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#36 衛兵とマスターの取り調べ

 宿屋で衛兵の1人とは別れたが、詰所にある1部屋に着くまで衛兵の監視の目は離れなかった。


「少し準備をするからここで待っていろ」


 アルは所せましと書類箱が積まれた部屋の、後から置かれたであろう小さな椅子に腰かける。

 足音で衛兵が廊下を去っていったことを確かめると深くため息をついた。


「処分しといてよかった……さすがコトハ」


 宿屋を調べようがこれからされるであろう身体検査でも、既に証拠は存在せずアルを捕まえることができない。

 後はしばらくボロを出さないように耐えるだけだと言い聞かせて、落ち着かない足で格子窓の方に近づく。


「手前と奥で2層にして幅を持たせ、たとえ紙でも丸めて捨てたりできないようになってるのか」


 薄い紙を丸めて手前の格子を抜けても、奥に行くまでにふたたび先端は開きどうしても途中で止まってしまう造りだ。


「しかしそうか。武器を持たずにふらつくと目立ってしょうがないのか。あーあ、帰るだけだし無駄なもんは買いたくないんだが」


 すぐ終わる予定でいる冒険者生活、保険として適当な武器を手にしておくべきか考えながらアルは衛兵の帰りを待っていた。


「出ろ」

「ああ、はい」

「ここだ」

「近いな。っと、なんでもないです」


 衛兵に案内されたのはすぐ向かいの部屋で、本音が漏れてしまったアルは口をつぐんでその場を取り繕う。

 取調室はついさっきまでいた部屋と同じ広さだが、書類箱は無いのでその分広い。


「荷物は置いて、身体検査もする」


『来たか。手帳にはあの手紙の住所は控えた。が、俺にしかわからないアナグラムでジフォンに見せかけたものにしてあるから安心だ』


 アルはなされるがまま荷物を預けて、身体検査を受けていると部屋の扉がノックされる。

 衛兵が扉の先から招き入れたのはフードで顔を隠した人間で、体格からして女性であった。


「アリュウル・クローズ、ここに座れ。マスターもそちらへ」


 アル、そしてマスターと呼ばれた女性は部屋の真ん中にあるテーブルを挟んで着席した。

 取調なら今までの衛兵よりももっと屈強で厳つい者がやってくると予想していたアルは、別の意味で緊張していた。


「では……鑑定眼発動」

「……!? ま、魔法……?」

「私の前に隠蔽は無意味……あ……れ? ただの何でも屋……?」


 フードの魔法使いは静かに立ち上がり、ずるずるとゆっくり椅子を戻して何か時間稼ぎらしきことをして、それからそそくさと取調室を後にした。


「……荷物の方がもう少しかかる。元の部屋に戻っていろ」


 荷物を漁る手が乱暴になっている衛兵を横目にアルは取調室を出る。

 待機のための部屋に戻ると埃っぽさを感じ、何者かが出入りして部屋を漁った様子が伺えた。


「まさか鑑定眼まで使われて部屋まで調べ尽くされたか……ごほっごほ……」


 アルは帰り道、後方を気にしながらギルドには寄らず宿に帰った。

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