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#48 信頼と実績の悪習

「なに? 2人して。また面倒なこと?」


 ギルド内のテーブルのひとつにいたパーティの面々に加え、離脱したはずのアルと、冒険者を辞めかけていたオルキトの顔を見つけたレーネの顔は警戒の表情であった。


「いい話だ。オルキトもパーティに加わることが決まった」

「へ? また急な話を……まあ私は反対ではないけど、みんなはどうなの?」

「コトハもサジンも、一般的な冒険者視点を担ってるポジションからも了承は得た」

「ウジンね? 言い回しがくどい……オルキトのことはわかったけど、アルはこれからどうするの?」

「当然ジフォンに帰る」


 レーネが来てギルドにパーティが揃ったのも束の間、一行は港を目指そうと席を立つ。


「コトハ、立てるか? もう少し休む?」

「ああ、私がついておくわ。じゃあねー、アル」

「そ、そうか。アル、何か伝言でも預かろうか?」


 うたた寝していたコトハは無理に動かさないようにして、レーネも上手いことそれにつけこんでギルドで待つことになった。

 サジンはせめてもの気遣いで、できることが無いか尋ねようとする。


「……祭りが来る」

「祭り?」

「ん……むにゃ……」

「って、ただの寝言か」


 一言だけ突拍子もない寝言を呟くと、コトハはレーネの膝に頭を乗せていよいよ本格的に眠り始めた。

 アルは『帰った後できちんと手紙を出す』と伝言を任せていると、ギルドの他の場所からも、祭り、という単語が耳に入ってきた。


「催しがあるなら帰るのはもったいない気がするなー。なんて」

「……知らない方がいいかもね。ユンニ育ちの僕ら兄妹とレーネには馴染みだけど、あんまり誇りではないから」

「悪い意味で有名なのか。……なんか気になるが、いかんいかん」


 意味深なやり取りが広がって無駄に時間を割かれないように、アルは胸に詰まった不快感を腹に戻してウジンに港までの案内を依頼した。

 滞在中はギルドを中心とした生活だったので、冒険者より地元住民の割合が多い港近くの光景は目新しく興味を引かれたが、人混みの中でアルははぐれないようにウジンの後にぴったりとつく。


「『黄色のネコシアター』でーす。公演は今夜、よかったらどうぞー」


 道中、黄色いネコ耳の飾りを着けてチラシを配っている女性がアル達に近づいてきた。

 ウジンとサジンはうつむいて足早に去っていき無視。

 アルは押しつけられたのを受け取り、オルキトはアルが手にしていたのを覗くようなふりをして無視した。


「……さっき言ってた、悪しきユンニ名物だよ。土産になればいいけど、捨てるのに困るなら僕が引き取っておこう」


 チラシを持って震えていたアルだったが、ウジンは特に驚いている様子ではない。


「伝統は尊重しつつ現状に甘えず前衛的、老若男女問わず絶賛の声続々、あの巨匠も認めたと言われているユンニの誇り……はあ、胡散臭いうたい文句ですね」


 赤や黄色などの目が疲れる配色のチラシには、年齢と性別を添えてある絶賛の感想が入った吹き出しが散りばめられ、黒塗りのシルエットは長い評論の中で『参った』や『感服』を連発している。

 オルキトが内容の半分も読まずに呆れていると、アルもくすくすと笑い出していた。


「帰るのはまた明日にする」

「アル!? なにを言って……興味はそそるだろうけど絶対に後悔するぞ」

「平気だ。『黄色のネコシアター』……ジフォンの出張公演は欠かさず見てるし、本場を見られるなんて光栄だ」

「あっ……もう手遅れの人だった……」


 ウジンは顔を横に振ってサジンと合図を交わし、それ以上の説得は諦めた。

 そしてアルのことはオルキトに任せて、サジンとともに来た道を引き返していく。


「……よかったんですか。帰れる機会だったのに」

「事故とは言えユンニに来たんだし、思い出のひとつくらいは作っても罰は当たらないさ」


 アルは結局、港の場所だけ見ただけで宿も新たに取り直し、夜の公演に向けて支度をしていた。

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