口頭による効果音で迫力の無い剣にやられたしもべ役は被っていた衣装を脱ぎ、3人の少女が現れる。

 そして口々に感謝を口にする。


「ありがとうございます。私達は魔王に姿を変えられていたのです」

「冒険者に殺されてしまうかと、ずっと怖かった」

「シュウ様、冒険のお供をさせていただけませんか」


『説明口調ですが、登場人物の気持ちが乗っているので語り口より世界観はわかりやすいですね。それで、これから魔王を討つように話が続くと』


 物足りない殺陣には目をつぶり、魔王軍幹部の撃退を続けるうちにデュランという仲間も増え、いよいよ最後のダンジョンというところでシュウが初めに出会った姉妹の三女、スレーネと別れの場面になる。


「スレーネ、お前はここに残るんだ」

「どうして……私が、私がシュウやお姉様達の足を引っ張ってしまっているからなのですか」


『スレーネは先の戦闘で気づかぬうちに呪いをかけられた。シュウや他の仲間も苦しいですが、言い出せませんよね……』


「シュウ、俺もパーティを降りる。そしてスレーネ! ずっと好きだった、一緒になろう」

「デュラン……ええ、嬉しいわ」


『こういう救済ですか……まあ魔王を倒せさえすれば丸く収まりますし、いいんでしょう』


 迎えた魔王との最終決戦、しもべ役と同様、悪魔のハリボテが使いまわされていた。


「ふはは! 呪いが1人だけだと誰が言った?」

「なに!? くっ、2人を解放しろ!」


 仲間の少女2人を人質に取られ、ピンチとなるシュウ。


「私に構わず攻撃を。これ、最期の力を受け取ってください。それと……ずっとシュウのこと……」

「姉さん、1人じゃありません。私も姉さんが信じたシュウを……いえ、1人の女性として愛していたシュウを信じて力を託します」


『愛の告白とともに命をかけて力を託した。呪いのことは解決して、魔王を討てる力も補えて都合はいいですが、どういう終わりを迎えるのでしょう……』


「私にはわかります。お姉様達はシュウが笑っていてくれることを望んでいますよ」

「スレーネがそう言ってくれるなら間違いない。2人のためにも、俺はスレーネを幸せにする」

「まったく、そこまで見抜いていたなんてシュウには敵わないな」


 デュランの告白はスレーネを戦線から退かせるためと判明し、舞台から去っていく。

 残ったシュウとスレーネが熱い抱擁をすると、舞台の幕が下りて劇は終わった。


「……は?」


 眉をひそめたオルキトからは怒りの混じった声が漏れていた。

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