#38 教訓と金髪の冒険者
ウジンによると手紙を届けた際、アルについていくつか聞かれたそうだが、バリアー・シーの『見えなくなる能力』が具体的に挙げられなかったそうで、レーネも特に失言をしていなかったらしい。
加えて、鑑定眼による取調も実施はされなかったと言う。
「『マスター』なんて呼ばれてたし……偉い人だったりするのか」
魔法使い、『マスター』のことを頭の片隅に置きながら、アルは本題を切り出す。
「後で合流するけど、レーネをパーティに入れるのは賛成だ」
「私も」
「だから俺は帰る」
「まだ待とうね?」
アルはばたばたと、立ち上がってはコトハに座らされる。
「そうか。ユニオンも抜けてコトハにとってもいい機会だったね」
「そうだ! ユニオンと言えば、ウジンに言っとくことがあった!」
「お、おお?」
「俺のことはしょうがないとして、レーネの情報がでたらめだったじゃないか。コネで入れてもらっただとかきっとただの噂だ。なあ、ウジンってそういうところあるぞ」
「う……けど、アルが僕の立場だとしたらどう言ってた?」
「ああ、冒険者としての教訓にする」
「でも冒険者は辞めるんじゃ……ああ、そういう冗談か」
ウジンはコトハの反応を見て、ひとつ遅れて意味を理解すると苦笑いをした。
「おーい。コトハー」
「ん? レーネか?」
「あれ、待ち合わせってギルドじゃなかった?」
店内にコトハの姿を見つけたレーネがアル達に駆け寄ってきた。
家からギルドまでの通り道だったようで、レーネのパーティ入りの相談はあっさり済んでいたので、話の続きはそのまま店内ですることになる。
「すみませーん。注文を……って、オルキト。なんでここに?」
「オルキト?……あっ」
入店した時とは別の、レーネの知り合いらしい店員にはアルも見覚えがあった。
獣人を引き寄せる射手と呼ばれていた金髪の冒険者だ。
「こんにちは、レーネさん。僕は従業員としてここで働いてるんです」
「けが? それともいいクエストがなかったの?」
「……いえ、僕はもう冒険者を辞めるつもりでいて……故郷に戻るお金を貯めてるんです」
苦笑いをしていたオルキトは、アルの視線に気づいて慌ててメモを取り出した。
「注文でしたね」
「なあ、レーネ。少しオルキトとの話を聞きたいんだけど」
「はい? 僕ですか?」
「もちろん仕事が終わってからでもいいけど」
がらがらの店内を見たレーネは、問題無いでしょ、と言ってオルキトへ店の方に確認をさせ、すぐに了承が出た。
「オルキトと申します。レーネさんとは冒険者の姉を通じて知り合いなんです」
「誰かしらと付き合いがあるなら疑う手間が無いから話も進めやすいな」
「ど、どういうことです……?」




