#45 ハンナとアルへの救済
「アルさん……そんな、ジェネシスだったなんて……僕を騙していたんですか」
「まあな。ただせめてもの手向けで、死んだことを隠すことなくユンニで冒険者を続けられるようにしたのは感謝しろ。話していた通り、姿を消したフリだと目撃情報とかで追手が出されたり、そもそも獣人の鼻はそれを見抜くからな」
「くっ、なんという仕向けを……」
「じゃあな。ハンナも無事にしておいた神輿のまま、さっさと撤退をするように」
「そうか、僕としたことが足になる獣人を見逃していた……」
無事にオルキトの方も、自然さを心がけてフォローを済ませたアル。
そのまま演技がばれないうちに敵のままであるハンナから距離を置こうと足早に去ろうとする。
辛そうに膝をついていたオルキトに早く事情を説明したくて、そのために一瞥もくれずにいたところ、アルの脇を矢が通り過ぎた。
「お、おいおい。これ以上俺に関わらない方が……」
「アルさんからの最後の手向けへのお礼です。せめて背後から撃たないよう、警告しました」
オルキトは唇を噛んで冷静さを保ち、次の矢を装填している。
「何を……」
「アルさんは僕の手で救います。そして僕も死にます」
「早まるな! 本当に!」
ばたばたと鞄に上着を放り捨て、揺れて落ちていくその陰に隠れながらアルはバリアー・シーで姿を消す。
狙い通りオルキトは、わずかの間落ちたままでいた上着のみに注目していた。
「姿を消しましたか……」
「あ、あれ? 私はどうすればいいんだ?」
「ハンナ、あなたも見逃すわけにはいかないです」
同じくアルに騙されているハンナがおろおろしているうちに、オルキトは4体いた獣人のうち1体の頭を射抜き、担いでいた神輿はぐらぐらと揺れた後でひっくり返った。
「うええ……こ、ここは私より、あのスパイの安全を優先だ。1体は私、残りは急いで後をついていって護衛しろ。以上、てったーい!」
「なるほど。どうしてもあの四竜征剣を……いや、これはむしろ好機では……?」
ハンナの命により獣人が2体、姿を隠していたアルの匂いと足音を辿って後を追っていく。
『馬鹿かお前らは……居場所を見せつけるんじゃないよ』
アルは迫ってくる危機に対し、ポケットから手袋を引っ張り出すと、進行方向とは逆に投げ捨てる。
匂いが分散して2体とも混乱して狼狽えていたところ、アルは念押しの細工にも手を出す。
『バリアー・テフ』!!!
『……! 登場音の消化を忘れてた!』
「そこですかっ!」
オルキトの矢は、音に驚いて間抜けに転んだアルの頭上を通過していく。
不注意で音を出して居場所を教えてしまい、驚いたおかげで転んで避けられたが、もしも命中したら灰となってそこらに散っている獣人と同様に致命傷は確実だった。
『報告をしてもらわなきゃいけないハンナは撤退を始めてるようだし、目的自体は達成した……やり過ぎた自覚はあるし、ちゃんと償うか』




