#33 消滅とジェネシスの反応
アルは姿を消さないまま獣人を引きつけて、レーネが待ち伏せしている場所まで辿り着く。
「レーネ、後は頼んだ」
「うん。『サンダ:ウェイブ』」
獣人の群れにカンナ達の姿が無いことを確かめたレーネは容赦なく、洪水のような雷をもって辺り一帯を瞬く光と轟音に包んだ。
「残りの獣人の痕跡も回収しようか」
アルが敵地で調査をしていた間、1体目の獣人が残した灰と装飾品はコトハが回収していた。
もともと討伐対象だったツチオオカミ用だったが緊急事態だったので仕方がなかったのだ。
「あの子は? まずあの子を助けないと」
「返事によっては見逃てやる。ネラガに行くなら止めはしないけど」
「へー、ネラガまで行くつもりだったんだ」
「話をつけてくる」
その場を離れようとするアルだが、レーネが『私も』とその腕を掴む。
「レーネには残って処理の続きを手伝って欲しいな」
「……いいぞ、コトハ」
コトハに手を回してもらったアルは1人、カンナ姉妹のもとまで戻る。
「あー! 戻ってきた! ていうことはまた獣人を……」
「追手も無いし、あれで全部だったらしいな」
「……別に私のではないからいいけど。な、なによ!」
カンナ姉妹はまた取っ組み合いの喧嘩が始める。
「くっ、ダースクウカが無い今、無理をした……ううっ」
「なんだ? 奴の体が徐々に消えていく……」
「後はネラガに向かったブレンに全て任せよう。俺はもう少しで消えるからもう痕跡は残らない」
「な、なに。消えるというのは命をかけたというのか」
「あ、ああー」
アルは言いたいことを残して、最後は駆け足気味に姿を消した。
『さて。ちゃんと逃げ延びて、俺が言った適当なことを報告してくれよ?』
「報告は私がする。……交渉だけど、あの冒険者は自滅じゃなくてこっちが始末した、で話を合わせてくれない?」
「あっ、せこい。自分だけ評価もらう気だ」
「助けて借りがあるでしょ。それにそっちも、リワン村のドジは『改良型が勝手に壊れた』でごまかせば評価はそんなに下がらないはずよ」
「……なるほど。アンナも証言すれば信憑性もある。そうだ、なら今回のことも獣人は全滅じゃなくて1体は逃げ出したって言ってあげる」
「おお……さすが私の姉妹。いいアイデアだ」
「よし。じゃあ詳しく打ち合わせするか」
カンナ達は目立っていた神輿のそばを離れ森の奥へと去っていった。
『ジェネシスか……思ってたよりあほな奴等で助かった。コトハ達は獣人しか気づいてなかったから今後も無事だろうし、俺も死んだ扱いになるっぽいな』




