#37 特別クエスト 怪盗団の捜索
衛兵に連行された日の夜、アルが宿屋で散らかった荷物を片付けていると扉がノックされる。
「アル君。何かあった?」
連絡無しで消えたため不審に思ったのは当然で、ぎりぎりまで迷ってコトハを部屋に入れた。
「手紙のことで衛兵に連行された。証拠は無かったからこの通り帰してくれたけど」
「おつとめごくろうさま」
「それで俺のせいではあるが、コトハとレーネもたぶん疑われてる。手紙を預かっているか、バリアー・シーを預かっているかで」
「……手紙はわかるけどなんでバリアー・シーまで?」
「レーネと同じで鑑定眼まで出してきた」
「押収されてないなら、どこに隠したの?」
「天井」
ぴっと人差し指を立てたアル。
「見えなくして詰所の天井に突き刺してある」
「剣だからできたんだね」
「ああ、向こうは何も知らんらしい。回収も窓から覗けば体に戻せる」
万が一に備えてあって難を逃れられたアルだが、それはあくまで一時的なものに過ぎない。
コトハと接触するのもリスクがあったが、今の事態を打破するために仕方がなかった。
「手紙とその犯人を偽装する。内容は俺しか知らないから何が書いてあっても大丈夫」
「犯人……罪の無いはずの誰を陥れます?」
「へへ、ちょうどいいのがいる。……もちろん倫理的に正しい人選だ」
「盗人の口がなにを」
「それじゃあ特別クエストを依頼する」
2日後、アルとコトハ、ウジン兄妹の姿はギルドではなく、人通りの少ないさびれたレストランにあった。
「お手柄だったな。復帰早々、盗難事件を解決だなんて」
集会の前日、ウジン達は怪盗団によるギルド内の郵便物盗難事件を解決していた。
「アルこそ風邪は平気か?」
「ああ、サジン。いい報告を聞けたら元気になったよ」
「確かに顔色はいいな」
アルはサジンに晴れやかな笑顔を返した。
「無事にしかけが上手くいった……」
遡ることアルが連行された夜のこと、特別クエストと称した依頼は、その場ですぐに実行された。
重ね着をして体格をごまかし、アルの上着を着たコトハはなるべく目撃情報を集めるよう、宿を出て辺りをうろつく。
宿屋にあったドアストッパーを芯にしてそれぞれの靴に布で巻きつけて身長も多少偽装させた。
「目撃情報があるなら、満室だっていう宿屋の客まで調べるかというと俺だったらサボる」
「凶悪事件でもないから……そうなればいいけど」
その間、アルは別の服で詰所付近まで戻ってバリアー・シーを回収。
途中、上着を裏返しにして着替えつつ大急ぎで閉まる前のギルドへ戻り、姿を消してはがき大の『予告状』をそれとなく目立たないテーブルの一角に置いて、そのまま連日訪れていた森まで向かう。
『予告状の余り、左手で書いた手紙と、封筒らしきものを燃やした痕跡をこの神輿に残す、と』
一通り仕事を終えた後、アルは姿を消した状態でコトハをサジンがいる宿まで送り届けると、もうすっかりくたくたであった。
「明日はレーネ、ウジンとサジンでクエストに出てそれっぽく神輿を見つけてもらう」
「前のクエストの記録で、アル君と関係があるのはすぐにわかるし結託を疑われたりするかも」
「……それは結果次第だな。鑑定眼自体はケアせずとも無罪なのは確定してる。衛兵がそれだけにとどまらず剣とその能力に気づくか、ウジン達がそれを察して隠してくれるか」
そうして悩んだ夜は明け、無事に手紙盗難の罪はカンナ姉妹に押し付けることに成功したアルであった。




